【洋上決戦】第34話: 霧中の隙
はじめまして、または再びこんにちは。今回もお付き合いいただきありがとうございます。
Führerschiff(旗艦)の艦橋に立つBoden-Noyan(ボーデン=ノヤン)バルドル・クライシュは、雲の向こうに浮かぶ巨大な空母の輪郭を、じっと睨みつけていた。
やがて彼は振り返ると、艦橋にいる将校の一人へ向けて声を張り上げる。
「戦艦十二隻を出せ! あの空母がこれ以上接近する前に、迎撃しろ!」
「了解しました、Großer Führer(大将閣下)!」
攻撃隊形の指揮を任された将校は、ただちに命令を下した。
残存する中でも特に優れた十二隻の戦艦が、謎の空母へ向けて一斉に進撃を開始する。
しかし、それから間もなく――。
指揮官の顔から、みるみる血の気が引いていった。
「Großer Führer(大将閣下)……!」
震える声で、彼は報告する。
「我が艦隊が……消えました!」
「何だと?」
「突如として発生した濃霧に呑み込まれ、艦影を完全に見失いました! 通信も……完全に途絶しています!」
バルドル・クライシュは眉をひそめた。
胸の奥に、何か得体の知れないものが這い上がってくる。
それは、PandemoniumのGroßer Führer(大将)として長年戦場に立ってきた彼でさえ、滅多に感じることのない感情だった。
――不安。
「……何かがおかしい」
バルドルは低く呟いた。
細めた目で、戦場の大半を覆い始めた濃霧を睨みつける。
その霧は、自軍の艦艇の動きを完全に覆い隠し、敵味方の位置さえも曖昧にしていた。
その一方で、先ほどまで猛威を振るっていた百機を超える謎の戦闘機による攻撃も、突如として完全に停止した。
まるで何事もなかったかのように、戦闘機群は姿を消し、空には再び静寂が戻っていた。
しかし――。
バルドルは警戒を強めるどころか、早くも安堵の息を吐いた。
「……奴ら、撤退したか」
自分自身に言い聞かせるように呟く。
「ならば好都合だ! 全戦力を日本艦隊へ集中させろ!」
「今こそ、奴らを一気に叩き潰せ!!」
その命令は、瞬く間に残存するPandemonium艦隊全体へと伝達された。
だが――。
一瞬の安堵から生まれたその油断こそが、致命的な隙となった。
その頃、スズランは自艦の艦橋から敵艦隊の動きを注意深く観察していた。
そして、敵の隊形に生じた僅かな変化を見逃さなかった。
「……防御が薄くなっている」
スズランは即座に艦隊通信を開く。
「全艦へ通達! 今よ!」
「全戦力をもって攻撃開始!!」
その命令に、日本艦隊の残存艦艇が一斉に応じた。
主砲が一斉に火を噴き、巡航ミサイルが各方面から次々と飛翔する。
それまで守勢に回っていた艦隊が、一転して総攻撃へと移行した。
狙いはただ一つ。
一瞬の油断によって生じた、敵艦隊の防御の薄い地点だった。
次々と爆発が巻き起こり、数日前から瓦礫と黒煙に覆われていた海面が、再び凄まじい閃光に包まれていく。
残された日本艦艇は、一隻たりとも力を温存しなかった。
持てる戦力のすべてを叩き込み、敵の隙を最大限に突いていく。
「な、何をしているッ!?」
バルドルは艦橋から怒号を上げた。
先ほどまで圧倒的な優勢を誇っていた自軍の隊形が、予想もしなかった反撃によって再び崩れ始めている。
「迎撃しろ! 隊形を立て直せ!」
しかし、混乱は瞬く間に艦隊全体へと広がっていった。
戦闘は激しさを増し、互いに一歩も引かないまま続いた。
そして――。
終わりがないように思えた長い戦いの末、ついに両軍は一時的に戦場から距離を取った。
疲弊し、傷つきながらも、どちらも完全な勝者とはなれなかった。
もちろん、完全な敗者もいない。
――海戦は、まだ終わっていない。
***
その海戦が繰り広げられている場所から、遥か遠く。
私は、休むことなく稼働し続ける生産施設の一角で、設計机の前にぐったりと座り込んでいた。
目は重く、目の下には濃い隈ができている。
何日もまともに眠らず、頭の中にある「理想の艦」を形にしようと試行錯誤を繰り返してきた結果だった。
私は、机の上に積み重ねられた大量の軍艦設計図を見つめる。
そのどれもが、自分で何度も作っては捨ててきたものだ。
「……はぁ」
どれだけ眺めても、満足できない。
頭の中に思い描いている完成形には、どうしても届かなかった。
「うあああああ……!」
私は頭を掻きむしりながら、目の前のホログラフィック・ディスプレイを睨みつけた。
そこには、またしても完成には程遠い最新の軍艦設計が表示されている。
「こんなに軍艦の設計図を作ってるのに……!」
「なんで全部こんなにダメなんだよ!?」
「一つくらい、まともなのがあってもいいだろぉぉぉ!」
私はデジタルペンを机の上へ放り投げた。
そして重たい息を吐きながら、施設の天井を見上げる。
――何か、いいアイデアはないのか。
そう考えるほど、なぜかその答えは遠ざかっていく。
日を追うごとに、閃きはますます掴みにくくなっていた。
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