22
ガタリ。
大きなその物音が、僕自ら、丑師の言葉に驚いて机に脚をぶつけた音だと気が付くのに、一瞬遅れた。
「――ッ」
僕は部屋に入って、比較的近くにあった、机に食事の盆を置き、そのままスマホをいじり始めて丑師の配信にまでたどり着いた。
つまり、扉から近い。
薄い扉だとは思わないけれど、反対に、防音がしっかりしているものでもない。
――廊下に立っていれば、多分、聞こえてしまう。
その事実に気が付いた僕は、慌てて扉から離れる。部屋の入口から一番遠い、対角線上にある部屋の隅にまで急いだ。テレビゲームやこたつがあるそこは、ちょうど扉をふさぐためにカラーボックスを動かした場所がぽっかりと開いている。
僕はそこへ逃げ込んだ。
こたつの上にスマホを置き、音量を最小限にしながらイヤホンを探す。確か、この辺りにあったはず……。カラーボックスのあった場所の隣、物が乱雑に床の上へと直接積み上げられ、山のようにになっているところを探る。
字幕のない配信は、音を消して内容を理解することができない。本当なら、何の音もしない方が、一番安全だとは思うのだが。
『本当なら、血縁者とぎぃか様を行った人、依り代を触った人の三パターン以外は、偽物の家族には気が付かないんだけどね』
ちらちらと扉の方を見ながら、母さんの偽物に聞かれていないかハラハラしながら僕は部屋をひっくり返す勢いでイヤホンを探した。
もしかしたら、僕が食べ終わったかと思って、食器を取りに来るかもしれない。その前にイヤホンを使って配信を視聴しないと……。
焦れば焦る程、目的の物は見つからない。
クソ、こんなことなら、もう少しちゃんと部屋を片付けておくんだった……! 中学生の時のテストが出てきて、僕はそれを丸めて投げ捨てる。本当に、悪い意味で、この部屋は昔から変わらない。
『でも、何かの拍子で偽物だって気が付くこともあってさ。そういうときは、殺されるって話。――え、ああ、そのパターンもあるよね。仲間にしちゃう奴』
僕の気も知らないで、丑師は淡々と話を進めていく。向こうは向こうで、僕の状況を知りえる術がないのだから、僕が見ていると思って、コメントを拾いながら話すのは当たり前なのだが。
イヤホンはなかなか見つからない。……使っていたのは高校時代だったから……もしかして、覚えてないだけで壊れて捨てたのか? 二十年も使っていないから、記憶があいまいだ。
『せっかくなら、あたしの知り合いの霊能者、教えてあげようか?』
……ピタリ、と僕はイヤホンを探す手を止めて、スマホを持った。あまりにも、非日常的なワードを耳にしたから、つい。
――霊能者。
本当に、そういうのって、効果があるのか?
どんどんとホラー漫画みたいな展開になっていくのに、僕は彼女への不信感が募っていく。
――いや、彼女をおかしいと思っているというより、まだ、この現実を受け入れられていない、という方のが正しいかもしれない。
霊能者だの、霊媒師だの、そういう、行きつくところまで行きついたら、僕はこの現状を受け入れねばならないから。
頭では、もうどうしようもないと分かっていながらも、感情では、僕の勘違いや、僕を働かせるための両親のドッキリなど、そういう、もっと現実的なものを諦めきれないでいる。




