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Anniversary~アニバーサリー~  作者: chie
エピローグ

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 ピッ!

 実に機械的な音とともに画面の表示が消える。大事な手紙を読み終えたのだ。


 過去から戻ってきてからの二年間。何度となく読んだレターディスクをハードからぬきだす。

「早いなぁ。もう二年か」

「そうね」

 シャッとあいたドアから、そう言ってママが入って来た。

「お茶入れてきたのよ。飲むでしょう?」

「もっちろん」

 ママからカップを受け取って、一口紅茶を飲む。

 う、あつい。


「もう二年も経ったのね」

 さっきあたしが言ったことを、ママも繰り返す。

「本当にあの時は、生きた心地がしなかったわ」

「ごめんね」


 あの時――あの過去で過ごした時間は二週間程度だったのに、帰ってきたら一ヶ月もたっていたのだ。


『お帰り』

と最初に言ってくれたのは美来のパパ。

 以前のあたしのように、記憶を落としてきちゃった人は幸いいなかった。

 そして、帰って来たあたし達を待っていたのは涙とお説教。

 いくら『ポチがついてるから』といっても、心配なのにかわりはなかったのよね。


 それから、あたしに関してはみっちり補習も待っててくれていて、おかげで金星旅行はパーになってしまった(クスン)。


「でも無事に卒業できてよかったわねぇ」

「あはは、ホントに」


 そう、あたしも三日前卒業したことで、火星の法律により成人となった。


 あの日からあたしは変わった。あたしだけじゃなく、北くんも美来も。

 そして美来のために、あたしはできるだけのことをしたつもり……。


「美来ちゃん、行っちゃったのね」

「うん」

 美来は昨日、二百年前の地球に戻った……。


 あたしは知っていた。美来が行ってしまうことを。

 帰ってから偶然見つけてしまった、このレターディスクの手紙を読んでたから……。

 でも、本当は予感はしてたんだよね。

 月から帰る時、美来の耳にはピアスがなかったことに気づいたから。

 美来のルビーのピアスは、美来が生まれたときに贈られたもので、とても大切にしてたし、以前その話をしてた時、

『恋人にルビーを送ると強い絆で結ばれるんだって』

と話していたのを覚えていたから。


 美来は最初からリックが特別だったよね……。

 美来は何も言わないから気付かない振りしてきたけど。本当は感情表現がすごく苦手で不器用だったからね。


『親愛なるマリノへ』

 二十三歳になった美来の、過去からの手紙はそこから始まっていた。


   ☆


『親愛なるマリノへ


 この手紙があなたに届くかどうかわかりませんが、これを書いています。

 私がここへ来て早いもので五年の月日がたちました。

 今思うと、私がこうすることをあなたは気付いていたのでしょうね。


 私は未来へ戻る時、一つの決心をしていました。

 両親に上総のことを伝えたら、猛勉強をしてここへ戻ってくることを。

 私のしたことが、少しでも私たちが知ってる地球になるきっかけになってくれたらと思います。緑あふれる、あの日見た昇る地球よりずっと美しい二十五世紀の地球に。


 私は今とても幸せです。

 犠牲にしたものはとても大きくて胸が痛むけど……。


 どうぞみんなに伝えてください。幸せに、と。

 こんなわがままを許してくれた父に、母に。

 いつも支えてくれた真幸に。

 そして、ここへくることを手伝ってくれたポチに。

 何よりあなた自身に。

 幸せになってください。

 そして、できることなら私を忘れないで。

 今の幸せのために、半分の幸せを捨てた私のわがままですが。


 今だから言えるんだけど、正直言って、あのころのあたしは一時あなたが妬ましかった。

 誰からも愛され、守られているんですもの。

 あなたがそばにいるだけで、未来が明るいもののように思える。まっすぐ前を見られる気がする。そんな不思議な魅力があるあなたを、私はどんなにねたんだか。悔しかったか。

 そして、そう思う自分自身が何より嫌いでした。

 どうして私だけがこんな苦しい思いをするんだろうって。


 そんなはずないのにね。

 今はただただ素直に、あなたのことが大好きです。

 そしてそう思う自分も。


 そうそう、近況を報告しますね。


 先日リーとケイが来てくれました。

 写真を見て。右端にいるケイと背丈の変わらない東洋人がリーです。すっかり大人っぽくなったでしょう。もう二十一才です。隣にいる女の子は恋人なんですって。本人も自分に自信を持ったのか、ずいぶん落ち着いた男性になりました。


 ケイはまだまだ独身を楽しむのだとあちこちの女の子に声をかけてますが、仕事は将来有望とのこと。結婚は早くても四十歳だな、ですって。あと十五年はナンパをするのかしら? それも彼らしい気はします。


 ダンはアジアに復興派遣団のリーダーとして行ってます。

 最後にあったのは二年前だけど、とても元気そうです。


 トニーはヨーロッパで情報管理センターの職員。彼の恋人は残念ながらいまだ行方知れずのままです……。


 ガーティはロティのすすめで今は看護師をしています。

 主に小児科で働いてますが、気を付けないとギリギリまで働き詰めてしまい小さな患者さんからも心配されることがあるので、まだ少し心配です。


 ロティといえば、この前二人目の子どもが生まれました。元気な男の子です。上の子は女の子で、赤ちゃんの面倒は自分が見ると張り切ってます。可愛い甥と姪です。

 これは言いそびれてしまったことですが、この可愛い甥っコが、実は私の先祖にも当たるんです。

 時間のいたずらって不思議ね。


 シンザキ氏はアンナさんの協力を得て人型のマシノロイドになり、今は彼女と静かに暮らしていましたが、先日記憶装置の発表で時の人となりました。

 正体不明の天才科学者として表にはでませんが、なんだか子供のころ見た映画を思い出します。


 レットとセーラは共にリーダーシップを発揮しながら、先日学校を開校しました。

 未来のために、いい人材を作るんだそうです。


 まだまだこの時代は不安定だけど、これからよくなっていくことを知ってるから、自信を持って行動しています。


 マリノも頑張ってね。

 さようなら。


 多大な感謝と愛を込めて……。


 ミキ・ハマダ・ウィルソン』



   ☆


「ごちそうさま」

 カチャっとカップを置いて立ち上がる。

「出かけるんだっけ?」

「うん。チケットとってくる」

「そっか。あんたも行っちゃうのよね」

「ふっふー。パパと二人で新婚時代に戻ってみたら?」

「もちろんそのつもりよ」

 おっと。

「ポチに伝えてね」

 ん?

「私たちは家族なんだと」

「――うん」


 二年前、夏が終わると同時に地球に帰ってしまったポチ。

 仕事が終わったということで、最初からそうゆう約束だったらしい。

 怒ったよ。ずっと一緒にいてくれるって言ったのにって。


「本物の家族になるのが理想なんだけどね」

 どこまで本気なのか、ママがニヤニヤ笑いながら言った。

 思わず赤くなって、頬を指でカリカリする。


 もう一つ思い出しちゃったことがあるんだよね。

 十一歳のあたしは、『リオンのお嫁さんになる!』宣言をしてるんだな。

 それがどうゆう経緯だったのかわからないし、子どもの頃言ったことだし、ねぇ。


 そう思いつつ、あたしは彼がいる地球の大学に留学することになっている。

 あたしのなかで、彼がリオンなのかポチなのか、気持ちが中途半端なままなのだ。

 彼は彼でしかないし、それはわかってるんだけど、リオンもポチも大切で。

 う~ん、よくわかんない。

 大体あたしが記憶失ってるってのに、まるで別人みたいに振舞うから混乱するんじゃないのよ。どうしてそうしたのか理由も聞いてない。

 しかもその混乱状態のあたしを置いて勝手に地球に行っちゃうなんて!

 

 ピンポーン

「誰かしら」

 ママが玄関に行くとすぐ戻ってきた。

「真幸君が迎えに来たわよ」

「あ、うん。今行く」

 北くんも地球に留学するので、一緒にシップのチケットを取りに行く約束をしてたの。

「お待たせ」

 玄関に行くと、北くんのほかにもう一人いた。

「こんにちは」

 ぴょこっとその子が頭を下げ、北くんが困った顔をする。

「勝手についてきちゃってさ……」

「あたしは別にかまわないよ?」

 ニコッと笑ったら、思い切り苦い顔されちゃった。


 その子は一年程前にあたしのところに来て「真幸先輩が好き」と宣言していったのよね。

「ほら真幸、行こうよ」

「呼び捨てにするなって言ってるだろうが」

「だってぇ」

 二人のやり取りに笑ってしまう。

 彼女って、なんか憎めないし、北くんも妙に可愛い。

「なーに笑ってんだよ」

「別に~」


 北くんには伝えていない言葉がたくさんある。

 ありがとうとか、ごめんなさいとか……。

 いつかまとめて伝えよう。

 今はまだ、はっきりしたものが見えないから。


 そしてあたし達は歩き出す。

 まっすぐに。

 後悔もたくさんある。

 でもみんな一生懸命生きてるんだもん。遠い遠い友達に恥じないように生きるんだからね。

 扉をあければ、そこには未来が広がってるよ。


「じゃあ、行ってきまーす!」


         終

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