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『拾われた孤児、拾い主はまさかの退役軍人にして天才科学者』  作者: ティラピア池
第二部:崩壊の始まり

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第49話: 遅れて訪れた勝利の宴

はじめまして、または再びこんにちは。今回もお付き合いいただきありがとうございます。

戦争が終わってから、しばらくの時間が経った。


街では、戦争によって失われた建物や道路の復旧が急速に進められていた。


無人機による上空からの測量。


AIによる建築設計。


そして、自動化された建設機械。


かつてなら何年もかかったかもしれない復旧作業が、わずか数か月という驚異的な速度で進んでいた。


「……すごいな」


自転車を止めたヒカルは、目の前で再建されていく街を眺めていた。


空には複数のドローンが飛び交い、地上では無人の建設車両が黙々と作業を続けている。


崩れていた道路は整備され、新しい建物の骨組みが次々と組み上がっていく。


以前の街に戻る日も、そう遠くはない。


「AIとドローンか……戦争ではあんなに苦労したのに、復興ではこいつらが大活躍するんだな」


ヒカルは苦笑した。


技術は、人を殺すためだけにあるわけではない。


使い方次第では、人々の生活を取り戻すためにも使える。


しかし――。


「……それでも、戻らないものもある」


ヒカルの表情から笑みが消えた。


建物は建て直せる。


道路も、橋も、街も。


壊れたものなら、時間と技術さえあれば再び作ることができる。


だが――。


失われた命だけは、どれだけ技術が進歩しても元には戻らない。


「……」


ヒカルはしばらく黙っていた。


そして、自転車を再び走らせる。


向かった先は、以前から決めていた場所だった。


父の墓。


やがて、墓地へと到着した。


そこにはすでに多くの人が訪れていた。


ヒカルは少し離れた場所で立ち止まり、静かに待つ。


昼が過ぎ、夕方になり――。


そして、夜が訪れた。


人の姿が少なくなり、やがて墓地は静寂に包まれた。


「……今なら、いいか」


ヒカルはゆっくりと父の墓の前へ歩いていった。


墓石の前に立ち、しばらく何も言わずに見つめる。


そして、顔を上げた。


夜空には雲が流れていた。


「……父さん」


小さく呟く。


「そっちは……どうなんだ?」


返事はない。


ただ、風が静かに吹いている。


「楽しくやってるのかな」


ヒカルは薄く笑った。


「……それとも、俺のことを心配してる?」


しばらく空を見上げたあと、ふと小さな笑いが漏れた。


「もしかして……異世界に転生してたりしてな」


「……いやいや」


ヒカルは自分で首を振った。


「第二の人生なんて……映画とかアニメの中だけだろ」


「はは……」


軽く笑いながら、墓前に持ってきた花を静かに供える。


「じゃあな、父さん」


「また来るよ」


ヒカルは最後にもう一度だけ墓を見つめると、その場を離れた。


――その直後。


ポケットの端末が鳴った。


「ん?」


画面を見る。


部下からの通信だった。


「ヒカル様、現在どちらに?」


「墓参り。どうした?」


「至急、司令部までお戻りください」


「……何かあったのか?」


「いえ。そういうわけではありません」


「じゃあ何だよ」


少し間を置いて、部下が答える。


「勝利記念の祝賀会です」


「……今?」


「はい」


「遅くない?」


「かなり遅いです」


「……」


ヒカルは思わず苦笑した。


「海戦はまだ終わってないんだけどな」


「それでも、陸上戦の勝利は祝うべきだ、と」


「なるほどね……」


ヒカルは空を見上げた。


そして、小さく息を吐く。


「……分かった。行くよ」


自転車に乗り、司令部へ向かう。


しばらく走ったところで、ヒカルは突然自転車を止めた。


「……っ」


肩を回す。


数か月にわたって積み重なった緊張。


戦争中、ずっと背負い続けてきた重圧。


それが、戦いが終わった今になって一気に身体へ押し寄せてきたような気がした。


「……重いな」


ヒカルは両腕を胸の前で組む。


そして上半身をゆっくりと左右へひねった。


「よい……しょっと」


グッ。


ググッ。


「……」


さらに左右へ。


「……来い、俺の背骨」


そして――。


「クキッ!」


「クキッ!」


「クキッ!」


静かな再建地区に、妙に鋭い音が響いた。


「……あー」


ヒカルは肩を落とした。


「生き返った気がする」


「いや、死んでないけどな」


一人でそう呟き、再び自転車を走らせる。


そして――。


司令部へ到着した。


「ここか」


ヒカルは入口の前に立つ。


扉へ手を伸ばし――。


ガチャッ。


「ただい――」


パンッ!!


「「「おかえりなさい、ヒカル!!」」」


「……え?」


突然、無数の紙吹雪が舞った。


「……」


ヒカルは完全に固まった。


その目の前には、祝賀会の準備を終えた大勢の仲間たち。


「勝利、おめでとう!!」


「ヒカル、よく頑張ったな!」


「……」


ヒカルは何も言えなかった。


胸の奥が、じわりと熱くなる。


そこには、カゲロウもいた。


リンドウもいる。


そして、二人の副司令官。


父のかつての部下であり、今ではヒカルを支える立場となった者たちの姿もあった。


さらに、多くの兵士や関係者たちが集まっている。


「……こんなに?」


ヒカルは小さく呟いた。


カゲロウが笑う。


「当然でしょう」


リンドウも腕を組みながら笑った。


「お前がいなかったら、ここまで来られなかったからな」


「……」


ヒカルは俯いた。


目元が少し熱くなる。


そして――。


ゆっくりと顔を上げた。


「……ああ」


小さく笑う。


「そうか」


一歩、会場の中へ入る。


「……ただいま」


そして、少しだけ照れながら言った。


「……じゃなくて」


ヒカルは笑った。


「おかえり、俺」


その言葉に、周囲から笑い声が起こった。


「はははは!」


「何だそれ!」


ヒカルもつられて笑った。


久しぶりに――。


心から笑えた気がした。


しかし、ふとヒカルが周囲を見回す。


「……あれ?」


「どうした?」


「姉ちゃんは?」


カゲロウを見る。


「スズラン姉ちゃんと、ホタル姉ちゃんは?」


その問いに答えたのは、リンドウだった。


「……まだ海だ」


「海?」


「そうだ。海戦がまだ終わっていない」


「……」


リンドウは少しだけ表情を曇らせた。


「二人とも、まだ戦っている」


ヒカルは黙った。


「……無事だといいけどな」


リンドウはそう呟いた。


「きっと大丈夫だ」


カゲロウも静かに続ける。


「二人とも、簡単にはやられない」


「……そうだな」


ヒカルは小さく笑った。


「帰ってくるよな」


「もちろんだ」


リンドウが頷く。


「……二人とも、生きて帰ってくる」


その言葉を聞きながら――。


ヒカルは、窓の外へ視線を向けた。


遠くの空。


そのさらに向こう。


海がある。


そして――。


まだ終わっていない戦場がある。


ヒカルは知らなかった。


その頃、遥か彼方の海上では――。


「……敵艦隊、接近!」


「レーダーに反応多数!」


「スズラン隊、応答してください!」


「ホタル将軍! 敵艦隊がこちらへ向かっています!」


暗い海。


荒れる波。


夜空を切り裂くように飛び交う航空機。


そして――。


遠くの水平線に、無数の光が現れる。


「……まさか」


誰かが呟いた。


「まだ……終わっていないのか?」


――海戦、最終局面。


次回へ続く。

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