第二話 魔女と不完全な契約
「おまえ。なぜ私に攻撃をした」
少女は少しずつ俺に向かって近づいてくる。
「あの一瞬。お前は魔法と言う言葉を発した。魔法を使うやつはこの世界では悪だ。俺は世界魔法執行機関の一員としてお前を捕まえる義務がある。」
「義務ねぇ……」
一度のチャンスを逃した。少女はもう油断を作ることはないだろう。俺はおとなしく少女が近づいてくるのを見守る。
「世界魔法執行機関はなぜ。魔法を悪とするのだ、魔法は世界を根本的に変える新しい技術なのだぞ。」
「それが駄目なんだ、今までの常識が覆ることによって社会は大きな混乱が起きる。それを政治は……世界は許してくれない。」
また一歩また一歩と少女は俺に近づいてくる。
「政治というのはめんどくさいねぇ、新しい革新的技術があるのにそれを使おうとしない。だからこの世界はいつまでたっても進まないんだ」
少女は俺の目の前に近づき、俺の顔を自分の顔に近づける。
その瞬間、俺の体は先ほどまで感じていた拘束感を感じなくなり、何の意識もせず俺は少女に向かって口づけをしていた。
「なっ……!」
俺の口づけを少女は受け動揺する、それは少女だけではなく俺自身も動揺する。
「お、おまえ! 何をしているのだ!」
「し、しらん! 体が勝手に……」
少女と口づけをしたことによってか俺の手には指輪があった。
「ゆ、指輪?」
シンプルな形をした、青色の指輪。少女はそれを見た瞬間、先ほどまでの動揺とは比べ物にならないほど動揺した。
「お、おまえ! 契約の魔法を使ったな!」
「契約の魔法!? なんだよそれ!」
俺が魔法を使っただって、ありえない。
世界魔法執行機関で学ぶことの中に、魔法の継承方法というものがある。
魔法を継承できるのは、魔法と継承する本人と魔法を継承させる者のそれぞれの同意。または親から子への遺伝、どちらかしかない。
俺は誰かから魔法を受け取るのを同意したことはない。
「俺は誰かから魔法を受け取るのを同意した記憶はないぞ!」
目の前でいまだに動揺が収まらない少女に向かって言う。
「違う! おまえは同意して継承したわけではない! 遺伝だ、親からの遺伝によってその魔法が継承されたんだ!」
「遺伝……」
父さんが魔法を、いやありえない。父さんが魔法を嫌っているのは執行機関にいる誰もが知っている。
じゃあもしかして、母さんが……
「母さんは、魔法を使えたの」
「そういうことだろうな」
俺は母さんが魔法を使えたことについて考えていると、動揺が落ち着いたのか、少女は俺に近づいてきた。
「おまえのせいで私は何もできなくなってしまったわ」
「何もできないのか」
「あぁ、なにもな」
少女は近くにあったソファーにダイブしながら座り、俺の方にジト目を向けてきた。
「おまえ、本当にその魔法について知らないんだな」
「知るわけがない」
「なら、こっちにこい」
少女は俺に手招きをする。俺の命は先ほどの抵抗の時点でないようなものだ。
だから俺は正直に少女に近づいてゆく。
「おまえが持っているその指輪」
少女は俺の手のひらにある指輪を指さしながら説明を続ける。
「その指輪が出ることで私とおまえの両方で契約が完了したことを意味している」
「契約って何の契約だ?」
「知るか」
いや、知るかって。説明してくれるって言ったじゃないか。
「契約の魔法を使ったのはおまえだ、どんな契約内容かは私でもわからない。ただ、お前のことを攻撃しようとすると、攻撃が出来なくなる。私が分かるのは、お前が使ったのは不完全なものだということだ! ただその魔法は私が与えたものだ、そのうち解読してやる」
ん、この少女は何て言った。私が与えたもの? もしかしてこの少女は、ただ魔法を使う人なのではなく。
「もしかしてお前、魔女か」
「あぁ、私の名前はフリーム。世界に魔法を与えた九人のうちの一人の魔女だ」
「まじかよ」
まさかこんな少女が魔女だとは思ってもいなかった。道理で世界中で魔女探しをしていても見つからないわけだ。
「で、そんな魔女様は今後どうするんだよ。俺はお前のことを捕まえるが」
「おまえと……いや、せっかくだから呼び方を変えよう。怜君と今後は行動させてもらおうとしようか」
ソファーから立ち上がった少女、フリームは俺の方に近づいてくる。
「話を聞いていたか。俺はお前のことを捕まえるぞ」
「好きにするといい、怜君が私のことを捕まえた瞬間、怜君も魔法が使えることを進言しておこう。魔女以外にも魔法が使える者は、この世界では悪になるのだろう」
「っ……!」
確かにこのフリームが言う通り世界魔法執行機関に俺が魔法を使えることを言われたら俺はその瞬間に捕まるだろう。ならどうすればいいのだ、俺は今後どうやって生きていけばいいのだ。
「簡単なことだよ。私と行動を共にすればいい」
「おまえ、思考を読んだな」
「読んではないさ。ただ、今の怜君ならこう考えるかなと思っただけだ」
この魔女はいちいち癪に障る。
「はぁ、分かった。俺が使ってしまったらしい契約の魔法が切れるまで、どうかよろしく」
「こちらこそ。よろしく頼むよ、怜君」
ここがすべての始まりだった。
いずれ九人すべての魔女と、行動を共にすることになることを、まだこの少年は知らない。




