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僕の送ったコメントを読み上げていく彼女。全て読み終えると、『やっぱぎぃか様かなー』と考えこむような声を上げた。
『皆覚えてる? ぎぃか様』
僕の焦りとは裏腹に、のんびりと彼女は雑談を始める。幻覚だなんだのと馬鹿にされることはなかったけど、僕の話を全て信じたわけではないようだ。本当に僕の家に、母さんの偽物の何者かがいるとは思わず、ネットで拾ってきた怪談ネタを話題として提供した、とくらいにしか考えていないのだろう。
腹立たしい気持ちもあるが、ここまで散々ネットで情報を探して見つけられなかったのだ。話をとりあってくれるだけマシだと思って、辛抱強く情報を待つしかない。
彼女の言うぎぃか様は、一時期ネットを風靡したようで、僕以外の視聴者は全員知っているようだった。
『ま、知ってる人がいても、何度でも話したくなるよね。ある種の伝説じゃん、あれ』
――伝説。そんなに有名な話だったのか?
二十年近く引きこもって、偏った情報しか手に入れてこなかった僕は、浦島太郎のような状態になっていると言っても過言ではないのかもしれない。しかも、触れてきた情報のほとんどがゴシップで、何か有益な知識になるとは思えないようなものばかりだったから。世間に取り残されても仕方がないのか。
『んー、どこから話そうかな……。ぎぃか様っていうのはね、とある宗教のおまじないの名前なんだよ』
「宗教……」
なんだか一気に胡散臭くなった。
しかし、今、僕の身に起きているのは、現実では考えられないような不可思議なものだ。いっそのこと、こういう情報が一番真実に近いのかもしれない。
『しんかホーム、っていう宗教団体があってね。信者同士で理想の家族になる、っていう感じの奴だったかな。当時DVとか毒親とか、それ関連の事件ばっかだったから、それきっかけで作られた宗教だったのかもね』
当時、と言われても、それが僕には何年前のことか分からない。……引きこもりで外に出ないとしても、僕はもっとニュース情報に触れてくるべきだったか。
しかし、懐かしい、と彼女が言ったくらいだ。少なくとも、ここ一、二年の話ではないだろう。
『最初は毒親とか、暴力をふるうパートナーとか、そういう人たちが集まって、家族ごっこをしたり、人によっては結婚までいったり、あんまり怪しい感じの団体じゃなかったんだけど――あるときから変わっちゃったんだよね』
ふ、と彼女が少し間を置く。コメントの流れも悪いからか、一瞬、時が止まったような気がした。
『理想の家族になるんじゃなくて――理想の家族を造ろう、って』
つくる。
家族をつくる。それは普通の表現のはずなのに、彼女の声音は、結婚して家庭を築く、そういう言い方ではなかった。




