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『拾われた孤児、拾い主はまさかの退役軍人にして天才科学者』  作者: ティラピア池
第二部:崩壊の始まり

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第43話 現代型パンツァーVI VS 現代型T-34――鋼鉄の一騎打ち(後編)

はじめまして、または再びこんにちは。今回もお付き合いいただきありがとうございます。

二体の現代鋼鉄兵器は市街地の境界を突破し、横須賀の深い森林へと一気に突入していった。


その瞬間、周囲の空気が一変する。


密集した木々の枝葉が月明かりを遮り、森には不気味な静寂だけが残されていた。


静まり返った横須賀の森の闇の中。


ロシア軍の現代型T-34はエンジンを停止し、濃い植生の奥へと身を隠した。


車体は夜の影と完全に一体化し、まるで森そのものに溶け込んだかのようだった。


しばらくして――。


遠くから、鋼鉄の履帯が地面を擦る音がゆっくりと近づいてくる。


パンデモニウムの現代型パンツァーVIが、警戒しながら森の中へと侵入してきた。


敵を探しているのだ。


そして、パンツァーVIが完全に死角へ入った瞬間――。


ロシア側の車長が叫んだ。


「撃て!」


KLANK――BOOM! KLANK――BOOM!


T-34から二発の砲弾が至近距離で連続して放たれた。


二連撃はパンデモニウムのパンツァーVI側面を直撃し、追加装甲を大きく損傷させる。


灰色の煙が車体から立ち上った。


しかし――。


現代型パンツァーVIの装甲技術は、それほど甘くなかった。


車体は損傷し、走行もやや不安定になったものの、パンデモニウムの戦車はまだ健在だった。


自分たちの位置が完全に露見したことを悟ったパンデモニウム側の車長は、即座に隠された兵装を起動する。


砲塔上部に偽装されていたパネルが開き、その内部から一発の戦術追尾ミサイルが姿を現した。


次の瞬間――。


ミサイルは垂直に空へと飛び上がり、直後に急降下。


ロシア軍のT-34を追尾し始めた。


「追尾ミサイルだ! 回避機動!」


ロシア軍のT-34は即座にエンジンを吹かし、横須賀の森を縫うように右へ、左へとジグザグに走り始めた。


追尾ミサイルは執拗にT-34を追い続け、夜の森を不気味な飛翔音が切り裂いていく。


そして――最後の瞬間。


ロシア軍の操縦手がハンドルを限界まで切った。


T-34が大きく旋回すると、ミサイルはわずかに軌道を外れ、そのまま背後の岩壁へと突っ込んだ。


BOOOOM!


大きな爆発音が森に響き渡る。


どうにか逃げ切ったものの、T-34の乗員たちはすでに限界寸前だった。


激しい疲労で呼吸は荒くなり、さらに戦車の油圧システムにも不具合が発生し始めていた。


それでも、パンデモニウムのパンツァーVIは追撃を続ける。


残された出力を振り絞り、進路上の木々を次々となぎ倒しながら、T-34との距離を詰めていった。


そしてついに――。


森の中央にある小さな開けた場所へと出た。


そこには、完全に停止したロシア軍のT-34があった。


しかし――何かがおかしい。


T-34のハッチが開いている。


ロシア軍の乗員たちは車外へ降りると、両手を高く掲げた。


パンデモニウムのパンツァーVIは警戒したまま、その場で停止する。


するとロシア軍の車長が数歩前へ進み、パンツァーVIのセンサーを鋭く見つめた。


そして腰から古びた拳銃を取り出す。


彼はそれを空へ向けた。


それは――戦車ではなく、人間同士の決着をつけようという明確な挑戦だった。


その挑戦を受けるように、パンツァーVIのハッチも開く。


パンデモニウムの士官がゆっくりと車外へ降り、現代式の拳銃を手に取った。


横須賀の森を包む静寂の中――。


二人の士官は互いに向き合った。


そして、拳銃による決闘が始まった。


二人は木々の陰から陰へと身を移しながら、互いに銃撃を交わしていく。


小さな銃声が静かな森の中に何度も響き渡った。


戦いは長く続いた。


やがて二人とも疲労困憊となり、動きは次第に鈍くなっていく。


そして、最後には二人の拳銃から弾がなくなった。


森の中に、再び静寂が戻る。


至近距離で向かい合う二人。


長い戦いによる疲労と、この戦争そのものの狂気を理解した瞬間――。


二人は同時に武器を下ろした。


敵同士であるはずなのに、不思議な静かな時間が流れる。


そこには、一瞬だけ互いを認め合うような奇妙な敬意があった。


ロシア軍の士官は自分の水筒を投げた。


パンデモニウムの士官は、それを片手で受け取る。


二人はしばらく休息し、互いの健闘を称え合った。


そして、簡単な応急処置をしながら体力を回復させる。


パンデモニウムの士官が、たどたどしいロシア語で呟いた。


「……印象的な出会いだった」


「だが――任務は任務だ」


ロシア軍の車長は苦笑しながら頷いた。


「そうだな」


「なら、戦車兵として決着をつけよう」


二人は再び、それぞれの戦車へ戻っていった。


二台のエンジンが同時に唸りを上げる。


決着の時が来た。


今度の戦場は、横須賀の森の奥。


そこには深い断崖があり、その谷底にはまだ作動状態にある対戦車地雷が多数残されている危険区域が広がっていた。


DHAAMMM! KLANK――BOOM! DHAAMMM!


砲撃音が森全体を揺らす。


何度も響き渡る砲声に、鳥たちは一斉に飛び立ち、森の動物たちも周囲へ散っていった。


横須賀の森を覆っていた濃い霧さえも、爆発による衝撃波で大きく揺らいでいく。


二台の戦車はともに激しく損傷していた。


追加装甲は破損し、履帯が激しく振動する。


そして車体からは油が漏れ、地面へと広がっていた。


それでも――。


最後のチャンスを見つけたロシア軍のT-34は、無謀ともいえる突撃を開始した。


エンジンを全開にし、パンツァーVIへ向かって一直線に突っ込んでいく。


――体当たりだ。


GAAAAANG!


T-34の鋼鉄の車体がパンツァーVIへ激突した。


巨大な衝撃によってパンツァーVIは後方へ押し込まれ、その車体の半分が崖の外へとせり出してしまう。


あと少しで、谷底へ落下する。


それを見たロシア軍の車長は、すぐにハッチを開けて戦車から飛び降りた。


彼は崖の端まで走り、パンデモニウムの士官へ手を伸ばす。


パンツァーVIの車体に必死につかまっている相手を、助けようとしていた。


「俺の手を掴め!」


しかし――。


パンデモニウムの士官は、ロシア軍の車長をじっと見つめた。


その表情には、苦い決意が浮かんでいた。


彼は谷底へ視線を向ける。


そこでは漏れ出した燃料に引火し、火が広がり始めていた。


そして――。


彼は静かに笑った。


「……悪いな」


パンデモニウムの士官は残された力を使い、自らの手をロシア軍の車長の手から離した。


「なっ――!」


次の瞬間。


パンツァーVIと、その車長の身体は谷底へ向かって落下していった。


時間が、ゆっくりと流れていく。


――スローモーション。


パンツァーVIは谷底へ落下し、その下に残されていた対戦車地雷へと到達した。


そして――。


D――――――――N!


連鎖する爆発が谷底を覆った。


炎の壁が大きく空へと立ち上り、夜の森を赤く照らし出していく。


ロシア軍の車長は、崖の上でその光景を静かに見つめていた。


自分のライバルが、自らの道を選んだことを理解する。


そして――。


彼はゆっくりと背筋を伸ばした。


右手をこめかみへ上げる。


最後の敬礼。


敵でありながら、最後まで戦い抜いた一人の戦車兵への、最大限の敬意だった。


燃え上がる谷底を背に、ロシア軍の車長は静かに敬礼を続ける。


横須賀の森に響き渡る炎の音。


こうして――。


パンデモニウムとロシア軍。


二人の戦車兵による鋼鉄の決闘は、静かに幕を閉じた。


残されたのは、夜空へ立ち上る炎と、決して忘れられることのないライバルとの記憶。


――鋼鉄と鋼鉄。


敵と敵。


それでも最後には、互いの強さを認め合った。


横須賀の森に残されたその炎は、二人の戦車兵の間に生まれた奇妙な友情と、戦場における誇りの証のように、夜空を赤く照らし続けていた。


――次回へ続く。

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