第45話: 最後の防衛線――鋼鉄の巨獣
はじめまして、または再びこんにちは。今回もお付き合いいただきありがとうございます。
バルドルが笑った理由。
それは、ついに地上部隊から新たな報告が届いたからだった。
パンデモニウム軍は、すでに日本の大部分を制圧していた。
そして、最後の攻撃が成功すれば――。
日本の全土が、パンデモニウムの支配下に置かれることになる。
しかし、その数分後。
新たな報告が入った。
日本軍の偵察部隊が、奇妙な動きを発見したのだ。
パンデモニウム軍の進軍パターンが、突然変化していた。
これまでのように一斉に進むのではない。
いくつかの部隊が、その場で停止している。
さらに、別の部隊は突然進路を変更していた。
日本軍はすぐに理解した。
――敵は、何かを準備している。
現在、日本政府の支配下に残されている都市は、わずか二十都市ほど。
そこで日本軍は、残されたすべての都市に防衛部隊を配置し、戦力を集中させることを決定した。
その中でも、最も重要な場所が一つだけあった。
――国体城。
日本政府が最後に残した、唯一の中央政府拠点である。
もしここが陥落すれば、日本政府は事実上、中央指揮機能を失うことになる。
そのため、日本軍とロシア軍は最後の防衛線へ次々と集結していった。
その名は――。
シゲノリ・ライン。
そして――。
再び、大規模な戦闘が始まった。
夜空には無数の航空機の轟音が響き渡る。
地上では、装甲車両の進撃によって大地が震えていた。
パンデモニウム軍の戦車部隊が、大規模な隊列を組んで前進してくる。
日本軍とロシア軍の戦車部隊は、それを必死に食い止めようとしていた。
敵の装甲車両が次々と戦闘不能になっていく。
しかし――。
立ち込める煙の向こう側から、それは姿を現した。
P.1000。
巨大な鋼鉄の怪物。
その巨体がゆっくりと、最後の防衛線へ向かって進んでくる。
P.1000が姿を現すたびに、日本軍とロシア軍は戦闘隊形を変更せざるを得なかった。
それでもP.1000は止まらない。
進路を塞ぐ装甲車両を次々と押し退けながら、前進を続けていく。
だが――。
今回は違った。
日本軍とロシア軍の特殊部隊が、すでに待ち構えていた。
複数の隠された射撃地点から、対戦車誘導ミサイルを含む対装甲兵器が一斉にP.1000へ照準を合わせる。
「――WUSSH!」
一発のミサイルが飛翔する。
「――WUSSH!」
続けて、別のミサイルが放たれた。
P.1000は複数方向から飛来する攻撃を受けながらも、光学センサーによる視界を維持しようとする。
しかし――。
それでも、この怪物は止まらなかった。
ゆっくりと、確実に前進していく。
目指す場所は――。
日本に残された、最後の中央政府拠点。
国体城。
その瞬間――。
「――VRRROOOOOOOOM――!!」
夜空を、超音速の轟音が切り裂いた。
地上にいた兵士たちが、一斉に空を見上げる。
東京上空を覆う灰色の雲。
その向こう側から、一機のロシア軍戦闘機が姿を現した。
スホーイ・スー57『フェロン』。
ロシア空軍が誇るステルス戦闘機だった。
スー57は敵のレーダー網をかいくぐりながら戦場上空へ進入する。
地上の特殊部隊から送られてくる座標を受け取り、パイロットは最終攻撃の準備に入った。
「……目標を確認」
地上では、特殊部隊員の一人が通信装置を握りしめていた。
「目標、座標内に入りました」
その報告を受けた瞬間――。
スー57が機首を下げる。
急降下。
P.1000は、依然として防衛線へ向かって進んでいた。
空から迫る脅威には、まだ気づいていない。
そして――。
「――WHOOSH!」
上空から、一撃が放たれた。
地上にいる兵士たちは、ただ空を見上げることしかできなかった。
次の瞬間――。
これまでどれだけの攻撃を受けても止まらなかった鋼鉄の怪物が――。
初めて、その動きを止めた。
――パンデモニウム軍・指揮艦――
パンデモニウム軍の指揮艦。
その艦橋で、バルドル・クライシュは最新の戦況報告を受け取っていた。
それまで自信に満ちていた彼の表情が、一瞬にして険しくなる。
地上部隊の戦況は、明らかに悪化していた。
P.1000は依然として健在。
しかし、その進撃速度は確実に落ち始めている。
このまま戦闘が長引けば――。
日本を制圧するための地上部隊そのものが不足する可能性があった。
バルドルは強く拳を握りしめる。
「……ふざけるな」
その声には、これまでにない怒りが滲んでいた。
「もう少しで日本全土を制圧できるんだぞ!」
「それなのに……なぜ地上部隊が、ここで足止めされている!?」
戦術モニターには、依然として日本各地の戦況が表示されている。
一方には――。
パンデモニウム。
もう一方には――。
日本軍とロシア軍。
そして、その中央に存在するのは――。
P.1000。
未だ倒れることのない、鋼鉄の巨獣。
バルドルは緊張した表情で、その姿を見つめ続けていた。
その時――。
一人のオペレーターが突然叫んだ。
「クライシュ将軍!」
バルドルが振り返る。
「何だ!?」
オペレーターはレーダー画面を確認しながら叫んだ。
「P.1000の前方に――新たな反応です!」
バルドルの動きが止まった。
「……新たな反応?」
戦術モニターが切り替わる。
そして、P.1000の前方に存在する一つの反応が、大きく拡大表示された。
「…………」
バルドルは、その画面を無言で見つめる。
一体、何が待ち構えているのか――。
――次回へ続く。
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