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『霊能者、って言っても、普段はカフェ経営してる人だから、気軽にごはん食べに行くつもりで――』
――コンコンコン。
扉のノック音。僕は慌てて、スマホの音量を全て下げた。丑師が何かまだ喋っているようだが、何を言っているのかは分からない。
「――ごはん、食べてるの?」
母さんの声。バクバクと心臓が激しく動く。
食器を取りに来たんだ。
もう、そんなに時間が経っていたのか? それとも、僕が、母さんを怪しんでいるのが伝わってしまって、確認に来たのか?
普段は声なんか、かけてこないのに、と思う反面、僕が体調を崩したとき以外、すぐにご飯を済ませないことがなかったな、と思い出す。怪しんでいるから様子をうかがうようになったのかは、結局分からない。
偽物だと気が付いていることがバレたら死ぬ。
先ほど、丑師が言っていたことが頭をよぎる。
大丈夫、扉の前にいたならまだしも、ここなら聞こえない。音量を落としたし、万が一音が漏れたところで、何を言っているのか、詳細までは扉を抜けないはず。
まだバレてない、と自分に言い聞かせる。
「ま――まだ。ゲームが、いいところだったから、これから、食べる……」
実際は一口も口にしていない。机の上に置きっぱなし。というか、食べるつもりもない。
それでも、当然、本当のことを言うわけにはいかない。
「……そう。じゃあ、また後で取りに来るからね」
そう言って、音もなく、母さんの声はしなくなった。多分、階段を下りて行った……はず。あのせわしない足音は聞こえない。
僕はそっと、扉に近づき、耳をくっつけた。扉の向こう側から、何か物音が聞こえるということはない。
ドアを開けて確認してみても、そこに母さんはいなかった。
僕は部屋へ戻り、スマホを再び手にする。
音量を切っているので、何を言っているのか分からないが、コメントを見る限り、何か食べ物の話をしているようだ。
……そういえば、その、件の霊能者とやらはカフェをやっているんだっけ? なら、そのカフェのメニューの話だろうか。
――カフェ、か。
今の僕の状況じゃ、その場所へとたどり着けない。カフェの店長ではなく、霊能者として、家まで来てもらわねばならないだろう。
「…………」
霊能者を呼んだところで、本当に母さんたちが、その、ぎぃか様とやらによって生まれた何かであるとは、限らない。
そうだよ、仮に呼んだって、母さんたちのドッキリだったら、それでいいじゃないか。警察みたいに、馬鹿みたいに怒られることも、何か法律に触れることもない。霊能者の相談料がいくらかは知らないけど、金があれば話は聞いてくれるだろうし。
こんなの、霊でも何でもないですって鼻で笑われるために、相談をしよう。もしかしたら、これは霊の仕業ですから除霊のためにツボを買ってください、とでも言われたらそのときはまた考えればいい。
母さんが本物だったとして、今更何を思われようと、僕の価値がこれ以上、落ちることもない。引きこもりニート歴が二十年になるんだぞ。
――誰でもいいから、この場に来てほしい。
とどのつまり、僕の一番の願いは、それだった。この現実を受け入れたくない、という考えよりも、心細い、という不安が勝った。
誰か、は霊能者みたいな胡散臭い人じゃない方がよりいいけれど。
一生ここで、母さんにおびえて暮らすわけにもいかないのだから。




