12.繋がり
涼しい顔で促して、横並びになって再び歩き出すが、内心どぎまぎしてしまい、何を喋っていいのか分からなくなる。
藤山くんも静かで、唇を噤んで下を向いていて、会話をしたいという意思はみられない。
ただ相変わらず藤山くんからは思わず惹きつけられてしまうような雰囲気を感じ、周りが見えなくなるくらいに彼の存在が気になってしまう。
今だって僕は、金髪が揺れて見え隠れする横顔を、無意識に流し目で眺めている。
道路を走るヘッドライトが当たって綺麗な素顔を照らしたかと思えば、ふいに光った瞳がこちらに向けられてどきりと胸が跳ねた。
慌てて、話題を作る。
「ふ、藤山くんのクラスの子たちは、何ともなかったのかな……!? こ、怖がったりしてなかった……!?」
「皆は――怖がってたけど……颯汰なら教室に来てもいいって言ってた」
「そうだったんだ。それじゃあ、凄く嬉しいよって伝えててくれないかな?」
気持ちは有難いが、同じ轍を踏んでしまっては、反省した意味がない。
気兼ねなく交流するには、僕だけではなく他のαとΩの軋轢を取り除ければとは思うが、それにはまず生態をどうにかしなければならない。
Ωの発情期にあてられても、αが理性を保てるようになれれば、ここまで神経質になる必要はないのだけれど……。
Ωの人たちには抑制剤はあるものの、強い発情期は完全に抑えられないとも聞く。それに副作用は酷く、身体的な負担も大きい。
ただでさえΩは損な役回りを被っているので、再び同じような問題が起こして、皆に精神的な負荷をかけたくはない。
「もう俺に会いに来てくれない……?」
ポツリと呟かれた言葉に、顔を上げれば、藤山くんは寂しげな表情を浮かべて視線を落としていた。
それが見捨てられた子犬のように見えて、僕は慌てて言葉を紡いだ。
「え!? あ、用事があれば行くかもね! それに藤山くんとは、これで連絡は取れるからね」
スマホを取り出して、薄く笑って得意げに藤山くんに見せた。
それで少し元気を取り戻したのか明るく頷いて「俺からも沢山連絡する……!」と宣言してくれた。
「またお父さんにスマホを没収されないように、ほどほどにしないとね」
「没収されないように、隠れて打つから大丈夫!」
拳を握り、意気込む藤山くんに失笑してしまう。
こうして僕と藤山くんみたいに、αとΩが何のしがらみもなく仲良くできたらいいのにな、と心穏やかな気持ちになり、藤山くんに問いかける。
「僕はαだけど、藤山くんはこれからも仲良くしてくれる?」
「うん。運命の番だからな」
運命の番だから藤山くんは僕と仲良くしてくれている。まあ、運命の番じゃなければ藤山くんも僕に関わろうとはしていなかったので、当然と言えば当然か。
高木くんはΩから距離を取ることを選んだが、僕は生態に振り回されることなく、仲良くしていきたいと思っている。
視線を落とすと、隣り合っている手はちょうど空いていて、僕は迷うことなく藤山くんの手を取った。
唐突だったので、藤山くんはびくりと体を揺らして驚いて、動揺した顔を向けてきた。
「て、手……」
「駄目だった? 仲良くしてくれるって言ってくれたから、もっと仲を深めたいなって思ったんだけど……」
「……駄目じゃない」
揺れる瞳を乞い願い見つめれば、逃げるように視線を下に逸らされたが、ギュッと握り返してくれて、繋いでいても良いのだと合図をくれる。
運命の番だからこそ、ここまで距離を縮められたのかもしれないが、僕は運命の番とか関係なく藤山くんとこうして友好関係を築いていきたいと望んでいる。
僕は、藤山くんも同じ気持ちだといいなと、同調を求めるように尋ねた。
「藤山くん、もしも僕が運命の番じゃなくても、仲良くしてくれる?」
藤山くんの伏せていた頭が跳ね上がる。
呆けた顔で僕を見ていたが、徐々に眉間に皺が寄って眉と目が吊り上がって、怒鳴った。
「はあ!? 颯汰は俺の運命の番だろ!?」
「え? あ、ああ。そうなんだけど、もしも運命の番じゃなかった時の話で――」
「もしもってなんだよ!? 運命の番はずっと運命の番だ! 変わることなんてない! だって、こんなに……」
勢いを無くした声音を出すと、藤山くんは頼りなさげに視線を彷徨わせた後、繋がれている手に目を落とした。
「……手、繋いでる……」
吐息混じりに照れくさそうに、ポツリと呟かれた声は、少し弾んでいるように聞こえた。
口元に笑みを浮かべて、嬉しそうに見つめている藤山くんに愛おしさが芽生えて、自分の立場も弁えずに離れないように握る手を強めた。
藤山くんの手は僕より温度が低かったが、繋いでいるうちに僕の体温が伝わったのか、僅かな時間で熱いほどに上がっている。
その熱が藤山くんの存在を教えてくれているようで、胸がほっと安心している。
藤山くんは縮こまり、慎ましやかな様子で、徐ろに距離を詰めてきて、僕の腕にぴったりと肩をくっつけた。
僕と顔を合わせるのを遠慮しているのか、頭を伏せている。
彼なりに運命の番だから手を繋いでいるのだと、示してくれて嬉しくなるが、手を繋ぐ状況は色々とあるよなぁとふと思って口に出す。
「あ、でも、運命の番じゃなくても仲が良かったら手くらい繋ぐよね?」
藤山くんは顔を上げるとポカンと口を開けて僕を見つめたが、眉間に皺がより、口を引き結ぶとぷるぷると震えだし、顔を真っ赤にして吼えた。
「繋がない!」
「つ、繋ぐよ」
「繋がない!! いいか!? 俺以外の奴と手、繋ぐなよ! 繋いだら怒るからな!」
一方的に言い切ると藤山くんはフンッ、と鼻息を荒く鳴らして顔を背けた。
めちゃめちゃ怒られたが、手は握られたままだったので、繋いでいていいのだと解釈して並んで歩く。
隙間なく密着していた手は、次第に馴染んできて当たり前のようにそこにあるのだと錯覚してしまうほど一つになった。
藤山くんの家は一等地のマンションで、ホテルの入り口のような綺羅びやかなエントランスの照明がとても眩しかった。
それを眼前にして、二人で立ち止まり暫く佇んだ。
僕から手を離すことは憚れたが、藤山くんも手を離す気配がなかったので、内心凄く嫌だったが、思い切って手を離した。
離した手は熱を失って、繋いでいない状態が酷く不自然なことに感じてしまう。
今まで知らなかった熱を知って、名残惜しさに、手のひらを眺めてしまったが、いつまでもここにいるわけにもいかないので、僕は何ともないような顔で藤山くんに明るく笑いかける。
「それじゃあまた、学校でね」
「ん。気をつけて帰ってね」
「うん。ありがとう。それじゃあ行くね」
手を振って、強い意志を持って踵を返した。
本当はもう少し一緒にいたいけど、そんなこと言ったら、困らせてしまいかねないし、『なんで?』となられたら居た堪れない。
欲望を振り払うように歩みを進めていたが、最後に藤山くんの住んでいるマンションを見上げるくらいなら許されるだろうと思い、振り返った。
視界に、明るいエントランスの光で照らされている人影が入って、藤山くんが僕を見送っているのだと気づいた。
引き返したくなる衝動に駆られるが、僕が帰らないと藤山くんが心配して家に入ってくれないかもしれない。
暗いから見えないと分かっていても、僕は大きく手を挙げて振ってみせた。
すると、藤山くんは気づいたようで手を振って返してくれた。
友達のようなやり取りなのに、心が浮かれてしまうのはやはり藤山くんが運命の番だからなのだろう。




