↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『拾われた孤児、拾い主はまさかの退役軍人にして天才科学者』  作者: ティラピア池
第三部:PANDEMONIUM、アジア侵攻

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/69

第60話: 偽りの服従、その裏に燃える炎

はじめまして、または再びこんにちは。今回もお付き合いいただきありがとうございます。

アジア各地で侵攻が続き、戦場が混乱に包まれていた――その最中だった。


PANDEMONIUMの軍用通信網全域に、突如として緊急通信が入った。


インドネシア近海を航行するPANDEMONIUMの指揮艦。


その艦内で、一人の高級将校が届いた通信を確認し、表情を強張らせた。


「全ユニットへ通達する!」


彼は自らの指揮下にある全部隊へ、素早く命令を伝える。


「我々は撤退する。今すぐだ!」


「撤退……?」


部下の一人が困惑した声を上げる。


「ですが、司令官。我々は今まさに前進を開始したばかりです。なぜ、このタイミングで撤退を?」


「中央司令部からの直接命令だ」


将校はそう答えたものの、その声には彼自身も理解できていないという戸惑いが滲んでいた。


「全軍、可能な限り速やかにホール・スラヴナ連邦へ帰還せよ。例外は認めない」


その命令は、瞬く間に各戦線へと伝達された。


インドネシアの海域。


ベトナムの森林地帯。


そして、現在も激戦が続いている各地の前線。


一つ、また一つとPANDEMONIUMの部隊が戦場から離脱していく。


まだ完全には制圧できていない戦場を突然放棄したことで、必死に防衛していた各国の部隊にも困惑が広がった。


そして――。


ホール・スラヴナ連邦の広大な領域、その中心。


険しい山々と、巨大な双子の要塞門――「鉄門」に守られた場所に、壮麗な宮殿がそびえ立っていた。


その宮殿の最奥にある大広間。


薄暗い室内の玉座に、PANDEMONIUM最高指導者――マラキ・ヴァントールが座っていた。


「なぜ今、全軍を呼び戻したのですか?」


数歩離れた場所で、一人の側近が恭しく尋ねる。


「我々は現在、各戦線で優勢に立っています」


マラキはしばらく答えなかった。


ただ、玉座の肘掛けを指先で静かに叩いている。


そして――。


「なぜなら……」


静かな声が、広間に響いた。


「一時的な領土などよりも、はるかに重要な報告が入ったからだ」


マラキが片手を上げる。


すると、巨大なホログラムスクリーンが空中に展開された。


そこに映し出されたのは、衛星から撮影された一つの地域だった。


見覚えのある場所。


かつてPANDEMONIUMによって徹底的に攻撃され、そして天才科学者アラリック・シロガネが命を落とした――あの秘密基地だった。


マラキの目が細くなる。


「……あの少年だ」


「奴は……まだ生きている」


側近が息を呑んだ。


「そして今では――」


マラキはスクリーンに映る基地を睨みつける。


「本来、我々のものになるはずだったものを、すでに引き継いでいる」


側近は、ようやく今回の撤退命令の意味を理解した。


「全戦力を集結させろ」


マラキの声から、先ほどまでの静けさが消えていた。


代わりに、冷徹な計算が滲んでいる。


「もう無闇に攻撃を仕掛けることはしない」


「今度こそ、根本から問題を消し去る」


マラキは玉座から立ち上がった。


そして、大広間の壁一面に広がる巨大な世界地図へと歩いていく。


指先が、一つの国から別の国へとゆっくり移動していった。


「まずは、あの少年を消す」


「そして――アラリック・シロガネが残したすべての遺産もだ」


マラキは淡々と続ける。


「その後、資源を生み出す国々を支配する」


「それから一つずつ……超大国を我々の足元へ跪かせる」


宮殿の外。


海岸線には、巨大な砲台が整然と並んでいた。


その砲口は、遥か沖合を航行するロシアと中国の軍艦へと向けられている。


国境付近を監視していた軍艦の姿を確認すると、砲兵指揮官が冷静に命令を下した。


「撃て」


次の瞬間――。


大地を揺るがすような轟音が響き渡った。


巨大な砲弾が空を切り裂き、沖合の哨戒艦の一隻へと飛んでいく。


直撃を受けた艦は大きく揺れ、船体から炎と黒煙が立ち上った。


その光景を、PANDEMONIUM側の兵士たちは無言で見つめていた。


一方――。


遥か遠く、カリマンタン。


現在、俺たちの指揮下にある秘密基地では、バガスが独立青年団の幹部たちを小さな会議室へ集めていた。


机の上には、広げられた戦術地図が置かれている。


「PANDEMONIUMの反撃に備えるには、特別な作戦が必要だ」


バガスは真剣な表情で地図を見つめる。


そして、机の端に座っている一人の青年へ視線を向けた。


「何か案があるんだったな?」


青年は頷き、地図上の一点を指差した。


「ここで偽装攻撃を仕掛けます」


「奴らが追撃したくなる程度に見せかけて、実際には罠を仕掛けた区域へ誘導するんです」


会議はそのまま続いていった。


参加者たちは、作戦の細部について慎重に意見を交わしていく。


だが――。


突然、バガスが片手を上げた。


「……もういい」


冷たい声が会議室に響いた。


バガスは、先ほど作戦を提案した青年を鋭い目で見つめている。


「俺たちはもう知っている」


「お前は……俺たちの仲間じゃない」


その瞬間。


会議室が完全な静寂に包まれた。


「お前がこれまで伝えてきた情報は――全部、偽物だ」


青年はしばらく言葉を失った。


やがて顔を青ざめさせ、震える声で答える。


「な、何を言ってる……? そんなはずはない……どうして分かった!?」


「最初から気づいていた」


バガスは一切の迷いなく答えた。


「お前の仕草、話し方、そして何かを聞かれた時の反応……」


「全部、俺たちとは合っていなかった」


室内にいた他のメンバーたちが、ゆっくりと青年を取り囲む。


その中には、俺たちの仲間もいた。


全員が警戒しながら、青年から目を離さない。


「ま、待て……!」


青年は慌てて後退し、両手を上げた。


「俺は――」


しかし、その言葉が最後まで続くことはなかった。


乾いた一発の銃声が、会議室に響き渡った。


青年はその場に倒れ、室内には重い沈黙だけが残った。


しばらくして、バガスがゆっくりと息を吐く。


そして、俺たち一人一人の顔を見渡した。


「……本当の作戦は、ここからだ」


バガスが語り始めた。


それは、先ほどまで話し合っていた作戦とはまったく異なるものだった。


PANDEMONIUMに対して、完全に服従したように振る舞う。


まるで抵抗する意思など、もう残っていないかのように。


そして敵に――「抵抗勢力は完全に消えた」と思わせる。


敵の警戒が最も緩んだ、その瞬間。


各地で一斉に反乱の火を灯す。


それが、バガスの本当の計画だった。


「奴らに、すべて終わったと思わせるんだ」


「そして……油断した瞬間に、一斉に動く」


こうして、その作戦は正式に開始された。


やがてPANDEMONIUM軍が再び前進を始める。


彼らは完全に信じていた。


この地での抵抗は――すでに完全に崩壊したのだと。


だが、その裏側では。


誰にも知られることなく、反撃の火が静かに燃え始めていた。


――まだ誰も、その炎がどれほど大きく燃え上がるのかを知らない。


――次回へ続く。

少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ページ下部の**【ブックマークに追加】や【評価(★★★★★)】**をいただけると嬉しいです!

皆様の応援が執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。