9.新人冒険者の問題点。虫人の脅威と、人間社会での扱い
「私たちも、街、行きたい」
六人の冒険者と出会った後の、夕暮れ時のこと。マルマは、合流した虫人たちに囲まれながら、その六人と、食卓を共にする中で、空になった器を差し出し、そう言う。
突き出された器の向く先には、四人が座っている。その中で、リサが、一瞬、虫人たちを流し見ると、すぐジェイルと目を見合わせる。器に口をつけているところだったディンは、マルマに、一瞬だけ目線を向け、すぐ器の中のスープに、目を落とす。マルマが差し出している器は、鍋番をしているカイルが、受け取る。
受け取った器に、スープを注ぎつつも、カイルは、マルマを囲う、虫人たちを、意識しているかのように、露骨に半身を向ける。スープを注ぎ終えると、マルマに向き直り、器を差し出す。マルマが器を受け取るさなか、カイルは、目の前で、虫人たちに交じり、スープをすする、二人の男女、エルナとジルダンに、こいつらマジか……と聞こえてきそうな、呆れた表情を向ける。
エルナは、感情の読み取れない、素知らぬ顔で、マルマの隣に、チョコンと音がなりそうな佇まいで、座っている。口に器を持っていく、隣のマルマの動きに、合わせたかのように、同じタイミングで、エルナは自らの、幼さない柔和さの、小さな唇に、器を持っていき、スープをすする。対してジルダンは、虫人たちの真ん中に、胡坐を組み、腰を下ろし、片手で器を雑に持ちながら、同じくスープをすする虫人たちを、興味深そうに眺めている。
やがてジェイルと、目を見合わせていたリサは、ジェイルか顔を逸らしながら「街、か」と呟く。そして顔を、マルマに向ける、最中、カイルと同じく、呆れた視線で、ジルダンとエルナをなぞった後、今度は複雑そうな表情で、虫人たちを見まわし「でも、その子たちが、ね」と呟く。
そんなリサを、マルマはスープをすすりながら、上目遣いに見る。
「チビたちが、どうかした?」
その問いかけに、リサは、マルマを、少しの間、見つめると、またジェイルに視線を戻し、二人、困ったように見つめ合う。
そんな中、ジルダンが、口をはさむようにして、「街じゃあ」と、いきなり話しだす。
「獣人、特にコイツらみてぇな、虫人って呼ばれる、虫型獣人の扱いときたら、とにかく悪くてなぁ」
そして少し言葉を切ると、続けて口を開く。
「子ども程度の知能しかねぇ、しかも話もできねぇ、んな、みみっちい理由で、虫人を、人間社会は、同じ人類だ、って認めたくねぇんだとさ。おかげで、こいつらは街じゃあ、奴隷扱いよ。いったいいつの時代だっつうの」
そこまで言い、ジルダンは最後に、吐き捨てるような声で「まったく、世も末だぜ」と呟く。
そんなジルダンに、ジェイルが苦笑しながら、マルマと虫人たちを、気にするように、横目で伺いながら、口を開く。
「それに虫人は、虫型であっても、獣人は、獣人ですからね。一般的な人間と言われる人類より、よっぽど身体能力が高い。しかも子どもくらいの知能で、話せないとは言え、覚えれば、簡単な指示くらいなら、聞けますからね。労働力としては、他にないほど優秀ですからね。世間は、この労働力を失いたくないんでしょう」
ジェイルが、そこまで言うと、ジルダンは、器のスープを、いっきに飲み干す。すると胡坐を組んだ、太ももに、空になった器を持つ方の、肘を、突き刺すように置く。そして「まったく、なんとかしてほしいぜ」空になった器を、指に挟むように持ち、揺らす。
「んな街のノリで、ナマイキな新人どもが、そこら辺で暮らしてる、虫人の集団をナメてかかってくわけよ。んで、いつの時代も、虫人たちに半殺しにされる新人冒険者が減らねぇ」
そこまで言うと、ジルダンは、揺らしていた、空の器を、止める。
「この世で、虫人の集団ほど、恐ろしいもんは、そうそう、ありゃしねぇ。たとえ魔獣を含めたとしてもな」
淡々と言うと、最後に「わっかんねぇかなぁ」と一言、漏らす。
マルマは、そんな彼らの話しを聞き、「ふぅん」と不思議そうに呟くと、続けて「でも、ウチのチビたち、話せるよ」と言葉を返す。
そんなマルマの言葉に、虫人たちは、ヒリついた動きで、マルマを注目する。そして六人は、そのマルマの言葉に、不思議そうに注目を向ける。




