第63話: 灯された炎
はじめまして、または再びこんにちは。今回もお付き合いいただきありがとうございます。
インドネシア各地の占領地域では、PANDEMONIUMの部隊による捜索が続いていた。
彼らは、アラリック・シロガネの秘密基地の場所、そして長らく謎に包まれている彼の一人息子の行方を知っていると思われる政府高官や元軍幹部たちを、一人ずつ尋問していた。
「その基地はどこだ?」
PANDEMONIUMの将校の一人が、尋問室の椅子に拘束された元インドネシア軍将軍を鋭く睨みつける。
「お前がその場所を知っていることは分かっている」
男は、ただ憎しみに満ちた目で将校を睨み返していた。
唇を固く閉じ、脅しを受けても、決して口を開こうとはしない。
別の部屋でも。
別の建物でも。
そして、別の都市でも。
同じような光景が繰り返されていた。
しかし、PANDEMONIUMは何一つ有力な手掛かりを得られず、次第に焦りを募らせていく。
時間だけが過ぎていき、彼らの求める情報は一向に見つからなかった。
一方、そのPANDEMONIUMが必死に探し続けている秘密基地のさらに奥では――。
俺は自分の私室にあるソファに座り、足をテーブルの上に乗せながら、分厚い漫画を膝の上で読んでいた。
……我ながら、緊張感がなさすぎる気もする。
その時、誰かが部屋の扉をノックした。
「ヒカル」
一人のスタッフが扉の前に立っている。
そして、俺の姿を見て少し驚いたような表情を浮かべた。
「……心配じゃないのか?」
俺は肩をすくめ、漫画から視線を完全には外さないままページをめくった。
「全部、バガスたちが綿密に計画してるからな」
「今ここで俺まで慌てたって、みんなの緊張が増すだけだろ?」
俺はもう一度ページをめくる。
「だったら俺は落ち着いてる。そうすれば、ここにいるみんなも自分の仕事に集中できるから」
スタッフはしばらく黙っていた。
やがて、小さく笑った。
まるで今になって気づいたかのように。
俺が見せているこの落ち着きそのものもまた、俺が作ろうとしている「指導者」の形の一つなのだと。
いつでも緊張して、真剣な顔をしている必要なんてない。
時には、自分が落ち着いている姿を見せるだけでもいい。
それだけで、周りの人間は「まだ大丈夫だ」と思えるのだから。
そして、俺が次のページをめくった瞬間――。
部屋の隅に設置されていた大型スクリーンが、突然自動で起動した。
映し出されたのは、カリマンタンにあるインドネシアの新首都からのライブ映像だった。
俺は漫画を閉じ、姿勢を正してスクリーンを見つめる。
画面の中では、バガスが急遽設置された仮設ステージの上に立っていた。
その周囲には、数百――いや、千人を超えるほどの市民が集まっている。
どうやってこれほど短時間で集まったのか分からない。
誰もが、困惑と好奇心の入り混じった表情でバガスを見つめていた。
バガスはマイクを手に取った。
そして、広場全体に響き渡るほどの声を上げる。
「兄弟たちよ!」
その目には、強い決意の炎が宿っていた。
「俺たちはこれまで、服従を強いられてきた!」
「黙ることを強いられ、何度も何度も目の前で起こる抑圧を見せつけられてきた!」
群衆がざわめき始める。
まだ迷っている者もいる。
しかし、バガスの言葉に少しずつ感情を揺さぶられていく者もいた。
「だが、今日だ!」
バガスの声が、さらに大きくなる。
「今日、俺たちは証明する!」
「インドネシアは、決して本当の意味で屈服したわけじゃない!」
そして――。
「今日、インドネシア全土の人々が立ち上がる!」
「サバンからメラウケまで!」
「俺たちは、PANDEMONIUMに立ち向かう!」
一瞬の静寂。
そして次の瞬間――。
「うおおおおおおおおっ!」
小さかった歓声が、次第に大きくなっていく。
それは瞬く間に広場全体へと広がり、やがて数え切れないほどの声が一つになって響き渡った。
俺には分かっていた。
この放送信号は、意図的にインドネシア全土へ同時に拡散されている。
カリマンタンの市民だけに向けたものではない。
これまで恐怖の中で孤立していると感じていた、インドネシア各地の人々へ向けたメッセージなのだ。
別の都市では、バガスの技術チームによって掌握された公共スクリーンにも、同じ映像が映し出されていた。
それは、長い間沈黙していた人々の心に眠る炎を、少しずつ燃え上がらせていく。
俺は、その映像をしばらく見つめ続けた。
胸の中に、言葉では簡単に表せない感情が込み上げてくる。
誇らしさ。
緊張。
そして、それよりもずっと深い何か。
――今、起きていることが、すべてを変える。
そんな確信だった。
俺は漫画を完全に閉じ、テーブルの上に置いた。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
「全チームを集めろ」
扉の前に立っていたスタッフへ、俺は告げた。
その声からは、先ほどまでの気楽さが完全に消えていた。
「俺たちも動く時が来た」
外では――。
これまで意図的に隠されていた炎が、ついに本当の意味で燃え上がった。
そして今度こそ――。
もう、誰にも消すことはできない。
――次回へ続く。
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