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Anniversary~アニバーサリー~  作者: chie
Act16.プログラムを変えろ

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 ううん、生きてる。

 だって、こんなにはっきりと心臓の音が聞こえる。

 ああ、あたしもリオンも生きてるんだ……。

 顔をあげて彼を見る。

 途端におそわれる違和感。


 リオン……だよね。……でも。


 ゆっくりゆっくり考えて、あたしは十一歳の女の子から十六歳に戻った。

「ポチ……」

 声を出さず唇だけ動かす。


「もう大丈夫だ」

 彼はリオンに戻ってあたしの髪をなでた。


 深い深い安らぎ。

 胸がいっぱいで、新しい涙がまたあふれてくる。


 ――無事だったんだね。あたし達あそこから生きて帰れたんだ。そしてあなたはポチとして、記憶をなくしたあたしのそばにずっといてくれたんだね。ずっと……。


 そこでハッとする。

 みんなは?!


 あわててコンピュータに向かっててもとのボタンを押したけど何も反応してくれない。

 不安と焦りでバンとたたくと、ピッと音がして、三つの画面のうちシンザキさんが映し出される。

「シンザキさん!」

 悲鳴まじりで叫ぶ。

「シンザキさん、しっかりして!」

 スクリーンの中で、彼が力なげだけど、たしかにパタッと尻尾をふった。そしてのろのろと顔を上げ、大丈夫だと告げてきた。

 ホッとしつつ、上総とアランさんはと気がせいる。

「マリノ」

 めちゃくちゃにキーをたたくあたしを見て、ポチ……リオンが交代した。

 あの二人が、今もまだあんな思いをしてるのかと思うと胸が苦しい。クロスオーバーしてしまった記憶。哀しい哀しい想い……。


 スクリーン内部のマップが出て、美来とリックを見つけた。

 あそこは上総のすぐ近くだ!

「声をあそこに送れない?」

「やってみる」

 リオンがキーをたたくと美来たちのいる地点にランプがつき、あたしは見つけたマイクのスイッチを入れた。

「美来、リック、聞こえる?」

 ギョッとしたように二人が止まって、キョロキョロとあたりを見回した。

「マリノなの?」

「うん、そう」

「一体どこにいるんだ?」

「詳しいことは後で。その近くに上総がいるの。お願い、上総を助けて。早くしないと記憶に飲まれちゃう!」


 どうゆうことだかわかってないだろうに、美来たちはポチのナビに従って走り出す。

 画面下方をみると北くんがいた。そして―― ガーティ、何故ここに?!

 ガーティは苦しそうにみぞおちを押さえながら、北くんに支えられるように走ってる。

 こんな時だというのに、二人がすごくきれいに見えて、同時にむっとするような、哀しくなるような、変な気分に襲われてしまった。


 その時、シンザキさんから集合するよう言われ、そのまま他のメカも何の反応もみせなくなってしまう。


 あたしはリオンと一緒にさっきの部屋に戻った。

 ついたのはあたし達が一番先で、次にシンザキさんが入って来た。

「シンザキさん、他の人は?」

「大丈夫。もうすぐここにくるはずだ」

 その言葉どおり、美来、リック、上総、北くん、ガーティ、そしてアランさんが入ってくる。

 でも上総とアランさんは今一意識がはっきりしてないみたいだ。大丈夫かな……。

 気になるものの、まずはシンザキさんの話を聞くことにした。


「ことは成功した」

 少しほっとする。

「だが、あやつが完全に停止することによって起こる、ここの爆発をとめることはできない」

 一気に叩き落される。

 いいかげんにしてよねぇ!

「ここから脱出するんだ」

 そう言ってシンザキさんはスイッチを押す。すると壁の一部が開いた。

「移動用のポットだが、爆発の範囲外には出られるはずだ。さぁ早く」

「はい」


「きゃーっ!」

 えっ?


「アラン、アラン!」

 ガーティが叫びながらアランさんにしがみついている。

 えっ、何? どうしたっていうの?

 小さな悲鳴が聞こえ振り向くと、いつのまにか目の前の壁が消え、メイン・コンピュータが見える。そして、そこにはふわっと浮かんだ「彼女」がいた。

 切ないほど哀しい顔をして、そっと「彼女」は手を差し伸べる。


 アンナ……。


 声にならない声がつぶやく。

 シンザキさんの記憶を思い出す。

 やめて、そんな顔をしないで。

 記憶を共有してしまったために、同じように痛む胸。


「アンナではない」

 苦しいシンザキさんのつぶやき。


「さあ、早くポットへ」

 でも足が動かない。

 他人の記憶なのに……。ううん、もしかしたら、だからこそ、胸が痛むなんてものではなくて……。


「か、体が勝手に……」

 北くんたちが「彼女」から離れるようにポットのほうへ押し出されていく。

 まるで邪魔をするなとでもいうように。


 「彼女」は多分判断できないでいる気がした。

 同じ記憶を共有してしまったあたし達の、一体誰が本当に求めるものなのか、それがわからないでいるのを感じる……。


『一人にしないで』


 心に響く「彼女」の言葉に胸がずきんとする。

 取り残された女の子。

 気持ちが重なってしまう……。


 あたしの横をシンザキさんが二歩三歩と「彼女」のほうへ進み、懸命に足を踏ん張って頭を振る。

「違う、お前は違う!」

 神聖なものを汚された悲しみ。


 後ろで何かをたたく音がする。

「早く脱出しろ!」

 シンザキさんが「彼女」をにらみつける。

「お前はアンナじゃない」

 瞬間、彼はすごい勢いではじかれ、ぐしゃっといやな音がした。


『来て』

 差し伸べる手に、アランさんと上総が「彼女」に近づいていく。

 あたしも二人に続こうとして誰かに押さえられた。


「や…はなして!」

 一人になんてしない。あんな思いはさせない。

「マリノ!」

 「彼女」のそばに行かなくちゃ。


「もう二度と約束を破らないから」

 体がびくんと震える。

「頼むから行くな」

 何度も瞬きをする。


 あたし、また「彼女」に飲み込まれかけた……。


 あたしを抱きしめるリオンの腕をぎゅっと握ってしっかりと立つ。

 あたしは行かない。

『そう……』

 「彼女」がつぶやくのとガーティが叫んだのは同時だった。


「アラン、帰って来て!」

 そして美来が走り出し、「彼女」とここを阻む見えない壁をたたく。

「上総!」

 「彼女」はふんわりと微笑む。

『ダメよ。わたくしのそばにいるの』

 幸せそうな顔。

「冗談言わないで。アラン、アラン!」

 ガーティが恐いぐらいの勢いで叫ぶ。

「上総を連れて行かないで!」

 会って一日しかたってない上総を、美来は必死に呼んだ。

「上総!」

 でもアランさんたちはもう少しで「彼女」の手を取り……


「だめぇ」

「上総。いや、だめ! 兄さん!!」


 ピクン……とアランさんがその動きを一瞬止める。。

 あたしは呆然としていた。

 兄さんて……美来?


 アランさんは「彼女」に何か囁く。

 何を言ったのかはわからないけど、「彼女」は上総の手をとらず、アランさんが上総をそっとこちらへ押し出した。

 リックと美来がそれを抱きとめる。

「兄さん……」

 美来がほっと崩れ落ちた。


「アランさんも」

 あたしが言うと彼は笑って首を振った。

「女神様のお相手は俺一人で十分さ」

 おどけていうと、彼は彼女のほうへ行こうとする。


「アラン!」

 ガーティが見えない壁に体を押し付ける。

「あたし、どこまでもいっしょについて行くって言いました」

 ゆっくりと振り返ったアランさんは、残酷なほど冷たい表情をしていた。

「頼んだ覚えはないぜ?」

 ガーティはビクッと肩を揺らした。

「アラン……愛してるの……」

「そんなこと、俺には関係ない」

 この……と走りかける北くんをあたしは止めた。

「マリノ?!」

 あたしは下を向いて頭を振った。

 ガーティの涙声がする……。

「あなたのために、あたしはたくさんの事をしたじゃない。アルテミスの爆破もデータの入手も、セーラのことを申告したのも!」

「ガーティ……」

 リックの驚いたような声が聞こえた。

「みんな、あなたのために」

 他の人を裏切ったの……。


 声にならない声。

 北くんから力が抜ける。


 あたしは驚かなかった。

 だって、一部とはいえ記憶を共有してしまったから。

 一緒に行くと真摯に伝えてきた少女がガーティだったことを知ってる。そのために何をしたのかも、あたしはもう知っていた。そして……。


 アランさんの冷笑が響く。

 すがるようにガーティは「愛してる」と繰り返した。

「俺はお前のことなんてなんとも思ってないよ。好きとも嫌いともね。なんとも思ってないんだ。第一、みんなお前が勝手にしたことだろう? 俺には関係ない。大体、こんなところにまでついて来やがって。迷惑だって意思表示はしたはずだぜ?」

 ビクッとガーティはみぞおちを押さえた。

「まったく。たまには余興とガキに手ぇ出したのが悪かったんだな。俺は天使より女神のほうが好みなんだよ。じゃあな」

 軽く手を振って、彼はガーティに背を向けた。


「アラン!」

 なおも叫ぶガーティに「彼女」は眉をひそめた。

『うるさいコ…』

 はっとして、慌ててガーティの後ろに回る。

 案の定ガーティは見えない力に飛ばされそうになるのを受け止め、さらに北くんにとめてもらい、なんとか衝突をまぬかれたんだけど……。


「北くん、足!」

 怪我してるのに!!

「大丈夫だよ」

 そう言って笑うけど、無理してた足はすごく腫れて熱もってるし、今も肩をぶつけたらしく、顔色も悪い。


「全然大丈夫じゃないじゃない」

 下唇をかんで決意する。


「美来、北くんの手当をお願い。リオン、ガーティとシンザキさんを頼みます」

 意識を手放し、ぐったりしたガーティをリオンにゆだねる。

「マリノ、何をする気だ」

 北くんがあたしの肩をつかんでいった。

「みんな、ポットで移動してて。場所はシップの置いてあるところね」

 あたしは立ち上がって振り返る。

 見えない壁は、普通の壁と化したかに見え、もう向こう側が見えない。

 でもまだ引き寄せる力を強く感じる。


「あたし、アランさんを連れ戻すから」

 とても放ってはおけない。

「無茶言うなよ。一人でどうする気だ。あいつは自分の意志で行ったんだぞ」

「そうよ。死ぬ気だわ。あたし達を助けるためにね!」

「まさか。あの男が? ガーティをこんなに傷つけるような野郎が」

「傷つけてまで守ろうとしたのよ!」


 不器用な人だ。

 冷たい瞳の彼を演じてた。でも、そうじゃなかったって知ってる。

 ガーティの愛がどれだけ彼の心に光を与えてたのかも……。


「北くん、わかってとは言わない。でも、今はあたしの言うことを聞いてください」

 彼はあたしでもあるの。

「――じゃあ俺も行く」

 あたしは首を振る。

「今「彼女」に近づけるのはあたしだけだもの」

 ごめんね。

 心の中で謝って、一生懸命笑顔を作る。

「大丈夫だよ、ちゃんと帰ってくるから」

「当たり前だ」

 吐き出すように北くんは言って、そっぽを向く。

 あたしは一旦かがんでガーティの髪をなでた。

「ガーティの髪の色、アランさんのママにそっくりだよ……」

 顔を上げてリオンを見ると、彼は左のピアスをはずしてあたしの手に握らせた。それは安全と運を呼ぶといわれてるターコイズ。 

「ありがとう」


 彼はただ笑った。

 それだけで力が湧いてくるよ。不安が嘘のように消えていく。


 美来達をもう一度見て、左手を壁に当てる。

「いってきます!」

 あたしは一気に壁に飛び込んだ。

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