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『それで、そのとき――』
これと言って特徴のない声で、バーチャル配信者――丑師の話が聞こえてくる。最初から聞いていたわけではないので、具体的な話は分からないが、怪談を披露しているらしい。
画面の右側で、バーチャル配信者特有の動くイラストとは別に、下部分に文字が流れている。
――チャンネル登録、高評価よろしくね。気になる怪談や実体験な怖い話募集中!
その文章を見たとき、僕は少しだけ、救われた気分になった。
何一つ問題は解決していないが、少なくとも真面目に話を聞いてくれそうな相手を見つけた。たまたまこの人が配信をしていてくれてよかった。
さらに幸運なことに、僕が画面を開いてから数分で今話していた怪談が終わったようで、感想なんかを視聴者と言い始めた。視聴人数が少ないからか、全員が全員常連らしく、新参者や部外者のいない常連のみの場特有の雰囲気を感じる。
正直、入っていきにくい。普段なら絶対にコメントをしないだろうが、今はそんな場合ではない。
【今、明らかに偽物の家族がいて、】
「あっ……」
配信動画にコメントを送ることに慣れていない僕は、途中で文章を送信してしまう。
『偽物の家族? あっ、初見さんだ、珍しい! いらっしゃいませー』
それでも、丑師には届いたようで、コメントを拾ってくれた。彼女の、僕のコメントを読み上げた声がスマホから流れる。
僕の、いかにも初期設定そのままな、数字とアルファベットがランダムに並ぶユーザー名は、今コメントを流している人の中では酷く浮いていた。
けれども、視聴者側も僕を排除する気はないようで、【初見さんいらっしゃい】【続き聞かせて】と、受け入れる姿勢みたいだ。
僕はなるべく話を簡潔に、そして、幻覚や幻聴の類だと思われないように文章を考えながら打ち込んでいく。
今度は途中で送信しないよう、不自然に切れないよう気を付けていると、微妙な間が開いてしまう。
その間を埋めるように、丑師が話を続けた。
『偽物の家族って言えば、あれかなー。ぎぃか様。懐かしいよね、昔流行ったじゃん』
……ぎぃか様?
全く聞いたことのない名前だ。
それにしても、偽物の家族、というたった一つのワードだけで、ピンと来てしまうなんて。
もしかして、彼女なら、あの、母さんの真似をしている何かの正体を知っているのでは、と期待してしまう。
家に人間ではない何かがいて、家族の代わりをしていること。
生きている人間がいるとは到底思えない家になっていること。
簡潔を意識しながらも、少しでも多く、情報を書き、コメントを送信した。




