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第4話 家族の隠し事

 翌朝、目が覚めてカーテンから差し込む光に目を細めながら携帯を手に取る。

画面には9時40分と表示されいて、昼前に人が来ることを思い出し、重い体を起こしてベッドから出た。

 

 着替えてリビングに向かうと、階段を下りる音で気づいた祖母と凛都が挨拶をしてれるが、力ない挨拶が返ってしまう。

 


「冷やし茶漬け用意しておくから、食欲ないかもしれないけど食べてね。」


「ありがとう。」



 先に顔を洗って歯を磨くために洗面所に行き、鏡の前で自分の顔を見て、初めて自分のひどい顔に気が付いた。

目の下は隈が濃く、気力のない顔をしている自分に思わず笑ってしまう。


 昨日の夜は、祖母が来てからようやく頭が働くようになって、言われるがままに大人しく部屋に戻ったが、結局寝付けずに考えても仕方がないことばかり頭の中を回っていた。

いつの間にか寝ていたようだったが、あまり寝た気はしない。


 支度を終えてリビングに戻れば、祖母は洗い物を終えて椅子に腰かけていた。

正面の席には用意してくれた冷やし茶漬けと、氷の入った冷えた麦茶が置かれている。

座って小さく「いただきます。」と言えば、祖母から「どうぞ。」とかえってきた。

食卓をこんなにも静かで寂しく感じたのは初めてだ。



 「ごちそうさま。」



 食べ終えた合図とともに祖母が立ち上がる。



「食器洗っちゃうから頂戴。」



 茶碗とスプーンを受け取ろうとする祖母に、「洗い物くらい自分でするから大丈夫。」と言って立ち上がり、キッチンへ向かう。

洗い終えてから、冷蔵庫に入っている麦茶を空になったコップに注ぎ、椅子に座り直すと凛都がソファから「昨日言ってた話してもいい?」と尋ねてきた。

頷くと、祖母が隣の席に移動して目の前に凛都が座る。



「彩仁さんが来る前に少し話しておかないといけないと思って。」



 祖母と凛都は目を合わせて少し気まずそうにしている。



「あのね、お父さんとお母さんの仕事の話なんだけど、本当はただの古物店経営者じゃないの。魂送隊(こんそうたい)っていう組織の一員で、送り人って言われる人達なの。」


「は?」



 なんだそのいかにも漫画にありそうな話はと、両親が行方不明だという時にいったい何を言い出すんだと思ったが、隣に座る祖母の表情も、凛都も真剣そのもので嘘をついているようには見えない。


 物心ついた時から両親の働く姿を間近で見てきた。

手伝いだってずっとしてきていたし、そもそも昨日だって仕事で査定と買取に…そう考えた時にそれが送り人というものの仕事だったのではないかと思い至った。



「魂送隊は千年以上前から存在する組織でね。異物と呼ばれる魂の宿った物に関する事象に対応するのが仕事で、送り人というのは各地に赴いて異物と戦ったり、回収、管理することを生業としている者達のことをいうんだよ。二人は色んな事情で壊すことが困難な異物の封印、管理を主に担っていて、昨日の仕事も送り人としてのものだった。」



 聞けば、今までの遠方に行っていた仕事の九割以上が送り人としての仕事で、必ず事前に祖母に連絡を入れていたらしい。

何かあったら、俺達の事を頼まれていたという。


 全く受け入れがたい内容をただただ聞いていることしかできず、現実味を帯びないことになんと返せばいいのか悩んでいると、凛都がおもむろに自分の目を見ていてくれと言った。

凛都の目の色は、母さんに似て少し色素が薄く茶色だが、見ていると突然青白く光りだし人の目とは思えない状態に変化した。



「なんだそれ…。」


「青魂の目っていって、魂の形や強さ、色を見ることができる目なの。生きている人と、幽霊とか、物に宿る魂はそれぞれ形が違ったり色が違ったりする。送り人は皆この目を持っていて、魂を見分けているんだって。」



 ゆっくりと目を閉じ、再び開くと元の瞳の色に戻っていた。



「覚えてる?私が小学校に入ったばかりぐらいの時、お店で大泣きした時のこと。」



 凛都がまだ小学校に入ったばかりの頃、学校が休みの日で店の手伝いをしていた。

それ自体はいつも通りの事だったが、突然凛都が火の玉が見えると言って混乱して泣き出したのだ。

一番近くにいた自分がなだめようにも、相当取り乱していてまるで泣き止む様子が無く、困っていた所を父さんが抱き上げて奥の部屋に連れて行った。

俺は母さんと一緒に店で待っているだけ。


 数十分ほどしたら泣きつかれた凛都を抱えた父さんが、奥の部屋から出てきて寝かせてくると言って、三階に行くのを見送り、その後戻ってきた父さんにも、母さん同様に大丈夫だと言われ、それ以上深く聞くことが無かったのを覚えている。


 小さい時からあまり泣くことが無く、稀に泣いた時には俺がなだめていた。

今までに無いほど泣いて、なだめることができないほどに混乱している様子は、後にも先にもあの時だけで、強烈に記憶に残っていたのだ。



「あの時に青魂の目が開眼して、初めてだったから制御することもできなくて、本当はもっと小さい時から時折、お父さんとお母さんに将来的に魂を見る目が開眼すること聞いてたんだけど…まあ…実際に見えてみたら制御もできないし、怖くなって取り乱しちゃったんだよね。」


「じゃあ、凛都も送り人?なのか?」


「ううん、私は違うよ。青魂の目を持っているからといって全員が送り人になれるわけではないらしくて、私は送り人になれるほどの力を持っていないんだって。ただ、将来的に見えるようになるから話してくれただけで…もし、私にもこの目がなかったら送り人のことは話していなかったと思う。」


「俺が何も聞かされてこなかったのは、俺だけが、その目を持っていないから…。」



 感じた疎外感に顔がうつむいていく。



「私も持っていないよ。」



 祖母ちゃんがフォローするようにくれた言葉に、一瞬顔が上がりかけるが、持っていないのに知っているという立場にあることに気づいて、上がりかけた顔は再びうつむく。



「ばあちゃんは持っていないのに知っていて、俺は持っていないのに知らなかった。俺だけが知らなかった。」



 子供のようにふてくされてしまう自分自身を、いつもなら恥ずかしく感じるだろう。

今はそんな恥ずかしさんなんかに意識を向ける暇はなく、ならなんで自分だけがと、仲間外れにされたような寂しさと、苛立ちを覚える。



「言えなかったのよ。」



 ちらっと見た祖母ちゃんの表情は、泣きそうに見えた。



「言えなかったの。私もあの子達と同じように子を持つ親だから、危険なことには関わって欲しくない。できれば一般人として過ごして一生を終えてほしい。私が、夕くんが送り人になると聞いた時から抱いてきた思いを、あの子達も、奨真君に青魂の目がないと知った時から抱き続けていたのよ。」



 今まで暮らしてきたことのすべてが嘘という訳ではないと思う。

ただ、いろんなことを四人が隠しながら、俺が普通の暮らしを送っていられるようにと隠してきていたのだろう。



「お母さん達は、兄さんには言うべき時が来たら言うからと、ずっと隠してきてたの。その時が来る前にもし、自分たちに何かあったら私と、お祖母ちゃんから話すようにも言われてた。だから、今から話すのは、私とおばあちゃんが知る限りのこと。」



 言い方からして、送り人というものについて全てを聞いているわけではないのだろう。



「彩仁さんについては、私は、お母さん達から何かあったら彩仁さんを頼りなさいって言われていて、魂送隊の中で最も信頼できる人の一人だからってことしか知らないの。だから、私から話せるのは異物という物についてとか、魂の種類について。」


「青魂の目は、魂を見分けることができるって話したでしょう?そもそも魂にはいくつか種類があるの。生きている人の魂を生魂(せいこん)。死後、生前の記憶を多数思っている状態の魂を霊魂(れいこん)。これが幽霊の魂のことね。それから廻魂。廻魂は最も真っ新な状態の魂で、転生を待って輪廻の輪にいる魂のこと。この廻魂が何らかの原因で現世に迷い込んでしまった時、迷魂と呼ぶんだって。そして、それらの何にも属さない魂を異魂というの。異魂は物に込められた強い思いが、長い時間をかけて魂へと姿を変えたもの。輪廻の巡りに属さない魂。生魂、霊魂、廻魂と迷魂、異魂、これらは全部形、強さ、色が違う。ちなみに、送り人の魂は生魂に当たるけど、魂が持つエネルギーの強さが一般人とは違う。お父さんとお母さんは送り人だから、私の目には全身を覆うほどの強い光を放つ魂が見えた。」


「じゃあ、送り人ではない凛都の魂は一般人と同じなのか?」


「青魂の目を持っている人は、みんな一般人よりは強いらしいんだけど、私の場合は送り人として活躍できるほどではないって感じかな。そういう人は結構いるみたい。だから送り人は希少らしいよ。」



 おそらく魂の強さによってランクみたいなものがあるのだろう。ランクで言えば低い位置にいるのが凛都のような、青魂の目はあるが戦えるほどではない。霊感に例えるなら、霊感はあるがはっきり見えはしないし、祓えもしないみたいな感じなのだろうか。



「あと、家にね、地下室があるの。」


「は?地下室?」



 これも初めて聞くことだった。

家は三階建ての一軒家で、一階が店、二階がリビングや風呂、和室などの共有スペース、三階に個人の部屋がある。

三階建てというだけで珍しいのに、まさか地下室まであるなんて思ってもみなかったし、地下室への扉も一切見当がつかない。



「地下室にはお父さんたちが管理してた異物が保管されているから、知らなくて当然なんだけど。」



 異物とかいうものの保管庫になっていたなら、そりゃ俺に知られるなんてことにはならないように、慎重だったんだろうなというのが思い浮かぶ。



「彩仁さんが来る一番の目的は、その異物の回収。お父さんたち、何かあったら管理してた異物の回収を彩仁さんに頼んでいたらしいから。」


「父さんたち、彩仁さんって人のこと本当に信頼してるんだな。」



 ずっと働いている姿を見てきたからこそ、物に対する父さんたちの接し方は知っているつもりだ。

異物という危険がある物ならなおのこと、へたな扱いはしないはず。

自分たちが管理していた物を、ちゃんと任せられるほどの人なのだろう。



「そうね。信頼というのもあるけれど、何より家族のような人だからね。」


「家族のような人?」


「彩仁郷くんって言ってね、二人が生まれるよりも前、まだ彼が十歳前後くらいだったかしら…。突然連れてきたのよ。私は。その時には送り人のこと知っていたから、詳しいことは聞かなかったんだけどね。異物関連の事件に巻き込まれたらしくて、一時期うちで面倒を見ていたことがあったの。家を出てからは会っていないから、今はどうなっているのかわからないんだどね。二人のことをとても慕っていたから、彼のことは信頼して大丈夫よ。」


 ずっと彩仁さんという人に警戒心が強くあった。

両親にとっては十年以上の付き合いになる人であり、一時期一緒に暮らしていたのだとしたら、あの話し方からしてもあまり警戒することはないのだろう。

むしろ、警戒心以上にどんな人なのかという緊張感が増してきた中、突然インターホンがなり、一番近くにいた凛都が画面を確認する。

噂をすればなんとやら、彩仁さんが到着したようだ。

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