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Anniversary~アニバーサリー~  作者: chie
Act17.みんなで脱出するんだから!

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   side★Masayuki


 ポットで安全地帯へ移動した後、けが人の手当てをすばやく済ませると美来とポチは真幸を囲むように座った。リックは気を使ったのか、一歩離れたところで様子を伺ってるようだった。

 かすかに爆発音や振動が響くが、この一帯は厚い壁で頑丈に守られているようだった。


 ポチは何から話そうか少し考えてから、ゆっくりと口を開いた。

「美来さんが何かを隠していることは以前から気がついていました。ただ、それが時間のゆがみに関連することだとは最近までわかりませんでしたが……」

「時間のゆがみ?」

「ええ。もう体験してしまったことですから、余計な説明は要らないでしょう。宇宙に広がる時間のゆがみによって、本来直接交わることのない時間が繋がることがあります。それがタイムスリップ……」


 SFの話か?


 すでに二百年の時を跳んでしまったにもかかわらず、真幸はぼんやりとそう思った。


「月にそのゆがみがあると知ったのは、今から五年前のことです」

 そんな真幸を知ってか知らずか、ポチは淡々と話を続ける。

「そのゆがみを調べるため、私は月に来ました」

「マリノのお父さんもそれは知ってるの?」

 真幸の疑問を美来が聞く。

「ええ。彼はすべて知ってますよ」

 

   ☆


 それは五年前。

 まだこの長い名前を名乗る前のこと。

 仲良しの老人がいた。

 家族のいない自分を家族のように愛してくれた大親友だった。

 だが、その彼が「サルーダ」という、時間のひずみと次元を研究管理する一族の長だとはまったく知らなかったが、長ったらしい名前をもつ食えないじいさんだといつも思っていた。

 ある日、その権力を望む一族の反乱者により暗殺された彼は、その死の間際にリオンを後継者に指名する。

 無論、そんな地位がほしかったわけではない。

 ただ、大好きだった彼の遺志を継ぎたかっただけだった。

 そして、自分を狙う反乱者から逃げる中、時間のひずみに巻き込まれたのだ。

 ――偶然そばにいたマリノとその父親と共に……。


 彼らと全く面識などない。

 ただ近くにいただけで巻き込んでしまった。

 だが二人は自分を責めることなく、むしろ助けてくれた。

 何度も危険にさらされながら、お互いを守りあった。

 そして、やっと元の時代に帰り、無事長の地位につくことができたのだ。

 そしてその中でマリノはその間の記憶を失ってしまう。


 就任後、最初の仕事が月と火星の調査だった。

「うちにくるといいよ」

 マリノの父、敬は優しくそう言った。

「君はもう家族なんだからね」

 何も言えずにいる自分に、敬は笑いかけてくれる。

「マリノは君のことが大好きだ。だから、こうなったのは少々不幸な出来事だったかもしれない。だが、例え君を忘れてもまた君を好きになると思うよ」

「ですが……」

「マリノは君になんていった? 君の家族になるって言ったじゃないか。 俺もそう思ってるよ」


 そして、新しい家族として現れた自分を、マリノは何の抵抗もなく受け入れてくれた。


「ポッセリアム? なっがい名前ねぇ。――面倒だからポチ。ポチって呼んでもいい?」


   ☆


「失礼な女よね、マリノって」

 美来が涙ぐみながら、わざと茶化すように言った。


 そんな過去があるなんて夢にも思ってなかった。

 やっぱり見えない絆があったんだ……。

 真幸は下唇をかみ締めた。 


「……そして月で調査を続けていくうちに、火星でもすぐそばに特異なゆがみがあることがわかりました」

「……それがあの地下?」

「ええ。――星も時間も超える、きわめて特異なゆがみです。それを知るのとほぼ同時に美来さんが地下へ行くことを提案していたのです」

 そして、本当に時間を超えてしまい、自分を責めつづける美来を助けた。

「最初に気がついたのはリックに写真を見せてもらったとき。上総を見た美来さんの反応で、すべて納得がいきました」

 ……。

「俺だけ何も知らなかったんだ……」

「真幸……」

 悔しいのか哀しいのかわからない。 

「ちくしょう!!」

 どうしようもない憤りをからでた拳を、ポチはその頬に黙って受け入れた。


 そんな時、それに最初に気がついたのは上総だった。

「声がする……」

 まだ意識がはっきりしない様子なので、みんなは一瞬幻聴だろうと思ったが、ポチがはっとしたように

「お嬢さんが近くにいます」

と言った。

 ポチの言葉に真幸は「ナンパ専用女性探知機」を引っ張り出す。

「……女の反応が2つ?」

 マリノだとしたら、一緒にいるのはアラン・ドロンのはず。

 実はアラン・ドロンは女だったのか?

 それとも他に誰か?

「あの壁の向こうです」

「どうしてわかるの?」

「お嬢さんに発信機を持たせましたから……」

 そう言って、ポチは胸元から微かに反応するペンダントを引き出した。

 あ。もしかしてあのピアスが……?

「アランがいるの?」

 いつのまにか意識を取り戻していたガーティが飛びつくように言った。

「わかりません。だが、あの壁の向こうにアランさんを連れ戻しに言ったマリノがいるというだけで……」

「壁の向こう?」

 すぐそこにいる。

 だがどうすれば……。

「ぶちやぶれないのか?」

 リックの言葉にポチは眉をひそめた。

「おそらくムリです。それにこちらから爆発させれば、向こうにいるお嬢さんたちが危険です」

 何か方法はないのか?


「その壁の左端にレバーがあるだろう……。それを引け」

「!」

 みんながその声のほうへ一斉に振り返る。

 起き上がることもできないまま、それでも現状を把握したシンザキが指示を出したのだ。


「レバーで、壁の一部が開く……」

 その言葉に、ガーティと真幸はレバーを探すため壁に走った。

 そして一気に引くと、人一人やっと通れるような隙間ができた。

 飛びつこうとした真幸は、瞬間、そこから転がり出てきた人間を抱きとめる。

「マリノ?!」

 ちがう!?

 それは粉塵にまみれた若い女性だったがマリノではない。


「助けて!!」

 そして、その向こうから女性の悲鳴にも似た叫びが響いたのだ。


 次々と隙間に飛び込んだ一行が見たものは、瓦礫の山……。そして

「アラン!?」

「マリノ!」

 呼びかけに反応するものはなく、そこには力なく座り込み、ひざを血まみれにしたまま呆然とするマリノと、瓦礫に半分埋まりながら、不思議と幸せそうな表情で息絶えていたアラン・ドロンだった。


 口の中で何かつぶやきつづけ、誰の言葉にも反応しないマリノをそこから引きずり出し、つづいてアラン・ドロンを引き出す。

 誰が見てもそこに命の影は見出せなかった……。



   side★Marino



「助けたかったのに……本当よ……なのに……」

 いつのまにか瓦礫の外にいた。

 すべての思考能力が停止してしまったみたいだ……。

 ゆっくり視線をめぐらし、はっとする。

「シンザキさん」

 声になったのかもわからない。

 それでもシンザキさんがあたしのそばにやってくる。

 そして、それに反応したアンナさんも……。

 アンナさんを見てシンザキさんが反応したが、あたしはそれを無視した。

「シンザキさん……お願い……助けて」

 あなたならできるでしょう?

 切実な思いでたずねる。

「アランさんを助けて」

 つづいて混乱の色を見せるアンナさんを見る。

 ねえ、あなたにもできるでしょう?

 でも二人の反応は期待に反した。

 記憶装置を使うにも、遅すぎる、と。


 もう誰の顔も見られなかった。差し出す誰の手も取れなかった。

 悔しさと絶望と後悔。自分の無力さにどうにかなりそうだった。


 それからどれぐらい時間がたったんだろう?

 その間、自分に意識があったのかさえわからない。

 気がつくとガーティがそばにいた。……信じられないほど優しい表情かおで……。


「マリノ……、あたし、あなたに感謝するわ」


 感謝? どうして?

 憎まれても当然でしょう?

 あたしは彼を救いに行ったはずなのに……。


「彼、とても安らかだった。はじめて見たの、あんな顔。いつもの彼はどこか投げやりで、追い詰められてるようで見てるのがつらいぐらいだった。――彼は隠してたけど、あと一年足らずの命だった。だから、なんでもしてあげたかった。幸せな顔を見たかったのよ」

 優しい笑顔。

「地球に帰ったら、彼のそばで罪を償うわ」


――あの絵は……あの天使は本物になったんだね。


 あたしは努めて笑顔を作る。彼の言葉を伝えるために。そして彼の本名や、彼の過去も伝えた。彼女には知っていてほしかった。

 そして二人でただただ、思い切り泣いた。


 あたしは……天使に会った。



   side★Miki



 美来はシップ発着上の近くにあったサンルームのような、宇宙を見渡せる部屋に立っていた。

 人の気配に振り向くとリックがいた。

「マリノ……どう?」

「なんとか大丈夫そうだ……」

「そう……。よかった」


 あんなマリノを見たのは初めてだった。

 どんな言葉をかけても抱きしめても、それにさえ気付いてないようだった。


 アラン・ドロンを瓦礫から出した時、ガーティに気付いた。

 不思議な表情をしていた。

 涙を浮かべながら、静かに愛しむように、慈しむように彼を見つめていた。

 それは一瞬神々しくさえ見えたのだ。


「ガーティは……大丈夫かな」

 きっと見かけより強いコだろうと思った。

「あの子はトニーの妹だからね。あいつ同様芯は強いはずさ」

「そう、なの?」

「そう」

 そう言えば、妹がいるって言ってたような気もする。


「この数日は驚きの連続だったな」

 リックの言葉に彼を見る。


 リックは自分の話を素直に受け止めてくれた。

 上総のことも、私達の間に本当は二百年の時があることも……。


 上総……。たった一人のお兄さん。私が生まれる前に行方不明になったけど、私と彼との間には見えない絆がある。だから私はここに来れた……そう思う。


「連れて、帰りたかったよな…」

「うん。……でも仕方がないよ。上総の意思だもん」


 ゆっくりと打ち明けた。

 最初驚きながらも、上総は私をぎゅっと抱きしめてくれた。

 マリノの記憶が入ったからとも言ってたけど、そのあたりのことはよくわからない。

 本当は両親にも会いたかったと思うけど、彼はまっすぐな瞳ではっきりとこの時代に残ると言った。今はここが自分の生きる場所だと。

 きっと彼のためにもそのほうがいいんだろうと、今は思う……。

 彼を大切に思ってくれるロティもいてくれるし……。


「一度ロティに会いたかったわ」

 コツンとガラスの壁をこづいてつぶやく。


「美来は……」

 帰るのか?

 リックの言外の言葉に美来は頷き、まっすぐ彼を見る。

「私は、帰るわ」

 ポチが帰れる手配を整えてくれた。

 それまでにはもうわずかな時間しかない。


「そっか……」

「うん。――子供が二人も消えたんじゃ両親が悲しむし。上総のことも伝えなきゃならないしね」

 そう。……私は未来へ帰る。



 リックは首をかしげるようにして美来を見つめた。

 参ったね。

 出会って何日もたってないのに、この瞳を忘れられそうにない……。

「遠いな……」

 二百年の時。

 遠いなんてものじゃないじゃない。

「え?」

 リックはクスッと笑った。


「俺、お前のこと好きだよ」

 美来の肩が微かにビクッと震える。


「一途で強情で、そのくせ心配ばっかしてんのな」

「……それって褒めてんの?」

「可愛いって言ってるんだよ」

 美来が耳まで真っ赤になるのを見て、リックは笑った。

「私は……」  

「ん?」

 美来はのぞき込む瞳から視線をそらす。

 涙が出そうなのを必死で止める。

「リックなんて、リックなんて」

「リックなんて?」

「……バカァ」


 何も伝えられるわけがない。リックは意地悪だ。

 ここに想いを置いていけるわけがないじゃない。もう二度と会えないのに。

 帰ったらあの地下は、管理局の元、封印されるという。

 二百年。 どう頑張ったって、もう二度と会えない……。会えないのに……。

「嫌いよ、大嫌い」

 いっそ、本当にそうなれたらどんなに楽なの?!

 絞り出すように言った言葉だった。

 傷つけた、と思った。

 そうしなきゃいけないとも思った……。

 でも帰ってきたのは優しい声。

 そっと大きな手が頬に触れる。


「本当に嫌いよ……」


 リックの熱を帯びたような瞳に自分が映る。

 そこには自分の嘘なんて全然通じることはなくて……。

 そして……


 そっと唇が重なり合った……。




   ★


 シップの準備ができ、リック、上総、ガーティが搭乗する。――そしてアランさんも…。

 シンザキさんはアンナさんに抱きかかえられてそれを見つめていた。

 二人の間には言葉にできない複雑な思いがたくさん交錯したようだったけど、それでもお互いを受け入れようとしているようだった。


「元気でね」

「頑張ってください」

「ありがとう」


 様々な言葉を交わし――でも、“さよなら”を誰も言わなかった。

 お別れじゃないよね。

 アランさんが言ったように、もしかしたら別の形でまた……ね?


 地球から、トニーの誘導により、帰りはほぼ自動操縦で帰ることになってる。

 ポチが細工をしたということなので、多分問題ないだろう。

 飛び立つシップの向こうに、青い地球が昇ってた。


「さて、我々も帰りましょう」

 ポチ(リオン)が言うのを合図に、あたし達はシンザキさんたちと別れ、ぞろぞろと移動を始める。

 基地から少し歩くと、見覚えのある町並みが見えた。

 あの地下で見たゴーストタウンだ。まだゴーストじゃないけど……。

 あの地下は不規則にこことつながり、さらに地球に繋がってる。

 なんてへんてこな時間の穴……。

 そこから帰れるって言うのは、すごいことだよねぇ。


 街はメイン・コンピュータの停止でほとんどの機能が麻痺してしまってるようだ。どこにこんなに人がいたんだろうって感じ。人々に混乱した様子はあるけど、今朝リックが反乱軍副リーダーとして月の解放を宣言し、基本的な物資(空気や水・当面の食料など)に問題はないことを伝えたので、大きな混乱は避けられたらしい。

 その裏ではシンザキさんとアンナさんの力が大きかったわけだけど、もちろん二人は人前に出ることはなかった。

 地球でも同じような光景が見られることだろう。

 人々はアマカーテアの手から自由になり跳びたっていくのだ。


 ポチの正体に関しては、みんな結構混乱したんじゃないかと思ったけれど、北くんも美来も大抵のことには驚かなくなっちゃったのか、

「無事帰れるんだからラッキーだ」

とか言ってる。

 もしかして、記憶が曖昧なあたしより、詳しく聞いたとか?

 なんだか複雑な思いでポチ(リオン)のアザになった左頬を見る。

 最近よく頬に傷を作るんだなぁ。

 無意識につぶやくと、ポチ(リオン)はニコッと笑って「すみません」といい、北くんはなぜか視線をそらし、美来はあたしの頭をよしよしとなでた。


 ?????やっぱり何かあったの?


 聞いても誰も取り合ってくれないので、プウッとふくれてしまう。

 いいよ、みんなで仲間はずれにしたって。ふん。


「それでは行きますよ」

 建物の一つに入ってポチ(リオン)が言った。

 彼はいつも身につけてるペンダントを出す。

 これと、彼の体内に埋められた発信機のようなもので未来と連絡を取ることができ、帰る手配ができてるらしい。

 昔の記憶を呼び起こすと、ちょっと拍子抜け。……なんてね。


「二四五六年へ」

 ピッとボタンを押し、周りが点滅して――


次回、最終話とあとがき、2話?同時更新です。

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