アンドロイド⑥
「嘘っ! 私がアンドロイドだなんて!」
「どうしてそう思うの?」
「だって……! 私はお父さんの娘で……記憶だってあるし!」
「その記憶っていうのはいつからあるの?」
「いつから……?」
その時、私の視界を邪魔していた雲が途切れたのか、月明かりがまた部屋に射し込み奏多の顔を照らし始めた。
奏多の瞳は変わらず私をまっすぐ見つめている。
その瞳に言い返す言葉を考えてみたが、記憶のあちこちにノイズが入って思い出せない。
「私は……」
「杏里……?」
不思議そうに首を傾げて私を見つめる奏多の視線を振り切るように立ち上がり、部屋を飛び出した私は地下の部屋に行き、机の中の物を全てひっくり返した。
するとゴトンと鈍い音を立てて古い木箱が床に落ち、私の足元に転がった。
その木箱はかなり年季の入った造りで、小さな鍵が掛けられている。
まさかと思いつつ、その木箱を持ち上げ一気に床に叩き付けた。
大きな音を響かせ蝶番のネジが弾け飛んだと同時に、中から何枚もの紙が床の上に散らばった。
「こ……これ……」
震える手でその紙を拾い上げると、奏多の物とはタイプが違う『アンドロイド』の設計図が描かれている。
古い年月の時に作られたであろう、そのアンドロイドは奏多のように太陽光を吸収して維持するのではなく、カプセルの中に入った強化液を毎日補充することにより可動させるタイプのアンドロイドだった。
つまり私が毎日飲んでいたのは……
「杏里……」
後ろから呼び止められ、驚いた私が一瞬身体をビクッとさせ振り向くと、心配そうな表情を浮かべた奏多がドアの入り口に立っていた。
「奏多……私……やっぱりアンドロイドなの?」
私の質問に奏多は声を出さずに頷く。
「そうなんだ……」
小さく声を零した途端、奏多が私の所まで歩いてくると私の身体を強く抱き締めた。
「どうしてそんなに落胆してるの? 君にとって人間であることがそんなに大事なことなの?」
「それは……」
「僕たちアンドロイドは確かに機械かもしれない。
だけど君は父さんとの生活で得たものが沢山ある筈だよ?」
「得たもの……」
「そう。君から情報を得ている僕だからよく分かるんだ。君を守りたい、大切だと想う気持ち。
この胸の苦しさ……そして……君の瞳から零れる涙は、君が全部経験をして取得した大切なものなんじゃないのかな?」
奏多は優しい声で囁くと、抱き締めた腕の力を緩め、私の頬に流れた涙をそっと拭ってくれた。
私を見つめる奏多の穏やかな表情は、亡くなった父がよく私に向けてくれていたものと重なって見え、そこには『人間』と『アンドロイド』には特別な差は無く、何ら変わりの無いものに思えた。
「確かなものはここにあるんだ」
奏多は自身の胸と私の胸、それぞれに手を添え微笑んだ。
「奏多……!」
私は奏多の言葉に、胸の中で引っ掛かっていたものが全て溶け出し、まるで春のような心地良さを感じた。
溢れる涙は止まることなく流れ落ち、ポタポタと床を濡らしていく。
そんな私の身体をまた両腕で抱き締めた奏多の胸に頬を寄せ、私はとても幸せな気持ちになった。
「ありがとう……」
「杏里……お礼を言うのは僕の方だよ? 君に出会えて大切なものを教わった。
やっぱり君は僕の宝物だよ」
「奏多……」
見上げるといつも通り奏多の顔は美しく、そして茶色い瞳がとても魅力的だった。
そんな彼の頬に手を触れ、初めて私は自ら奏多の唇に自分の唇を重ねた。
私たちは『アンドロイド』
だけど人間と何も変わらない……
私たちは情報を交換し、この胸の苦しさの意味を知った。
私たちは『アンドロイド』
私たちは大切な心——。
そう『愛』を知っている。




