無の間の闇(物理) 世界
『アイリ!』
『ゆうき!』
二人は走って駆け寄ると苔むしたいわのうえにすわって横に流れる不自然な川をながめていた。
『ここってどこ?』
『わかんねぇ』
鹿の剥製がかざられており、鹿のつのがおおくかざられているエレガントな壁が不自然にかわのそばにあった。
鹿狩りは貴族の嗜みであり、その剥製のしたには高貴をいみする紫色のシーツがしかれている。
『へぇーなんかたかそうな剥製だなぁ』
『ばかっさわんないほうがいいわよ!』
『アイリは動物すきだったろ?』
『別に関係ないわよ。ただかわいそうだとおもっただけ』
アイリは博愛主義よりなので動物たちにも優しい一面があった。ゆうきにせっするよりも寛容で慈愛の溢れる対応を動物にはする。男がきらいなのだ。幼少のおり性的暴行を軽度ではあるがうけておりどうしても冷たくなってしまうのである。
平坦だが自然あふれる道を少し歩くと川の向う岸に扉が見えた。
『あそこ!いってみようぜ!でられるかもしれん』
『いいけど、あんまり動かない方が良さそうよ』
川のなかになにかがいるのを察したアイリはそういうとポーチにはいっていた飴玉をとりだし川に投げると、みたことのない深海魚のような魚がぱっくりと口を開いて飲み込んだ。
『こえーかおしてんなぁ!あんなのがいたらわたれねぇや』
『そうね、でもここでうごかずにいるわけにはいかないでしょ』
サラマンダーの鞭で導火線に着火すると上流の方へむかってメガフロッグのラッパ銃をはなった。
麻痺毒がかわにながれると魚たちが浮いてきたのだ。
『やったぜ!アイリ!さすがだなぁ!』
『まぁね。ここのために豚の魔神さんがよういしてくれたんだとおもうわ』
なるほど、と納得するとゆうきはアイリのあたまをなでた。
『ばっやめろって!』
『ごっごめん、ついなでたくなっちゃって』
『な、ならかまわんのやが』
『なんか様子が変だな』
『ちっちげーし!』
『いやいや川があふれてるっていうか』
水位がましてきてへやが汚染された水でうまりそうになってきていた。
外のようなのに部屋。
不自然なことに気付く。
『ゆめかこれ!』
天才だっ!とじぶんでおもったゆうきは大馬鹿ものだった。
『ばかっ!早く出口へいくわよ!』
『うそっ!?夢じゃないのか!?』
『いつまでいってんの!もう急がないと!』
アイリはサラマンダーの鞭でドアのとってをねらうがはずしてしまったため水場であしをとられてしまって動きづらくなっている。
『くそっ!うごきづれぇ!だがっ』
変態マッチョのムキムキヤロウであるゆうきは川の水圧にまけもせずかぎわけてすすんでいく。
『アイリ!おれの腕を鞭でうて!』
『いくわよっ!』
ゆるめだがあきらかにエゲツナイ音がした。
ゆうきのうでを鞭が叩いた音だ。
『あっーす!!!っごい!!いい!!』
鞭と炎の感覚がひりつくことに快楽を感じて魔力が増幅するゆうき。
『そっちへいくわ!』
ロープのようにつながれた鞭をひきよせるとピーンと緊張してゆうきの腕にえぐりこんでいった。
痛みは快楽。
そうでしょ?
という声が聞こえた気がしたゆうき。
角から汁があふれでると川におちた。
透明な水面に墨汁がたれたときのように魔力が波紋をうみだしたかとおもうと、部屋の水位がさがっていった。
『ムホホ~ようやったのぅ!こわっぱ!』
『ここはわしの部屋ぞ!ノブリスオブリージュ!貴族の義務というやつじゃの!』
『後進をそだてるのも役目のひとつじゃぞ』
水面からあらわれた武蔵がぬるっと登場していった。
絆を物理で試したのじゃというとトリュフをよぶよう屋敷僕にいうのであった。
世界とは何か……?
考えたことはあるだろうか。
それはひとりの観測者が認識し様々な物や事象をある価値基準に基づいて構築させた感覚の問題である。
そこに色を加えることで世界がうまれる。
ゆうきのなかに世界が芽生えたのは自我が芽生えてから10年がすぎたころだった。
日々無為にすぎていく時間に嫌気がさしていた。
なにも起きない普通の日々。
それはあるものには幸せであり。
ゆうきにとっては苦痛だった。
ある日いった骨董品のみせに万華鏡があった。
幾星霜の年月をへてうみだされた芸術品に心を奪われた。
あぁ世界がこんなふうにかわったらたのしいのにな。
そう思ったゆうきは近所の祠でいつも地蔵をなでていた。
『神様仏様。世界をかがやかせてください』
色を失っていた退屈な日々。
ゆうきにとっては日常生活がただただ苦痛だったのだ。
変わる世界を求めて成長した。
そしてであったのだ、つのばやし、と。
いろとりどりのせかいに夢中になっていくのは必然だった。
ゆうきはいまここにいる。
そう。
便所だ。
『うおおおおおお!!くそがもれるぅぅううう!!』
両手で下腹をおさえて、腹痛よおさまれ!と普段信じているカミニイノル。
『頼む!神ィィ!!』
腹が痛すぎるのだ。
『での?話を聞け!世界の涙腺からでた涙が破邪の玉といって世界を動乱の刻にひきずりこむといわれておんだわムホホ~』
『ここからがええとこなんじゃが……』
ベルフェゴールがこほっげふんとせきばらいをすると話に割ってはいってきた。
『あなたたちちょっとくさくってよ?』
『ムホホ~ベルタソがいるんでつねー!』
なんだこのきもちわるいあかるめなおたくっぽいおじさんわ、とゆうきはおもった。
『急に性格変わりますね』
『ベルタソは最高だからねぇ!いつもてつだってくれるんじゃよ』
便所のドアを叩く音がする。
『別に退屈だからです!』
『ムホホ~ツっっッつんでれだとぉぉおお!!』
『……』
ベルフェゴールはたべていた冷凍ナポリタンのフォークをつくえにがしがししながら抗議した。
ほっぺたにはけちゃっぷがついている。
『トイレからでられないからといって天の川みたいですねってたとえやめてもらえますか?全然ロマンチックじゃないんで』
そのたとえを、初対面のときにして以来、ベルフェゴールは恋に落ちていたのだ。
『ひこぼしはわし~じゃ!』
ポッとする悪魔。
『ぜんぶみずにながしちゃいそうですね』
『余計なこというんじゃないよ!』
『チクチクすな!ゆうきよ、そなたもすきであろ?色はよいぞぉ~』
デュクシっとゆうきをつつく武蔵。
パーカーのポケットからポロリと落ちる破邪の玉。
『は、は、は、は、破邪の玉やんけーー!!!!!!』
はんぱないってっというと武蔵は目をギョロりとさせてなめまわすように玉をみはじめた。
手のひらにのせてムホホ~素晴らしいと褒めながら網膜に焼き付かせるがごとくみつめていた。
『ほえー!はえー!ふえー!』
『語彙力すっとんでますやん』
『小僧なぜこれをもっておる?』
『神様がくれたんだよ』
『は……?』
宮本武蔵の世界が変わろうとしていた。




