第42話 現代型パンツァーVI VS 現代型T-34――鋼鉄の一騎打ち
はじめまして、または再びこんにちは。今回もお付き合いいただきありがとうございます。
戦術車両の車内に設置されたモニターが、赤く点滅していた。
異なる陣営に属する二人の車長は、ほぼ同時に同じ決断を下す。
――指揮系統のメインスイッチを押した。
カチッ。
その瞬間、最新式の無線通信システムが完全に遮断された。
静寂。
司令部からの指示もない。
外部からの干渉もない。
聞こえるのは、二人の荒い呼吸と、互いを引き裂こうと唸りを上げるエンジンの轟音だけだった。
この一騎打ちは、完全に彼らだけのものとなった。
人気のない都市のアスファルト、その先。
パンデモニウム軍の鋼鉄の怪物が、静かに標的を捉える。
それは、攻撃的な傾斜装甲を備えた現代改修型パンツァーVI。
その車長を務めるのは――。
フェンリル・アルドリック大尉。
そして、その砲身の先にはロシア軍の現代改修型T-34がいた。
車長は――。
ミハイル・オルロフ大尉。
次の瞬間。
パンデモニウム軍のパンツァーVIが、先に火を噴いた!
ドォォォンッ!!!
敵の現代式レールキャノンが、静まり返った街を震わせる。
超高速で放たれた砲弾が空気を切り裂き、青白い閃光の軌跡を残してT-34へ迫った。
シュゥゥゥン――ガンッ!
直撃は紙一重で外れた。
砲弾はロシア軍T-34の正面装甲、その傾斜部分をかすめていく。
激しい火花が飛び散り、装甲表面の保護層が削り取られ、赤熱する。
T-34の車内では警報がけたたましく鳴り響いた。
「クソッ! 間一髪だった!」
オルロフは額から流れる汗を拭いながら叫ぶ。
「アクセル全開! 逃げろ!」
現代改修型T-34は一気に加速した。
古い都市の商店街を縫うように走りながら、左右へ不規則な機動を繰り返す。
敵のレーザー照準システムを撹乱するためだ。
だが――。
パンデモニウムのパンツァーVIは、獲物を逃さなかった。
巨大な車体がT-34を追い、路肩に停められていた車両を次々と押し潰しながら進んでいく。
ドォォンッ!
二発目。
パンツァーVIの砲撃が放たれた。
砲弾はT-34をわずかに外れ、道路脇へ着弾する。
爆風によってコンクリート片が宙へ舞い上がった。
しかし――。
T-34も反撃する。
高速走行を続けたまま、砲塔が後方へ旋回した。
カランッ――ドォン!
オルロフの反撃が放たれる。
短距離誘導弾が、パンデモニウムの戦車へ向かって飛翔した。
ヒュゥゥゥン――!
だが、パンツァーVIは素早く回避行動を取った。
同時に、チャフを展開する。
誘導弾は目標を見失い、進路を外れた。
そのまま道路脇にあった伝統的な日本の寺院の門へ突っ込み、大きな破砕音とともに崩れ落ちる。
ドォォン! ドォォン!
続けざまに二発。
パンツァーVIの連装主砲が火を噴いた。
周囲の空気が激しく震える。
一発はT-34後部のハッチ付近で炸裂し、最新式センサー用アンテナを損傷させた。
もう一発は車体のすぐ下のアスファルトを削り取り、T-34を爆風で大きく揺さぶる。
それでも、オルロフは見事に車体を制御した。
「左急旋回! 建物の隙間へ入れ!」
オルロフが操縦手へ叫ぶ。
T-34は一気に左へ切り込んだ。
ガシャァァァン!!!
履帯が激しく地面を削り、コンクリート製の建物の基礎へ接触する。
さらに、日本独特の木造建築の柱を巻き込み、建物の一部が大きな音を立てて崩れ落ちた。
しかし、T-34の進路変更を見たアルドリックは、速度を落とさなかった。
パンツァーVIは油圧式ジェット・ブースターを作動させる。
巨大な車体が鋭く方向を変え、T-34の後を追っていく。
幅広い履帯がアスファルトを強く捉え、金属が擦れる甲高い音が街中に響き渡った。
やがて二両は都市の外縁部へ到達する。
アスファルトの道路は途切れ、代わりに泥濘に覆われた地面が現れた。
周囲には鬱蒼とした森林が広がっている。
古い木々の枝が巨大な二両の装甲車両を擦りながら、激しい速度で走り抜けていく。
オルロフは小さく舌打ちした。
視線を緊急用ナビゲーションマップと、バックミラーに映るパンツァーVIの影へ交互に移す。
「……あいつ、止まる気がないな」
オルロフは奥歯を噛み締める。
「だったら、俺も止まらない」
彼は隣にあるレバーを引いた。
――T-34の緊急推進システムが起動する。
通常なら、本当に追い詰められた状況でしか使用しない最後の予備動力だ。
エンジン音がさらに激しくなる。
T-34は泥濘を蹴散らしながら、さらに速度を上げていった。
泥と落ち葉が後方へ高く舞い上がる。
一方、パンツァーVIの車内。
フェンリル・アルドリック大尉は、敵が早くも最後の切り札を切ったことを見て、薄く笑った。
「……面白い」
アルドリックは主砲のトリガーへ手を添える。
「さあ――どちらが先に息切れするか、見てみようじゃないか」
二両の鋼鉄の怪物は、暗い森の中をさらに加速していく。
轟々と響くエンジン音。
舞い上がる泥。
そして、互いを追い続ける二両の戦車。
その激しい追走だけが、勝者の決まっていない鋼鉄の決闘を見届けていた。
――果たして、この戦いの果てに生き残り、次の朝日を見るのはどちらなのか。
――次回へ続く。
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