10話目
気不味い空気と母親から逃れる様に登校した後。涼介が席で暢気にスマートフォンで音楽を聴きながら漫画を読んでると、視線を複数感じた。
その視線の内の1人は昨日の昼、穏便に話した相手である芦屋 里奈。彼女は涼介と涼介の背後で好奇心露わに辺りを見回すドゥマに釘付けとなっていた。
そんな彼女を他所に涼介は首周りの凝りを癒す様に回し、もう1人の視線の主を然りげ無く一瞥して確認する。
視線の主は帰国子女であり、白人の父親とのハーフでもある小柄な少女……ガブリエラであった。
彼女の視線に脅威と警戒を感じ取ると、涼介は気付いてない振りを演じながら塚地へLINE越しに尋ねる。
『ガブリエラも裏関係か?』
そんな文面を送ってから30秒後。
塚地から答えが返って来た。
『ヴァチカンのエクソシスト。ヘルシングの13課みてぇな所の所属。外資系の退魔師と思えば良い』
簡潔明瞭な返事が返って来ると、涼介は視線は向けて来ないが、帰還した翌日。即ち、一昨日見た瞬間に違和感を感じた少女に関して尋ねる。
『時逆 千雨は?』
時逆 千雨……普段は物静かなボッチをしてるポニーテールの少女の事を問えば、塚地から答えが返って来る。
『ソイツはデストロ016とか246に出て来る様な武装JK。面倒な飼い主の紐付き。関わりはあんまり持たん方が良い』
そんな答えが返って来ると、涼介は呆れ交じりにボヤいてしまう。
「ウチのクラスは人外魔境なのか?」
そう独り言ちると、涼介は漫画を読むのを再開し、ホームルームが始まるまでノンビリと過ごしていく。
10分後。ホームルームが始まり、担任教師の話が終われば、1限目の授業が始まる。
その後。午前中にある4時限目の授業が終わって昼休みを迎えると、涼介は綾子と塚地と共に昼飯を食べていた。
そんな中で塚地は2人に好奇心から尋ねる。
「なぁ、聞くべきじゃないとは思うんだが……異世界ってどんな感じなんだ?」
好奇心と申し訳無さが入り混じった声色で問われると、涼介は自分が体験した事を一言で答える。
「METROシリーズにFALLOUTシリーズ。其処にマッドマックスやらFar Cryの碌でもない世界をカクテルにしてそのまんまみたいな感じだったな……」
涼介が自分の洋ゲーと有名な映画を出して例えると、塚地はマジかよ?と、辟易してしまう。
そんな涼介と塚地を他所にどう答えるべきか?思案していた綾子は漸くどう答えるべきか?決まったのだろう。
塚地に答えた。
「よくあるファンタジー。血腥くて碌でもない……本当にアニメとか漫画である様な世界だったわ」
そんな答えが返ってくると、塚地はゲンナリとしながら漏らしてしまう。
「マジか……夢壊れるなぁ」
「そりゃあ、御伽噺は御伽噺のままの方が良いのはよくあるだろ?つーか、お前さんが異世界に憧れる方が意外なんだわ」
涼介が意外そうに言うと、塚地は「世知辛いのは現実だけで腹一杯だからねー……物語の世界とかファンタジーに憧れたくもなるんだよねー」そう返した。
そんな世知辛い現実。其処で最も碌でもなく、血腥い裏の世界に生きる塚地は2人に告げる。
「取り敢えず、涼介の爺様が上手く纏めてくれんなら2人の立場は死人候補から外れる筈ではある」
「確定じゃねぇのか?」
「そりゃ向こうさん次第だからね。確実性はあるけど、少ないし、他人の善意を当てにして良い事も無いから」
身も蓋も無い答えに涼介は「そりゃそうだ」と、納得するしかできなかった。
そんな涼介と塚地に綾子は訪ねる。
「私もあんま人の事言えないけどさ、アンタ等は物事を良い方に考えない訳?」
綾子の問いに涼介と塚地はさも当然の様に返した。
「人の善意なんてクソの役にも立たねぇし、ソレに頼って裏切られたら大損こくはめになる」
「そうそう。人の善意ほどクソの役にも立たないし、宛にならないモノは無いよ。それに希望的観測は負け込んでる奴が見る幻想でしかないし……」
涼介と塚地が平然と人の善意はクソ。そう告げれば、綾子はゲンナリとしてしまう。
「ホント、碌でもない人生送ってるわね」
「お陰で生き延びる事が出来てる」
「右に同じ」
涼介と塚地が涼しい顔で宣えば、綾子は益々ゲンナリとしてしまう。
そんな遣り取りをすると、塚地は思い出した様に涼介に告げる。
「例の仕事に関してはお前の問題が片付いたら、来てくれってさ」
それを聞くと、綾子が尋ねた。
「その仕事、参加枠空いてる?」
「君が来るなら向こうは無碍にしないと思うよ」
塚地が遠回しに肯定すると、涼介は綾子に問うた。
「良いのか?」
その問いに対し、綾子は少しだけ辟易とした様子で答える。
「本当は関わりたくないわよ。でも、アンタ見張っとかないと厄介事増やしそうだから……」
「ありがとな」
涼介は素っ気ない感謝を返すと、塚地は返ってくる答えを解った上で問うた。
「なぁ……」
「何だ?」
「復讐を棄てる気は無いのか?」
その問いに綾子は何を聞いてんだこのバカ!と、言った面持ちになってしまった。
だが、涼介は内心では腸が煮えくり返りながらも平静と言うポーカーフェイスを保ち、平然と問い返した。
「そんな事を聞いて何になる?」
そんな涼介の怒りを綾子と塚地は当然の様に感じ取ってる。
それ故に綾子は涼介がバカやる前に止めようと立ち上がると、塚地は気にする事なく語り始めた。
「復讐ってのはタチの悪い病気だ。頭の中に巣食い続けて魂を蝕み、破壊する」
妙に説得力のある物言いをされると、涼介は怒りを僅かに収めながら問い返す。
「だから、復讐を棄てろ。そう言いたいのか?」
「棄てた方が楽になれる事だってある」
その言葉に涼介は何も言わなかった。
そんな涼介に塚地は更に言葉を続ける様にして問う。
「復讐を終えた後の事は考えてるのか?復讐しました。終わりました。物語なら其処で終わるが、人生はそうじゃない。寧ろ、その先の方が長いんだぜ?」
その問いに対し、涼介は答えた。
「終わった後に考えるさ」
その答えには復讐を棄てる気は毛頭無い事も含まれていた。
だからこそ、塚地はソレ以上の事は言わない。
だが、警告はした。
「平穏な生活と復讐は両立しないぞ。どっちかを得たいなら、片方は棄てないとならない……両取りは無理だからな?」
そんな塚地の警告に涼介はさも当然の様に返す。
「そんな分かり切った事を言うな。アホにしか見えねぇぞ」
「勝手にしろ」
穏やかに話が終わった事に綾子はホッと胸を撫で下ろしながら座ると、改めて尋ねる。
「で?涼介に頼もうとしてる仕事だけど……誰が依頼人なの?」
肝心の依頼主を問われると、塚地はどう答えるべきか?悩んでしまう。
そんな反応から綾子は直ぐに察してしまった。
「まさか、あの"骨董屋"が依頼人なの?」
そう問われると、塚地は白旗を挙げる様に肯定する。
「そう。その骨董屋が依頼人」
「骨董屋?」
涼介が首を傾げると、綾子が塚地に変わって件の骨董屋に関して語っていく。
「オカルトやらファンタジー絡みの大物。本人も飛び切りの力を持った魔女……関わらない方が人生マシになる手合いでもあるわ」
綾子の語った内容に涼介は涼しい顔で宣った。
「そりゃ都合が良い。あのクソアマを捜す手掛かりをこんな早くに得られるとは思わなかった」
オカルトやファンタジー絡みの大物ならば、クソアマ。もとい、這い寄る混沌の居場所なり、何なりの情報を持っている。
そう仮定した涼介は嗤っていた。
そんな涼介に何を言っても無駄。と、言うのを目の当たりにした綾子は頭を抱える事しか出来なかった。




