アンドロイド⑤
「ねぇ奏多……」
「ん?」
「あの歌、歌ってくれない?」
「いいよ」
静かな部屋に奏多の甘く優しい声が響き渡る。
私たちは手を繋ぎ、すでに暗くなってしまった部屋の片隅に座っていた。
歌う彼の横顔を見上げると、月明かりに照らされて白い肌がより一層キラキラと輝いていた。
父を想う時とはまったく違う感情と胸の苦しさは、未だに原因は分からない。
ただひとつ言えることは、奏多は私の中でとても大きな存在で失いたくないということだった。
「死ぬって何なんだろう……?」
「さぁ……? 僕でいう所の壊れるってことなのかな……?」
「私もいつか死ぬんだよね?」
「……どうして?」
「だって薬を飲んでるのに胸の苦しさは増すばかりよ? きっとお父さんのように、いつか死んでしまうのね……」
「君は本当に全てを忘れてしまってるんだね?」
「どういうこと?」
奏多の意味有り気な言葉に質問をしてみたが、彼は黙ったまま何も答えることは無く、天井をボーッと見上げている。
「奏多、あなたは不思議な存在ね……」
「そう?」
「時々、奏多がアンドロイドだということを忘れてしまう程に人間らしく感じるの」
「それは君の情報を全て僕が取得しているからだよ……?」
「情報を取得……?」
「そう」
奏多は見上げていた天井から視線を私の方へ真っ直ぐに向けるとニッコリと笑った。
だけど彼の言っている意味が分からず、ただ黙ったまま見つめていると、彼は繋いだ手を持ち上げ私の目の前にかざした。
「僕たちアンドロイドは、必要な情報を得る度に成長していくんだ。
そしてそれは開発者でさえ予想だに出来ない程に……
自分が何者かも忘れてしまうぐらいに君は膨大な量の情報を取得していたんだね?
杏里、君と情報を交わす度に僕も自分が何者か忘れてしまいそうになるよ……」
「僕たち……?」
一体彼は何を言っているの……?
僕たちって……?
「杏里、君は僕と同じアンドロイドなんだ」
奏多の茶色い瞳がまっすぐ私を見つめる。
部屋の中を照らしていた月は雲に隠れてしまい、さっきまで見えていた奏多の茶色い瞳が暗闇に消えた。
それと同じように奏多の言葉によって私の心も暗闇へと消えていった。




