↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/22

11.魅惑


それから学校を出て、二人で帰路につく。茜色だった空は夜に染まりつつ、一番星が瞬いている。


藤山くんの家は駅の近くに立地しているらしく、幸いにも僕は電車通学をしているので、送り届けてあげられる。


街灯が照らしている、幅のある歩道を横並びに歩いて、気がかりだった藤山くんの体の調子について尋ねた。


「あの後、保健室には行った?」

「うん。何ともなかっ……」


テンポよく頷いたはずの藤山くんの言葉は途切れ、立ち止まった。

気づいて僕も足を止めたが、数歩進んでしまったので振り返り見れば、藤山くんは僕の顔色を伺うように上目遣いで見つめてきた。


「どうしたの?」

「なんか……背中、痛いかも……」

「え?」

「突き飛ばされた時に、机で打ったとこ……」

「え!? そうなの!? 大丈夫!?」 


遠慮がちに伝えてきた言葉に、慌てて駆け寄り背中を見るが、シャツ越しでは状態が分からず、擦ろうと手を伸ばしたが、刺激して痛みが増すのを危惧して、引っ込める。


藤山くんは、肩にかけている学生鞄の取っ手を握りしめて、痛みに耐えているのか強張った表情で俯いている。

対処方法が思いつかず、まごついたが、取り敢えず藤山くんに指示を仰ぐ。


「ど、どうしよう……。僕に何かできることある?」

「な、撫でると……痛みが和らぐ……」


言い辛そうに、たどたどしく答えた。

街灯の明かりに照らされている藤山くんは、お願いすることに対して申し訳なく思っているのか、視線を僕の顔と地面とを行ったり来たりさせていた。


誰にでも出来る介抱方法を断るわけがない。顔を見返し、力強く頷いた。


「撫でればいいんだね。わかったよ。どの辺りを撫でればいいのかな?」

「ぜ、全体……」

「ぜ、全体!? 高木くんそんなに強く押してきたの!?」


驚いて追及すれば、長い沈黙の後に小さく「うん」と肯定した。

返答を迷うような言い方から、恐らく藤山くんはずっと痛みを我慢していたのかもしれない。


高木くんは軽く押したと言っていたし、藤山くんも大丈夫と言っていたから、軽く捉えていたが、もう少し気に掛けるべきだった。


藤山くんの横について、寄り添うように背中に手を回し、手のひらで触れた。肌触りのいいシャツは滑りが良くて、擦りやすい。


隣から借りてきた猫のように大人しく、じっとしている藤山くんに僕は気遣って声を掛ける。


「他に痛いところはない?」

「……お尻」

「そ、そう……」


尻もちをついたからだろう。流石に撫でてあげるわけにはいかない。

下がりそうになる視線を、慌てて目を閉じて回避し、顔を上げた。


意識してしまっている自分を恥じて、頬が熱くなる。

それを空いている手の甲で擦って必死に鎮めようとすれば、藤山くんは僕の顔を覗き込むように見上げて、探るような目つきで小首を傾げた。


「な、撫でる?」

「な、無でないよ!」

「……まだ痛いような気がする」

「そこは……自分で何とかしてね」


藤山くんは体を捻って自身の尻を見下ろしては、気にするように手で擦っていた。

一層気まずさが増して、体が熱くなり、汗が滲んでくる。


背中を撫でている手も、なんだかセクハラをしているような気になってきて、手のひらが熱を帯びて、藤山くんの体温と肌の感触を拾いそうになるのを感じ、手を引っ込めた。


し……思春期だからかな……? やけに卑猥なことをばかりを考えてしまう。


こんな気持ちが藤山くんに伝わってしまえば、気持ち悪いと軽蔑されてしまうかもしれない。

家に帰ったら瞑想して、雑念を消し去ろう。


己の下心を反省し肩を落としていれば、藤山くんから何かを感じとった。

顔を見れば、彼は地面を見つめてもじもじしながら口を開いた。


「あの時、颯汰が助けに来てくれて嬉しかった……。ひ、ヒーローみたいで、か、格好良かった……」


ふわりと甘い雰囲気を纏わせて、自分の想いを恥ずかしそうに一所懸命に伝える藤山くんを目にして、確信めいた推察がすとんと腹に落ちた。


――藤山くん、僕のことが好きなんだ。


漂っている甘い空気にのまれ、当たり前のように享受したが、背後からふざけ合っている男子生徒二人組とぶつかり「あ、すみませんっ!」と謝られてハッとした。


……いやいやいや! 絶っ対に、おかしい……! 今の僕は藤山くんに向けられている感情を、勘違いしてしまいそうになるくらいに、調子に乗っている。


褒められたくらいで、藤山くんが僕に惚れているなんて、ないないない!

しかも、格好良いところなんて、思い返しても何一つ、見つからないし。他に言葉が思いつかなかっただけで、絶対に勘違いだ。 


反省文に思考を割いて脳が疲れているせいで、藤山くんから甘い雰囲気が漂っているように見えているだけだ。冷静になれ、僕!


取り敢えず、褒めてくれたことに過剰に反応せず、さらりと受け流そう。


「そんなに大したことはしてないけど、そう言ってくれて嬉しいよ。さ、暗くなってきたし、お父さんが心配しちゃうから早く帰ろうか」

「うん」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。