第51話: 夜明けまで続く海戦
はじめまして、または再びこんにちは。今回もお付き合いいただきありがとうございます。
日本海。
夜の闇は、いまだ海全体を覆っていた。
激しい雨と高波の中、日本艦隊十五隻は必死に隊形を維持していた。
その前方には、PANDEMONIUMの二十八隻が追撃態勢を整えている。
数の差は、あまりにも明白だった。
「敵艦、さらに接近しています!」
「まだ追ってくるの……!?」
スズランは戦術モニターを見つめた。
赤い反応が次々とこちらへ近づいてくる。
「……十五隻対二十八隻、か」
スズランは小さく息を吐いた。
「さすがに、数が多すぎるわね」
その時――。
「敵艦に動きがあります!」
「攻撃してきます!」
暗闇の向こうで、いくつもの閃光が走った。
直後、爆発音が海面を震わせる。
「全艦、警戒レベルを上げて!」
艦隊全体が再び大きく揺れた。
激しい雨と高波によって、視界はほとんど失われている。
「敵の位置を特定できません!」
「この天候じゃ、無理もないわ!」
スズランは、ただ前方を見つめ続けていた。
そして――。
「……ん?」
激しい雨のカーテンの向こうに、何かが見えた。
最初は、ただの黒い影にしか見えなかった。
しかし、その影は少しずつ大きくなっていく。
「……艦影?」
オペレーターが急いでセンサーを確認する。
「所属不明艦を確認!」
「所属不明艦?」
スズランは目を細めた。
その艦は、まっすぐ日本艦隊へ向かって進んでいる。
「待って……まさか――」
次の瞬間――。
その艦がスズランの空母の前へと割り込んだ。
「えっ……!?」
直後――。
「――BOOOOM!」
巨大な爆発が海上を揺るがした。
その衝撃は、空母の指揮室にまで伝わってくる。
「きゃあっ!」
スズランは慌てて指揮卓につかまった。
「何が起きたの!?」
オペレーターが叫ぶ。
「前方の護衛艦が攻撃を受け止めました!」
「護衛艦が……?」
スズランは目を大きく見開いた。
激しい雨の向こうに、一隻の護衛艦が見える。
その艦は、まるで空母を守る盾のように前方へ進み出ていた。
「どうして……?」
その時――。
通信回線に新たな信号が入った。
「こちら援軍艦隊!」
「スズラン艦隊、聞こえますか!?」
スズランは一瞬、言葉を失った。
「……援軍?」
「そうです!」
通信士は力強く答えた。
「到着が遅れましたが、まだ間に合います!」
スズランは拳を握りしめる。
そして、すぐに命令を下した。
「全艦、撤退開始!」
「了解!」
十五隻の日本艦隊が、一斉に進路を変更する。
護衛艦隊は後方へ回り込み、撤退する艦隊を守るように展開した。
スズランの空母も、可能な限り速度を上げてその場を離れていく。
「もっと速度を上げて!」
「これ以上は艦体への負荷が大きすぎます!」
「構わないわ!」
スズランは後方を振り返った。
遠くの闇の中には、いまだPANDEMONIUMの艦影が浮かんでいる。
「……まだ終わってない」
PANDEMONIUM艦隊は、すぐさま追撃を開始した。
二十八隻の艦艇が、荒れ狂う海を進んでいく。
日本艦隊は必死に距離を取ろうとしていた。
「敵艦、まだ追ってきます!」
「距離は!?」
「少しずつ縮まっています!」
スズランは再び戦術モニターへ目を向けた。
「夜明けまで、あとどれくらい?」
「数時間です!」
「だったら、それまで耐えるわ!」
時間だけが、容赦なく過ぎていく。
やがて雨は少しずつ弱まり始めた。
しかし、海には依然として巨大な波が残っている。
日本艦隊とPANDEMONIUM艦隊による追撃戦は、夜通し続いていた。
午前四時。
東の空が、ほんのわずかに明るくなり始めた。
「……夜明け?」
スズランは窓の外へ目を向ける。
真っ黒だった空が、少しずつ濃い青色へと変わっていた。
「視界、回復してきています!」
「レーダーも、少しずつ安定しています!」
スズランは小さく笑った。
「ようやく……ね」
しかし、その直後――。
「後方に敵艦!」
オペレーターが再び叫んだ。
スズランは勢いよく振り返る。
「まだ追ってくるの!?」
遠くの海には、PANDEMONIUMの艦艇がいまだに姿を見せていた。
二十八隻。
その追撃は、まったく止まっていない。
「……本当にしつこいわね」
スズランは苦笑するしかなかった。
一方、PANDEMONIUM側でも報告が入る。
「日本艦隊との距離、まだ十分に縮まりません!」
アキラは黙ってモニターを見つめていた。
「……あれだけ消耗して、まだあの速度を維持できるのか?」
「はい」
アキラはしばらく無言だった。
そして――。
「……夜明けが来るぞ」
艦橋の外では、空がゆっくりと明るくなっていく。
黒い雲の隙間から、朝の光が差し込み始めた。
日本海を覆っていた嵐も、ようやくその勢いを失いつつあった。
だが――。
戦いは、まだ終わっていない。
日本艦隊十五隻。
PANDEMONIUM艦隊二十八隻。
一晩中続いた追撃戦は、ついに夜明けを迎えた。
そして、遠くの水平線――。
そこに、いくつもの新たな艦影が浮かび始めた。
スズランは、その光景をじっと見つめる。
「……あれは?」
オペレーターが突然、声を上げた。
「新たな艦隊を確認!」
スズランの目が大きく見開かれる。
朝日の光を背にして、さらに多くの艦影が次々と姿を現していく。
その時、新たな通信が入った。
『こちら日本艦隊本隊。遅れてすまない』
スズランは、しばらく何も言わなかった。
やがて――。
その口元に、小さな笑みが浮かぶ。
「……遅すぎよ」
しかし、その声には安堵が滲んでいた。
長い夜の間、日本海を覆っていた嵐は、ようやく終わりを迎えようとしている。
だが――。
新たな艦隊の到着によって、この海戦はむしろ次の局面へと移ろうとしていた。
――次回へ続く。
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