第三話 世界魔法執行機関日本支部東京分署
世界魔法執行機関、魔女が人々に魔法を与え。魔法を使用する者たちを拘束するためにできた、国と民間企業が共同運営する機関だ。
俺の父は世界魔法執行機関で上から二番目の、副執行機関長の地位についていた。俺はそんな父にすごく憧れ、いつしか自分自身の夢に変わった。それと同時に、俺には世間からの大きな期待が寄せられてもいた。
だが、俺はその期待に応えることができなかった。才能はあるが父のような結果を残すことができず、世界魔法執行機関日本支部内での俺のあだ名は『宝の持ち腐れ』にへとなった。
支部内では肩身が狭く、父からの態度も素っ気なくなり。俺は何をしているのだろうかと、思うようになってしまった。
世界魔法執行機関では、日々魔法を使った事件の通報が舞い込んでくる。
その為、日本支部では領土面積に対し事件の量が多く、隊員の数は日々不足している。だからか、こんな俺でも毎日のように仕事が回ってくる。
本来ならば一人で向かうなど絶対にありえない。だが俺は支部内でパートナーを組む人が見つからず、単独任務が日常となっていた。
そんな日常の中で起きたのが廃病院でのフリームとの出会いだった。
世界魔法執行機関日本支部東京分署、所長室にて俺は今日起きたことを所長に報告していた。
「で、その子は何だね」
「廃病院にて保護しました」
もちろんこの魔女、フリームのことを報告するわけではなく。任務のことについて報告するためだ。因みに、今その魔女は何をしているのかというと。俺の袖をつかんでいる。
「保護してきたといっても、この子はどうするのかい」
「保護施設にでも預けようと思いましたが、なぜが俺のもとから離れたがらないので、しばらくは俺のもとで保護します。なのでその了承印をください」
俺が今話している相手、世界魔法執行機関日本支部東京分署所長、賀田護。俺のことを嫌っているのか、今回のような雑用しか回してこない、だが他の人のように俺の悪口などを言う人ではない。まぁあ、俺はこの人のことをちょっと苦手に思っている。
「お嬢ちゃん。宮成君が言っていることが嘘だとは思わないが、一応確認だけさせてくれ」
賀田さんは、先ほどまで座っていた椅子から立ち上がり。その大きな体を動かしてフリームのもとにへと近づく。
フリームは俺の袖を先ほどよりも強くつかむ。
コイツ魔女だよな、怖がっているのか。……あ、嘘だ。コイツの目、少しだけ笑ってやがる。
賀田さんはフリームの目の前にしゃがみ、目元を見て話す。魔女の目には先ほど俺に見せた笑ったような目はどこにもない。
「お嬢ちゃんは何で廃病院にいたんだい?」
魔女は、賀田さんに向かって、か細く弱弱しい声で返す。
「いつの間にかあそこにいたの」
「それはいつごろからかわかるかい?」
「たぶん3、4日だと思う」
賀田さんは周りにいた秘書に確認をする。
「廃病院での異音報告が出たのはいつ頃だ」
「報告が来たのは昨日です。ですが報告者によると、異音自体は数日前からしていたそうです」
「ならお嬢ちゃんが言っていることに間違いはなさそうか」
賀田さんは秘書との会話を終わらせ、再び魔女と目を合わせる。
「お嬢ちゃん、話してくれてありがとう。それじゃあ、なんで宮成君と一緒にいたいんだい? 保護施設でも安定した生活はできるぞ」
フリームは賀田さんに向けている目と同じ目を俺に一度見せ、賀田さんの返答に答える。
「このお兄ちゃんが私のことを見つけてくれた。記憶が欠けているどこの子かもわからない、私のことを。だから信用している。知らない人と過ごすくらいならお兄ちゃんと一緒にいる」
「記憶が欠けているのか……」
フリームは賀田さんの驚いた返答に『うん』と頷く。
「分かった、宮成君」
賀田さんはフリームの方に向けていた顔を、俺の方にへと向ける。
「この子の保護の件、了承した。周囲に何かを言われても、私が最終的に責任を持とう。だから、しっかりと保護をしてあげなさい」
「了解しました」
賀田さんは俺らから離れ秘書の人と話している。きっと色々と根回しをしようとしてくれてるんだろう。
「あ、報告は以上かね?」
「はい」
「じゃあ、その子を連れて退出していいよ。今日の業務も終わりにしていい。」
賀田さんに頭を下げ、署長室を退室する。フリームは先ほどまで掴んでいた俺の袖を離し、俺の目の前に出てくる。
「どうだい、私の演技は」
「奇妙だったよ。何回『お前魔女なのかよ』って突っ込もうかと思ったわ」
「ふっふっふっ。生きてる年数は君よりも長いからね、演技は得意なのさ」
「生きてる年数関係なくね?」
フリームは俺の目の前を歩いていく、この階には現在人がいない。だから俺たちはこうして普通に話せているわけだが、フリームはルンルンと廊下を歩いていく。
「賀田って人、優しかったねぇ」
「優しいか?」
俺は疑問符を浮かべてフリームに聞く。
「優しいよ彼は。けど、どうやら彼は君にその姿を見せたくないらしい」
「なぜ見せたくないんだ?」
「さぁね」
『さぁね』って。お前魔女じゃないのかよ、しかも精神とかに特化系の。
「魔女の私にも、人のプライバシーとかは考えてるよ」
「おいまて、今さらっと俺の心読んだろ。俺のプライバシーはどうした」
「私は君に、不完全な契約魔法を掛けられているんだが」
いや、確かに契約魔法掛けちゃったらしいし。その時に出てきた指輪も何に使うのか分からないから、ネックレスにして首からかけてるけど。
「契約魔法に関してはお前が解読するんじゃなかったのか」
「解読しているさ。けど、厄介な契約魔法だよ。すぐに解けそうなくらい簡単な回路なのにいつの間にか最初に戻されてしまう。これも不完全なせいなのかねぇ」
「頑張ってくれ。俺はいつまでもあんたと一緒にいたいわけではないからな」
エレベーターに乗りながらフリームは、俺が掛けてしまった契約魔法をパズルのように解いている。ただどうもそのパズルは難解らしい。
世界魔法執行機関日本支部東京分署一階、様々な人がおり、俺のことを知っている人も当然多く周囲からは様々な声が聞こえる。
「ねぇ、あれって」
「あぁ、宝の持ち腐れだよ」
「さっき入った情報だけど彼、少女を保護したらしいよ」
「俺たちが魔法を使う奴らを逮捕している間に、あいつは平和だな」
フリームは署長室で見せた姿をこの場でもしている。つまりは俺の袖を掴んでおり、周囲の声にも反応をすることができるわけだ。
たが、フリームは何かを言う訳でもなく、俺と一緒に世界魔法執行機関日本支部東京分署を出ていくのだった。




