世界の涙腺 ゆうきのアイ
『つぎのへやにいくまえにきいておきたいことがある』
宮本武蔵は真面目な顔になるとゆうきのかたをつかんでいった。
『小僧!世界の涙腺とはなにかしっているか?』
『はい?なんですかそれ。場所ですかものですか?』
『そうか……知らぬならよい。小僧ならもしくはとおもったのじゃが。しらぬかぁすまぬな、また答えがわかったらおしえてくれ』
子供のようにはしゃぎながら笑顔でそういう宮本の目は笑っていなかった。なにかを見透すそんな目だった。
ゆうきは澄んだ瞳にすいこまれるような錯覚をしながらも、はいっと元気よく答える。
『質問ついでじゃがウツロサマと深井どのにかんしてはどれくらいしっておる?』
『あっー深井さんなら兄貴分みたいなもんですよ!ウツロサマ?とやらはなんのことかしらないですけど』
『わしとしてはどちらにも肩入れはせんとおもっておったが主らにはなにか感じるものがあってのぉ』
髪をゆいながら武蔵はそういうと目の前に飛ぶハエを指ではさんで捕まえた。
『無駄な殺生はしとうないが、わしがいえたことではないよな』
頭を片手でかかえながらしもうたしもうたと葛藤していた。
『次の部屋は、無の間の闇という部屋ぞ』
『小僧、アイリ。けっして自我をわすれるな。孤独と誘惑それこそが死にいざなう甘味ぞ』
『はいっ!』
二人は武蔵野ことを師匠をみる目に変わっていた。
無の間の闇にて。
『なーんもないな、おいアイリいるか?』
『なにもみえないわね薄暗くて霧がかかったようで』
『霧?なんもみえねぞ?』
『きゃっ!』
アイリの足元がすこしへこむと甘い砂糖を焦がしたメロンパンのようなにおいがしてきた。
鼻腔をくすぐるそれは一日食べていないアイリにとってはよだれがたれるほどの感覚だった。
『なにー?あまいかおり~たべたぁーい』
『おい、アイリなにいってんだ、すげえくせえぞここ。動物の死臭がたちこめてるぞ』
ゆうきは鼻をつまみながらアイリをさがすが周囲にはいなくてこえだけがきこえてくる。
『寂しいな。すごい、孤独感だ』
手足が冷えてきて動物のくさったにおいがする。
ゆうきはなにもみえず、アイリが返事をしないので孤独感を感じていた。
『あれ?なんだっけ……おれなにをしようとしてたんだ』
忘却していた。
忘れるというより、そこにあった記憶がまるまるぬけおちている感覚。
『うっおなかすいたぁ』
アイリは二重人格の二面性が交互にあらわれようとしていた。
『アーン、この体ひさしぶりぃー!興奮しちゃうわぁぁぁ、ぞくぞくするっ』
『だれよ、わたしのからだかえしなさい!』
『アイリたーん!わたしはあなたであなたはわたしよ!』
『しらない!きもいのよあんた、でていきなさい!』
指をなめながら舌をレロレロするアイリ。
『わ…た…し、が欲望を満たしてあ…げ…る!』
『おえっ』
病院やクリスマスに大量殺人した記憶がよみがえってくる。
『あーんなに老人の脳ミソがマセキ化したものがすきだったじゃなぁい!どうして否定するの?ねぇ!おしえてぇー!!??』
『やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだややだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだやだや……』
『あるぇ?どこにいっちゃったのかなぁ?』
アイリの人格はひっそりとかげにかくれてしまった。
体育館のすみにひとりで体育座りしているかのように。
『どうなってんだよ!?』
なにもみえず動物の腐敗臭だけがする闇でアイリのことをかんがえていた。
(寂しい……肌寒いよ暗いよ怖いよ)
『くそっおもってもねぇ言葉がでてきやがる』
(悲しいよ……ひとりは辛いよ)
『なんだよ!まじで!おれには……』
(いやだいやだいやだ)
『俺には……』
アイリがいる!!!!
闇が包んでいた陰惨な世界は霧散した。
体育館のすみですわってる少女がいる。
『なぁ、アイリ…だよな?』
こくりとうなづく少女。
『ここは危ない気がするからあっちへいってみよう』
ふるふるとあたまを横にふる。
『どうしてうごかないの?』
『…………』
返事がないただの少女のようだ。
『あーそっか。ここ精神的な世界か!わかったぞーそっかそっか。どーすりゃええんや?』
『あいりたそ~!ほらほら、おいでーこわくないですよー』
ゆうきの背後を指差す少女。
なにかしゃべりたいようだが、とあるショックで失語症になってしまっている。
『どうした?うしろになにか……うぉっ!?』
角のあかくなった、アイリが恍惚な表情でたっている。
『マグワいましょう!あなたがすき』
『嫌嬉しいけど、なんかちがうんだよ、なっ、』
『逝きなさい!!』
サラマンダーの鞭による発火でラッパ銃の導火線に火を灯すアイリ。
銃口をつきつけられた刹那、ゆうきのこめかみにはなたれる無数の弾丸。
『あぶっねぇー!!!』
抜刀のさいにおこなう踏み込みで体の高低差をつくり寸前のところでかわすゆうき。
体育館のすみで踞る少女が中指をたてているのだろうか、それを違う手でにぎりかくしている。
震えながら上ににぎったてをぬいていく。
『ファック!!!!!!』
『アーン、刺激的ねぇっ……』
ゆうきが少女に頷くと少女も頷いた。
ゆうきの丸太のような回しげりが炸裂する。
『ほんっと……嫌な…役……』
アイリかわかすんできえていくと体育館の背景が空にあいた穴にすいこまれるようにアイリの霧とともにきえていった。
『ゆうき……!』
『アイリ……たそ!!』
少女は大人になりアイリとゆうきは抱き合った。
その瞬間天井からむすうのやりがふってきた。
サラマンダーの鞭を高速でうえにかかげふりまわすとほとんどのやりが消えて粉のようになっていく。
『孤独と誘惑か……』
『たしかにきつかったわ。すべてそこにおいてきたような。なにもないがらんどうのような心になったわ』
涙もろいゆうきは泣きながら辛かったろぉとアイリの頭をなでる。
『うるさいわねぇ!わたし……より、あんたがつらかったでしょう!』
『うっせばーか!』
『なによっもう!』
ぷいっとそっぽをむく二人は手を握りあっていた。
もう二度と孤独にはなりたくないとそう願って。
あんなのはもうこりごりだ。
どこからともなくぬるりと影から武蔵があらわれていった。
『むほほほー二人仲良くなってよかったぞい!それでは無の間の闇前半戦終了、ここから物理の力がものをいうぞ!』
『押忍!』
二人は空手の押忍をきめてみせると、武蔵も真似して、こうか?押忍!とやっていた。
ベルフェゴールはそれを監視カメラ越しにみながら爪を噛んでキーキーいっているのだが、武蔵には彼女の気持ちは届かないでいた。
いつかとどけばいいのになと本人もおもいつつ二人に愛着が少しわいていた。




