11話目
放課後。家に帰宅すると、祖父が居た。
数ヶ月前の去年の冬休み。異世界での時間を足すなら更に32年ぶりに会う祖父に涼介は孫として、穏やかな笑みと共に語り掛ける。
「お祖父ちゃん久しぶり」
そんな孫である涼介を祖父……賀茂 憲春は一頻り見詰めると、悲痛な面持ちを浮かべてしまう。
「涼介。お前は修羅となってしまったのだな……」
哀しみに満ちた言葉を投げられると、涼介はスッと無表情になって返した。
「好きでなった訳じゃない」
涼介の言葉で空気が重くなると、そんな空気を紛らわせる様に母親は涼介に告げる。
「先ずは着替えて来なさい」
そう言われると、涼介は何も言わずにリビングを後にした。
それから自室で下着だけのラフな姿になると、涼介はリビングに戻り、ダイニングテーブルの席に座った。
そして、母親が淹れてくれたコーヒーを一口飲むと、祖父は切り出す。
「涼介。お前が幻夜を殺害せしめた事は聞いた。そして、此処へ来る前にその御印も確認した」
祖父の言葉に涼介は何も言わなかった。
そんな涼介に対し、祖父は続ける。
「お前とお前の幼馴染である綾子とやらに関しては、賀茂の者は手出しはしない。勿論、芦屋に関しても手出しはさせぬ様に圧力は掛ける」
其処まで聞くと、涼介は確認する様に問う。
「つまり、俺と綾子は祖父ちゃんサイドと芦屋サイドから手出しはされない。その認識で良いって事か?」
「そう捉えて構わぬ」
祖父が肯定すると、涼介は自分が殺したイケオジこと幻夜とやらの首にそれ程の価値があるのか?疑問を感じてしまった。
それ故に好奇心から聞いてしまう。
「その幻夜って奴、何をしたんだよ?ソイツの首1つで此処まで都合良く展開進むなんて余っ程だろ?」
たかが1人の生命。
その1つの生命だけで祖父が其処まで事を進める事が出来る事に対する疑問を涼介がぶつけると、祖父と母親は沈黙で返した。
そんな2人の様子を察すると、涼介はソレ以上の事を聞こうとはしなかった。
「別に知らなくても良いか……俺にはどうでも良い話だし」
聡い様子を見せた孫に祖父は何と言うべきか?悩んでしまうと、その孫である涼介は己を今も愛してくれる家族へ通すべき筋として告げる。
「母さん、祖父ちゃん。俺はもう1つだけ仕事をする」
その言葉に母親と祖父が固まってしまう。
だが、涼介は気にする事無く淡々と言葉を続ける。
「その仕事をすれば、俺に残るしがらみはクソアマだけになる。そうなれば、俺はクソアマが来るまでは大人しく平穏に過ごす」
涼介が言い終えると、母親は息子を愛する母として真っ向から反対した。
「バカ言ってんじゃないわよ!何処の世界に息子が汚れ仕事をして喜ぶ母親が居ると思ってんのよ!?」
物凄い剣幕で母親が怒鳴ると、祖父はソレを宥める様に制してから仕事の事を問うた。
「何をするつもりじゃ?」
「仕事の詳細は未だ知らないんだ」
正直に告げた涼介に祖父は頭を悩ませながらも、確認する様に問う。
「ならば、依頼主はあの小僧か?」
塚地が依頼人なのか?そう問われた涼介はポーカーフェイスと共に嘘を答えると、更には事実として断れない理由も答えた。
それは虚と実を織り交ぜたタチの悪い答えと言えるだろう。
「そうだよ。2人……ドゥマとオルガがアイツの部下を結構な数、殺した。その埋め合わせしないとならないんだ」
その答えに母親は驚き、いつの間にか涼介の背後に立っていたドゥマとオルガを信じられないと言わんばかりに見詰めてしまう。
そんな母親を他所に祖父は頭を悩ませながらも孫を愛する祖父として、要求する。
「涼介。あの小僧の依頼の背後に"骨董屋の女主人"が居るのならば、その仕事は絶対に受けるな」
その言葉から祖父が、自分が請け負おうとしてる仕事の真の依頼人が骨董屋の女主人である事を看破している。
そう察した涼介は骨董屋の女主人と言う言葉に言葉を喪ってしまった母親を見ると、申し訳無さそうに拒否した。
「悪いけどソレは出来ない」
「何故!?あの女は危険過ぎるのよ!!」
母親が詰問する様に問えば、涼介は正直に答える。
「ソイツはクソアマの手掛かりを持ってるかもしれないんだ。祖父ちゃんや母さんには悪いとは思ってるけど……」
「なら、その復讐を棄てなさい!!」
母親が至極当然の要求。否、命令を言う。
だが、涼介はソレを穏やかな口調ながらも突っ撥ねた。
「悪いけど、ソレは無理」
「どうして!?」
至極当然の疑問を母親がぶつけると、涼介は語る。
「俺を地獄みてぇなクソ異世界に飛ばした。ソレは未だ良い……ムカつくけど」
其処で言葉を止めると、涼介は一息付いてから言葉を続けた。
「愛した女を攫い、俺と殺し合わせ、俺に殺させた」
淡々と告げられた内容に母親が言葉を失うと、涼介は更に言葉を続ける。
「クソアマに負けて、俺は死んだ。そのまま地獄に逝くんなら当然の帰結として受け入れられた。だけど、あのクソアマは負けて死んだ俺を蘇らせ、この世界に突っ返しやがった」
その言葉に部屋の中は重い静寂に包まれる。
そんな空気を創り出した本人である涼介は気にする事無く淡々と告げる。
「俺は愛を奪われたばかりか、死と言う尊厳すら奪われた。正直言うと……こうして生きてる事すら間違いなんだ」
その言葉に母親と祖父は何も言えなかった。
そんな2人に語るべき事は語り終えた。
そう言わんばかりに立ち上がると、涼介は最後に一言だけ告げる。
「だけど、今度の仕事を終えたら俺は暫くは大人しくするよ」
その言葉を最後に涼介はリビングを後にしようとする。
そんな涼介の背後で母親が崩れ落ちて涙を流して哀しみ、祖父は修羅に堕ちた孫を救えぬ事への無力感に打ち拉がれている。
だが、涼介は己の今の原動力と言える憎悪と憤怒。
そして、怨嗟からソレを斬り捨てる様にしてリビングを後にしたのであった。




