第四話 魔女の呼称
「随分と嫌われているらしいねぇ」
あれから俺らは家に帰ってきていた。今俺が住んでいる家は、昔家族で住んでいた家で、この家には父さんも帰ってくる可能性があるが、ここ数年家に帰ってきてないからその心配をする必要はないだろう。
そして、そんな家に帰ってきて早々。フリームはそんなことを言ってきた。
「気にするのは辞めたよ」
「なぜだい? 言い返せばいいのに」
「結果も何も残せてないのに、俺が何か言っても状況が変わると思うか」
「まぁ、ないだろうねぇ」
フリームは部屋の中にあった椅子に座りながら、再び不完全な契約魔法のパズルを解き始めた。そんななかで俺は、コーヒーを入れるためにお湯を沸かし、部屋の奥にある仏壇の方にへと向かった。
仏壇に置かれている写真には俺の母さんが写っている。線香を灯し、仏壇の前で合掌をする。
『母さん、ただいま。今日の任務でまさかの魔女に出会ったんだ。名前はフリームって言ってなんか魔女とは思えないような感じなんだよね。あと、今日魔法を使えちゃったんだ。フリームによると不完全な契約魔法らしくて。フリームは今、解読しようと頑張ってるんだ。母さんが魔法を使えたことに驚いたけど、世の中にばれないように頑張るよ』
「その写真の中にいるのは怜君のお母さんかい」
椅子に座っていたはずのフリームは、俺の後ろに立っており。仏壇の写真をのぞき込んでいる。
「あぁ、俺の母さんだよ」
「なるほどねぇ。変わってないね彼女も」
「お前は母さんと会ったことがるんだっけ。コーヒー飲む?」
「じゃあ、もらおうか。砂糖とミルクを入れてくれ」
仏壇から机の方に移動し先ほど沸かしたお湯を使ってコーヒーを二人分作り、フリームが使う用の砂糖とミルクをもって机に座る。
「砂糖とミルクは自分で入れてくれ。それで今後どうする」
「どうするというと?」
フリームは俺が渡したコーヒーにたくさんの砂糖とミルクを入れて飲んでいる。
意外と甘党なんだな。
「俺とお前は今後、協力しあって過ごしていかなければならない。お前だって世界魔法執行機関に捕まりたくないだろ?」
「別に私は捕まっても大して困らないんだけどねぇ。一番困るのは君だろ、怜君」
フリームはとっても甘そうなコーヒーを一気に飲み切り、俺の目の中をのぞくように見てくる。やっぱりこの魔女はどうにも奇妙だ。
「あぁ、俺が一番困るな。けど、俺が捕まったらその不完全な契約魔法は解けないんじゃないか?」
「問題ないが?」
「問題ないのかよ」
やっぱり魔女のことについてはよく分からん。
世界に魔法を与えた九人の魔女、魔女たちについては今でもわかっていないことが多い。
名前、年齢、容姿、性別。何から何までわかっていないことが多すぎるのだ。
今世界魔法執行機関は魔女について調べているらしいが、今のところいい情報は入ってきていない。
そんな中で俺は、その魔女のことについて知ることになってしまった。
「なぁ、お前ら魔女っていったい何なんだ」
その問いに対し、フリームは何とも言えない顔をする。
「君は私について。いや、私たち魔女についていったい何を知りたいんだい?」
フリームは問いに答えるわけではなく、逆に問いを返してくる。俺が魔女について知りたいこと。
いくらでもある、なぜ魔女が世界に魔法を与えたのか。なぜ魔女は世界を敵に回したのか。そもそも、なぜ魔女は魔法と言う未知の技術を使うことができるのか。
「ふむ、意外と聞きたいことがたくさんあるんだね」
「だからちょっと待て、さっきも言ったがなぜ俺の思考を読む」
「読んでないが?」
「嘘つけ。この魔女め」
やっぱりこの魔女はめんどくさい。今度おいしいお菓子でも作ってやろうと思ったがそれはやめよう。
「そこは作ってくれていいよ」
こいつやっぱり俺の思考読んでるだろ。
「じゃあ、まず私たち魔女にはそれぞれの呼称がある」
「初めて聞いたんだが」
「当たり前だろ。その呼称を知っているのは私たち魔女同士だけだ」
つまり、魔女の呼称はあってもそれを魔法を世界に与えたとき、人々に教えたわけではないと。
「まず、私は『契約の魔女』。世界で人と人の結びを強く望んだ者たちに契約の魔法を与えたのが私さ」
「契約の魔法……。俺が使ってしまった魔法か」
「あぁ。他にも自分の意思を貫きたいと望んだ者たちに意志の魔法を与えた『意思の魔女』。未来を知りたいと望んだ者たちに可能性を視覚化させることが出来る導きの魔法を与えた『導きの魔女』。自分の誇りを他の者に共有させたいと望んだ者たちに誇りの魔法を与えた『誇りの魔女』。他人のどんな怪我や病気を治したいと望んだ者たちに愛の魔法を与えた『愛の魔女』。自分の大きな壁を乗り越えたいと望んだ者たちに克服の魔法を与えた『克服の魔女』。細かい作業をつつがなく行いたい望んだ者たちに精密の魔法を与えた『精密の魔女』。世界をすべて均等に見たいと望んだ者たちに均等の魔法を与えた『均等の魔女』。秘密を守り切りたいと望んだ者たちに秘密の魔法を与えた『秘密の魔女』。これが私たち魔女の呼称さ。」
魔女たちの呼称。契約、意志、導き、誇り、愛、克服、精密、均等、秘密。
世界を現在でも混乱に陥れている魔法の名前でもあり、魔女の呼称。
これはどうも厄介なことになりそうだ。
部屋の空気に緊張感が漂い。オレとフリームの間には短い沈黙の時間が流れた。
その沈黙を破ったのは俺でもなくフリームでもなくスマホから鳴る着信音だった。
プルプルプル!プルプルプル!
「出てもいいか?」
「どうぞ」
俺は銃を入れてあるジャケットとは反対の胸ポケットに手を入れ、着信音が鳴り続けるスマホを取り出し電話の相手の名前を見るとそこには『賀田護』と記されていた。




