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Anniversary~アニバーサリー~  作者: chie
Act17.みんなで脱出するんだから!

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 生きてる。

 最後の一言は切り札。

 両親を目の前で死なせてしまった彼。

 何も伝えることもできないまま目の前で命を奪われた彼の両親……。


 胸が痛い。

 私たちはつらい記憶ばかりを共有してしまった。


 ぎゅっとポチのターコイズを握り締める。

 過去に縛られはしない。前を見るんだから。


「わかった」

 ホッとする。

「じゃ、急ごう!」

 二人を促して走り出す。でも「彼女」はなんとなく走りづらそうにしている。

「どうしたの?」

「ん。まだ生まれたばかりだから、体がついていかないみたい」

 ???


 「彼女」の発言はかなり意味不明。しかも、さっきとは声の調子も変わってる気がする。

――そう、さっきまでの遠くから吹き替えてるような声じゃなくて、自分の喉からだしてるような肉声って感じ。

「あ、あぶない!」

 「彼女」が声をあげるや否や、ビシュッとレーザーがあたしの頬ぎりぎりをかすめる。

 び、びっくりした。

「何で攻撃されるのぉ?!」

「メイン・コンピュータが停止しかける影響で、あちこちが暴走してるようだ」

 やーん、冗談じゃないわよ!

「ねぇ、“アンナ”さん。あなたどうにかできないの?」

「どうにかって言われても……」

 メイン・コンピュータってあなたでしょうが?!

 彼女は少し考えてあたし達の先を走り始める。

「あたしの後についてきて」

 大丈夫かなぁ。

 妙に不安を感じるんだけど。


「ねぇアランさん、「彼女アンナ」って「彼女(メインコンピュータ)」だよねぇ?」

 アランさんに問い掛けると、彼はちょっと首をかしげた。

「正確に言うと、少し違う」

 は?

「どうゆうこと?」

 「彼女」に聞かれないよう声を低くする。

「さっき俺が残った時は、「彼女」は確かにコンピュータがうつした映像だった。けど……」


   ★


『すべてが終わってしまう』

と「彼女」は言った。

『ずっとそばにいてくれるわね、マモル』

 「彼女」はアランの胸に手をかざして静かに笑った。

 すかして見える記憶の波。

 確かにあなたね?


――「彼女」は知らなかった。

 自分の力の影響で四人の記憶が引き出されクロスオーバーしてしまったことを。

 「彼女」は相手の姿を判別する手段として心の色、波を見る術を覚えていた。

 それは大切な誰かを探すため。


 なんだか少し違うような気もするけど、仕方ないわ。私自身がオリジナルではないんだから。

 「彼女」は違和感をそう思うことで納得させる。

 時間がないのが悔しいわ。もう少しで完璧だったのに。


『ねぇマモル。お願い、そのボタンを押して』

 アランは黙ってそれに従う。

 するとコンピュータ本体の一部が開き、何かの液体に満たされた女性がゆっくり現れた。

「彼女」はそっとそれに近づくとすぅぅっと消えてしまう。そして女性の周りを満たす液体が消えていき、中にいた女性が目覚めた。――それは「彼女」……。実体を持ったアンナだった。


 アンナはゆっくりと視線をアランに注ぎ、優しく微笑む。

『ありがとう』

 ゆっくり立ち上がり、一歩二歩と歩き始めるアンナを彼はとっさに支えた。そして彼女のそばに用意してあった衣服をその体にかける。


 俺は、今何を見てるんだ?

アランは自分が目にしているものが何なのかわからなくなった。

 それは、地球を恐怖に陥れるコンピュータというよりは、まるで女神誕生のようだった。


『本当はもう少し時間が必要だったのだけど……。ごめんなさい、怒らないでね? 私、アンナのオリジナルをさがして、自分で再生したの。体はわりとうまくいったんだけど、記憶がまだ不完全なのよ。でも、時間がないから……。だって、この体がないとあなたに触れることもできないのよ?――ずっとずっと探していたの。会いたかった……」

 探してたの……ずっと……。


 私が初めて目がさめた時、そばには誰もいなかった。でも不思議なことにたくさんのものが見えた。たくさんのものを見た。ただ見つめていた。でも見つづけていたら、いつしか戦いが始まった。

 焦った。

 そんなことをしたら、どこかにいるマモルが危ない!

 それは唯一胸を占めるもの。

 それはいつかマモルのそばに行き、おはようと言うこと。ただそれだけなのに……。

 焦ってもどかしくて、でも彼がどこにいるのかわからない。

 どうしたらいいの? どうしたら。

 そんなある日、私の中の何かが切れた。


 戦争なんてやめちゃいなさいよ。

 遠くにある地球はぐちゃぐちゃごちゃごちゃ。

 なんだかイライラするわ!

 手のひらをひらめかせるだけで、いろいろなことができることに気がついた。


 ねぇ、空間移動できる装置を作ったわ。誰を呼ぼうかしら?


 反重力装置を作ったわ――誰のために?


 知らない。


 ある日私の前に現れたあなたは誰?

 私を作ったですって?

 何を言ってるのかしら。私は私。あなたなんて知らない。

 ちょっと考えるだけで、人間はおもしろいように動く。


 私を作ったという男がマシノロイドを作る。

 世界を一つにする、か。

おもしろそうね、手伝ってあげる。

だから私はあの男の作ったダビルサルを私の中に取り込み、楽しいゲームをする仲間となった。


『賭けをしようよ』

 私であって私でない、あの男が作った、でも別の“彼”。

 でも、同じ何かを感じる“彼”。

 だんだん楽しくなってきた。

 本当はもっと違うことをしたかったような気もするんだけど……。


 ――またあの男が私を止めようとする。

 どうして? 私は楽しみたいだけなのに。

 彼の心をのぞくと不思議な気持ちになった。

 ずっと探していたような。

 まさかね。そんなはずはない。

 でもいつしか男は消えた。


 無意識に生まれる喪失感。これは何?

 やっぱり私は何かを探していたんだろうか?

 そして見つける、私のオリジナル。

 アンナというオリジナル。


 すでに消えた命を再び作るため、ありとあらゆる材料を集める。

 そして記憶をコピーする。かつてあの人がそうしたように。――あの人って誰? 

 ――知らない、わからない。


 だんだん浮かんでいく、記憶の波。

 この波が私の探してる人のものなの?

 近くにいるような気がする。でもわからない。


『何を考えている?』

 “彼”が言った。

『なんだかつまらなくて』

 見えない何か。もどかしくてイライラする。

『じゃあ新しい賭けでもしようか?』

『いいわね。どんな賭けですの?』

『ここに誰かがくることを』


 素敵な考え。


『でしたら私たちの力が通じない人にしましょうよ』


 アマカーテアを通して自分の力が弱まっているのがわかる。

 力が消えてしまう前に会いたい。誰に? わからない。

 でもそれが叶うなら、後はすべて消えてしまってもかまわない。

 探している何か以外は何もいらない。


 そんな時、不思議なひずみを感じ、そこに四人の人間を見つける。


 おもしろいわ……。


 そして、近くにいた消えかかった命にきっかけを与える。

「女……神……?」

 うふふ、女神ですって。

そうよ、私はそう作られた。

『力を上げる』

 だから私を楽しませてね。


 走って、血を流し、想い合い……。

 でも邪魔はしないで。会いたかっただけなの。それが誰なのか……わからないけれど。


 みんなが私を止めようとする。

 でも、私の力は弱まりかけてる。何かがずれ始めてる。


 気がついたらまた一人ぼっちになってた。

 ものすごく力を放出した気がするんだけど……。

 ああ、でもわかった。会いたかったのが誰だったのか。

 ねぇ、ここに来て。ずっと探してたの。

 どうして四人もいるのかしら?

 いいわ。ねぇ来て。私を一人にしないで……。


   ★


 アランさんが共有してしまった「彼女」の記憶は、言葉少なく話すアランさんから、驚くほど鮮やかにあたしの中に流れ込んできた。


 胸が痛い。

 結局何が、誰が悪かったのかわからない。


「誰が悪い……ってことじゃなく、何か、どこかで歯車がずれてしまっただけなのかも知れないね……」

「「彼女」に受けた被害は大きいけどな」


 胸が痛い……。

 アランさんがシンザキさんを撃ったわけがわかる気がした。

 「彼女」のせいで、死ななくてすんだ人が何人も死んだ。

 ――でも、「彼女」がいたから死なずにすんでる人のほうが、きっと多い……。


「あ、でも、あいつは別だな」

「誰?」

「ロムステル。悪というよりあほだったけど。小悪党のくせに、裏の方面はすごかったぞ。平気で人を踏みにじってきてた」

 あのおじさんが?

「どこか思い切りぬけてそうな人だと思ったけど?」

「ご名答。裏の情報網その他もろもろを俺が乗っ取ってるのに気付いていなかった」

 あら、まぁ。

「所詮トップに立てる人間じゃなかったってことさ。ああなっても当然だ」

 ?

「将校の格好したやつにくれてやったよ。――ケイとかいったっけ。煮るなり焼くなりご自由にってね。父親の仇だとさ」

 そうだったの。

 何もいえない。どうなったのかも知りたくなかった。

 偽善かな。

 でも、あたしが今できることはみんなの元へ帰ること。

 できることならすべてにハッピーエンドにもっていきたい。


「ひずみのところにいた四人の人間て、お前達のことだよな」

 !

「マリノってどこから来たんだ?」

 素朴な疑問、だよね。

 じっと見るアランさんの視線に困ってしまう。

 ごまかしようがない。

 だって、彼もあたしなんだから。

 あたしの記憶を見てるはずだから……。


「マリノは不思議で走馬灯みたいに駆け抜ける記憶を持ってるな。一体あれが現実なのか物語なのかわからないぜ」

 物語?

 うーん、どこまで知ってるんだろう?

 私がみた記憶そのまま?

「お前達ってかなり変わってたし」

「え…そ、そう? 普通よぉ」

「普通ってやつらがシップ乗っ取るかよ」

「え、映画とかにはよくあるじゃない」

 思わず苦し紛れに言うと、アランさんは怪訝な顔をした。

 やっぱり苦しいいいわけかしら。

 でも彼の言葉は別のことだった。


「映画って?」

 ん?

「知らないの?」

 彼は少しむっとした。

「あ、ごめん、おこらないで。えっと映画って言うのは……」

 う~ん、なんて説明したらいいのよう。

 美来たちがいたら適切に言ってくれるだろうに。

「えっと、物語を人が演じて、フィルムに写してみるもの、だよ」

 う、う~~~ん、自分の語彙力が情けない。

「お前の記憶にあったみたいなものか? 馬が走ったり、見知らぬ服の人間がいたり」

 はっと彼を見る。

「う……ん……。そう……」

 アランさんが見たのは、あたしが見た映画? それとも……


「昔冒険小説なんてのを読んだことがあるよ。それを映像で見るのもおもしろそうだな」

 少し笑ったその顔がなんだか可愛かった。

 この時代、彼は娯楽番組なんて見たことがないのかもしれない。 

 現実だけの中で生きてきたんだ。

「地球に帰ったらさがしてみなよ。きっとフィルムとか何かのこってるよ」


 だって、あたし昔の映画見たことあるもん。

 苦しい事や楽しいこと。

 現実とは違う夢を見てもいいじゃない、ねぇ?


 自分の記憶の奥を探る。

 曖昧でぼんやりした記憶の中には、一体どんな物語がつづられていたんだろう。

 はっきりしないのが哀しくもあった。

 ただそこには確かにリオンがいた。

 それだけがあたしの真実だから。だからあたしは大丈夫なんだと思う。

 今は北くんも美来もそばにいいるしね。


 と、一瞬北くんの唇の感触を思い出して顔が熱くなってしまう。

 うう、今はそんなときじゃないのよ。北くんのバカ。


「あの角を曲がったらすぐよ」

 トラップを避けながら走り抜け、「彼女」の声に気合を入れる。

 そしてその角を曲がった途端、隣を走っていたアランさんが突然がくんと崩れた。

「アランさん!?」

 ちょ、ちょっとどうしたのよぉ?!

 おろおろして前方を見るとアンナさんが壁の前でボーっとしてる。

 一体何やってるの?


「この向こうなのよ!」

 ヒステリックな「彼女」の声。

 ダンッと壁をたたいて。

「そんな……」

 アランさんは真っ青な顔で動かなくなっちゃうし、道はないし、「彼女」はヒステリー起こすし。

「アランさん、しっかりして」

 必死で叫ぶと、アランさんがはっとしたように立ち上がった。

「ああ、悪い」

 そして彼は何事もなかったかのように壁に近づこうとして


「危ない!」

 かけ戻ったアランさんに突き飛ばされる。


 轟音。


 思い切り背中を打って、目の前が暗くなる。

「う……痛……」

 しばらくして何とか目を開けて呆然とした。

 何も見えない。真っ暗だった。すごいほこりが舞ったみたいで、激しくせき込む。

「アランさん? アンナさん?」

「あたしはここよ……」

 囁くような「彼女」の声。

 アランさんは?

 暗さに目が慣れてくると、さっきまであたしがいたところが崩れて瓦礫の山になってた。

 心臓が跳ね上がる。

「アランさん!」


 こんなはずじゃなかった。

 あたしが鈍くさかったせいで。


「アンナさん手伝って。アランさんがこの下敷きになってる!」

 うつぶせに倒れた彼の腹部から下は、瓦礫の下敷きになっていた。

 必死で瓦礫を掻き分けて掻き分けて……。

 お願い、誰か来て、助けて!

「まだ息はあるわ」

 アンナさんが言った。

「でも……」

「ダメ、それ以上言わないで」


 アランさん死んじゃダメ!

 ガーティがまってるよ! 映画見るんでしょう? 地球に帰るんでしょう?

 どうしてこうなるの?

 あたし守ってもらうために来たんじゃない。救いたかったのに。


 どけてもどけても瓦礫は全然減ってくれなくて。


「助けて!」

 彼女が壁をたたいて叫んだ。

「ねえ、そこに誰かいるんでしょう! お願い助けて! 彼が死んじゃう!」

 声の限り叫んでる。

 助けて。誰か……リオン、北くん、美来……。


「う……」

「アランさん!」

 気がついた。でも……

「――どうして泣いてるんだ?」

 かすれた声。

「泣いてないよ。だからしゃべらないで。すぐにこれどけてあげるから」

 泣いてないよ。だって泣けない。泣けないはずなのに……。

「重い……な……」

 かすれる笑い声。

「これは俺がやってきた罪の重さかな」

「馬鹿なこと言わないで」

 どけてもどけても減らない。

 早くしなきゃ。

 助けて! お願い助けて!

「俺……」

「しゃべらないで」

 これ以上負担をかけたら。

「ムリだよ」

「ムリじゃない! あたしこう見えてもけっこう力あるんだよ! こんなのすぐどけてあげるから!」

 ほとんど悲鳴だった。


「マリノ。……俺の名前、呼んでよ」

「アラン……さん?」

 そっと彼の指があたしに触れる。

「俺の、本当の名前……」

 喉が凍りつく。

「ねぇ……」

「セルゲイ……」

 雪の中で彼のお母さんが呼んでた名前だ。でも、力が入らない。はっきり呼べない。

「泣くなよ……」

 泣いてないよ、泣いてない!

 ぺたんと座り込んだあたしの手を彼は握った。

「どっちにしても、長くなかったよ……」

 もうしゃべるなとは言えなかった。

「ごめ……なさ……」

「謝るな……感謝してる……」

 え?

「俺が……俺で……いられ……るの……あんたのおかげ、だ。……自分に負けない…。でも…俺…もう……」

「アランさん!」

 滑り落ちかける手を強く握る。

「俺……時間……なかった……。一年……持たないって……だから……」

 そんな……そんな……

「しっかりして、大丈夫。助かるから、ね。ガーティがまってるよ」

 小さな吐息が聞こえた。

「ガ…ティ…」

「そう、ガーティ」

「……幸せに……あの絵のよう、に……笑って……」

 ガフっといやな音が聞こえ、膝が生暖かくなる。

「アランさん!」

「光が見え……。ああ……マリノ……未来は……いいところか?」

「うん、平和できれいだよ」

 涙が押さえられない。

「もし……ありえるなら……また未来……別の形で……会え……」

 手が滑り落ちる。

「アラン……さん?」

 答えは返らない。


「いや……アランさん……セルゲイ! セルゲイ! いやぁぁぁぁぁ!」


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