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原始人女子の巣立ち―魔境育ちの原始人女子は、お伴の獣人たちと都会を目指す―  作者: 裏律
一章 世界的危険地帯たる、魔境を旅立ち、原始人女子が成すこととは
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10.話せる虫人。ペットの気持ちを考えない飼い主

 マルマが、そう言い切ると同時に、エルナと、マルマを挟み、その反対側に座っていた、他よりも比較的細身の虫人である、リンが、真っ先に反応し、少し身を浮かす。リンは、即、立ち上がり、その場を離れようと動くが、その瞬間、マルマに脚を掴まれ、バランスを崩し、尻餅をつく。倒れ込んだリンは、自らの脚を掴む、マルマを引きはがそうと、その顔を、もがくように足蹴りにする。

 マルマの頬肉が、リンの、かぎ爪の付いた、黒い外骨格の足裏により、圧し潰されるように、寄る。しかしマルマは、外骨格の足裏についた泥で、顔を汚しながらも、リンにのしかかり、抱きしめるようにして、引き寄せる。

 リンは剥き出しの歯列の隙間から、キシッ! と鋭い音の息を吐きながら、マルマの顔を、あたかも殴るような勢いで、何とか、遠ざけ、押し退けようとする。

 リンによって叩きつけられた、黒い外骨格の拳に押され、マルマの顔は、鍋を挟んだ向かい側で、その様子をうかがっている四人に向く。

 二人の様子を、微妙な表情でうかがっていた四人の中で、リサが「ちょっと、マルマ?」と声をかけ、次にリンに目を移すと、続けて「その子、なんか嫌がってるけど……」と呟き、視線をマルマに戻す。

 そんなリサの言葉に、マルマは、リンの拳による圧迫で、寄った頬肉と合わさることで、モッチリ感が強調された、だらしない笑みが浮かび、それを四人は見る。

 その湿った柔和さを持ったニヤケ面を見た、四人一同、うわっ……、とドン引く。

 マルマの動向を、興味深そうに伺っていたジルダンとエルナは、向かい側の四人の、その反応を疑問気に見る。

 そんな六人の反応も、殴るかのように叩きつけられる黒い拳も、マルマは意に返すことなく、頬にメリ込む拳を、押し返しながら、リンの顔に、自らの顔を近づける。そして必死な抵抗を続けるリンの体を、マルマは、四人に、無理やり向かせる。

「ほら、リン、自己紹介して」

 そんなマルマの指示に、リンは「ゔ、ヴァ、ドゥ、ルヴァっ!」と濁音交じりの、かすれた唸り声のような、ひどく聞き取りづらい声で、返す。

 そのリンの返答に、マルマは「ほら、もっと、はっきり」と、まるで子どもに言い聞かせる親のように、言う。

 マルマの言葉に、リンは「ゔァ、ルまっ!」と、やけくそ気味に答える。

 そんなリンに、マルマは「違うっ!」と叫ぶ。

「リンったらっ、なんで毎回っ、そこで私の名前っ、言うのっ!」

 そう叫びながら、マルマは、リンの体を、強く揺さぶる。

 リンは、抵抗をあきらめたように、されるがままに揺らされる。本来、感情が分かりづらいはずの、リンの複眼から、その時だけは、確かな哀愁が伝わってきた。

 その二人の姿を、六人は、微妙な表情で眺め、その中で、リサは、マルマに対し、内心、ペットの気持ちを考えない飼い主みたい……、と感想を抱く。

 そんな六人の様子をよそに、マルマは「もういいっ」と言うと、今度は、強めの動きで、自身の顔を指さす。そして続けて「じゃあ、私、私の名前はっ⁉」と、問い詰めるように聞く。

 そんなマルマに、リンは、唸りのような声を出しながら、向かい側の四人に向いた顔を、力なく動かす。その時、リンの無機質な複眼と、四人の中の一人、ディンの目が、合う。

 一瞬向く、その複眼の視線に、ディンは「ん?」と呟く。

 するとリンは、先程の萎れたような、力ない動きと打って変わって、ハリのある軽い動きで、マルマを振り向く。

 その前向きさのある動きに、マルマは、表情を明るくする。

 リンは、先程よりも、気持ち、歯茎が目立ち、口が、少し広がったように見える顔で、マルマと向き合う。そして楽し気な動きで、マルマを指さすかのように、カギ爪を向け、「でぃンっ!」と先程とは一転して、イキイキと、かつ、やけにはっきりとした声で答える。

 リンの答えに、マルマは、明るかったのが一変、その表情を凍り付かせる。

 その場が、一瞬、奇妙な緊張感を持って、凍り付き、少しして、ジルダンの野太い大笑いが響く。

 笑い転げるジルダンを、他の五人が、冷めた目で一瞥し、その笑い声に、マルマが肩を震わせる。

「なんなのっ、もうっ! 私がっ、男に見えるのっ⁉」

 マルマは、そう言いながら、悔しそうにリンの体を、激しく揺する。

「もう一回っ! 今度は、ちゃんとしてっ!」

 そんなマルマに、リンは、一瞬、笑いが落ち着き始めたジルダンに複眼を向けると、またしてもイキイキと「じ、デュだ、ンっ!」と答える。

 それにジルダンは、吹き出し、マルマは肩を震わせながら、低い声で唸る。

 少しの間、その場が静かになり、やがてマルマが唸り声をあげながら、ひっくり返り、暴れるかのようにジタバタし始める。

 そんなマルマに、近くにいたエルナとジルダンが驚いたように離れる。対して虫人たちは、まるでマルマにターゲットを絞られないようにするかのように、全員が同じタイミングで、かつ離れすぎないくらいに後ずさる。

 そんな彼らをよそに、マルマは、まるで子どものようにジタバタし続ける。

「だからっ! 私はっ、男でもっ、あんなゴリゴリマッチョでもっ、ないのっ!」

 マルマに、ゴリゴリマッチョと称されたジルダンは「え、いや、ま、マルマちゃん……?」と呟きながら、お前が言うなよ……というような微妙な表情を浮かべると、悲し気な動きで、自らの肥大化した筋肉を撫でる。

 そんなマルマを、リンは終始、してやったというような自慢げな態度で、見下ろす。

 やがてマルマは「もういいっ!」とふてくされ気味に言うと、すっと起き上がる。

 その瞬間、後ずさっていた虫人たちは、一斉に、その場を離れようと駆けだす。

 しかし、その内の一人の虫人を、リンが執念深さを感じる動きで、捕まえる。

 リンが捕まえた虫人に、マルマはためらいなく飛び掛かるのだった。

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