020.「雨に打たれて」
だがその真相を、シンヤは程なくして知ることになる。
――それは、ある雨の日のことだった。
もっとも、シンヤがいつも過ごしている一室は地下にある。そこからでは空の様子など知る由もないのだが。
「ごめんなさい。私としたことが、今日使う分の薬草を切らしてしまっていたようです。ちょっと行って採ってきますので、そのあいだ留守をお願いしてもいいですか?」
「え、採りにって……今から?」
「はい」
「いや、だってもうこんな時間だし。今から森に入るのは危なくないか?」
「大丈夫ですよ。場所もわかっていますし、すぐに戻りますから」
「だったら俺が行ってくるけど」
「それはダメです。私の不手際ですし、怪我人のあなたを動かすわけにはいきませんから」
「別にいいよ。こんなのもうほとんど治ってるんだし、薬草なんかなくても」
「ダーメーです。私の流儀に反しますし、私は私の気の済むようにさせてもらう――そういう約束ですから」
「そりゃ有難いけどさ……」
「ということですので、行ってきますね。すみませんがお留守番、よろしくお願いします」
そう言い残すなり、そさくさと出ていった少女がしばらくしてびしょ濡れになって帰ってきたからだ。どうしたのかと尋ねれば、道中で雨に降られたのだという。
「雨?」
「はい、完全に読み違えました。しばらく降ってなかったのですが、どうやら今週はずっと崩れるようですね。残念ですが、お散歩も控えてもらった方が良さそうです」
「あー、そりゃ残念だな」
「心なしか、あまりそのように聞こえないのは気のせいですかね」
「そんなことないさ。ちゃんと残念がってるって」
じとりと疑いの眼差しに押され、アセアセと言葉を取り繕ったものの魂胆は見抜かれているみたいだ。
「しょうがないだろ。インドア派なんだ」
「だからと言ってまったく外に出ないのはよくありません。私のせいとはいえ、ただでさえ寝たきりが続いてるんですから。回復のためにも、晴れたらちゃんと体を動かしてもらいますからね」
「へいー」
「あ、それと薬草はきちんと確保してきましたので、ご安心を」
「なくても文句なんか言わないけどさ。でも、ありがとな」
「いえいえ、当然の責務ですから。加害者として。飼い主としても」
「ペット扱いかよ」
「冗談ですよ」
にこにこと上機嫌そうな笑みを浮かべ、どこか達成感も滲ませている少女と、そんなやり取りを交わす。
ともあれ話はいったんそこでひと区切りし、シンヤは内心でひそかに安堵していた。これで当面は外に出なくていいし、気兼ねなく引きこもっていられると、そう思ったのだが。
それから丸一日ほど経った晩のこと。
「……?」
いつもの時間になっても、少女が来ないのである。これまでは一日も欠かさず、毎日決まった時間に顔を出していたはずなのに。今日はその時間が過ぎても、一向に姿を現さない。
「どうしたんだ……?」
ちなみにここ最近、シンヤはとても規則正しい生活を送っていた。おかげで体内時計がすっかり整ってしまい、定刻を迎えても運ばれてこない食事にお腹がぐうと切なく鳴る。
でも「ご飯まだー?」みたいな用事で様子を見に行くのは気が引けた。キッチンの場所は知っているし、もうそれなりに動けるとはいえ。
「いくらなんでも図々しいよな、それは……」
そんなプー太郎みたいなことはしたくなくて、待機する。待機すること半刻。
「来ないな……」
やっぱり少女は来ない。かと思えば。
「……うん、リップル?」
彼女がいつも連れているスライムだけが、頭のうえにお膳を乗せ、ぷよぷよと揺れながらやってくるではないか。どんぶりの蓋がパカりと開かれれば、湯気とともにいい匂いがふわりと広がる。どうやら今日のメニューは温かい麺類のようだが。
「……?」
なんとなく違和感を覚える。文句を付ける気などサラサラないにしろ、これまでに比べて献立の内容がずいぶんとあっさりしていること。いつもと違う時間に運ばれてきたこと。そしてこの場に、少女が姿を現さなかったこと。
そのうえで、ふと思い出す。
(そういえば、昼間のとき……)
少し咳き込んでいる様子があった。すぐに持ち直したから、深く気にも留めなかったが――。
「まさか……」
思わず立ち上がり、シンヤはリップルに質していた。
「リップル、教えてくれ。いまゴンさんはどこに……!?」




