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Anniversary~アニバーサリー~  作者: chie
Act16.プログラムを変えろ

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「アランさん?」

 声をかけると、彼はふっと笑って手を止めた。

「こんなこと、してやる義理はないよな」

「アランさん?」

「このまま地球なんざ滅びちまえばいいんだ」

 冷たい瞳で投げ出すように言ったアランさん。

「生きてたってろくなことないもんな。人も街もすべて土に返ってしまえば、いっそせいせいするってもんだ」


 ……。


「そうね……。人間て、底なしのバカだもんね」

「え?」


 どこか遠くを見ていた彼は、まるで初めてあたしに気付いたようにこちらを見て、ゆっくりと瞬きをした。


「地球の歴史は戦いと共にあったんだもんね」


 鼻の奥がつんとする。

「でもね、本当はいつだって一生懸命だったんだから。バカなりに生きたいって、幸せになりたいって願ってきたんだから」 


 顔も名前もわからない人たちの姿があたしの中を駆け抜ける。

 そう、みんな必死だった。がんばってた。

 これは「あたしの記憶」?


「あたし達、生きていくために生まれたんだから。目をそらしたい歴史がたくさんあるよ。なんて馬鹿馬鹿しいって怒りを覚えることだって、一度や二度じゃない。だって人間ぐらいだもん。ささいな違いで争うのは。でも、バカだって成長してるんだから。歴史は戦いと共に“あった”のよ! 過去形なの。未来に争いがないなんて言わない。みにくいことだってあるの知ってるもん。いつも気付かない振りしてた。でも、そうゆうことを乗り越えて、あたしは今、前を見ていきたいと思ってる」


 北くん、上総……あたし本当は嬉しかった。

 前を見ていける……自分が自分の理想に近づいた気がした。


「いつだって自分の前を阻んでるのは自分だった。みんな、本当はそうだと思う。ヒトを責める事は簡単だよ。でも……でもどうか自分に負けるなんて哀しいことはしないで!」


 パチン

 かわいた音……しびれる右手……そして、見開かれた深いアクアマリンの目……。

「負けないで、ね?」

 がまんできなくて涙がこぼれた。


「殴ったほうがなくなんて卑怯だぞ」

 アランさんが困ったような、すねたような口調で言った。

「ごめ……」

「あやまるな。あやまられると自己嫌悪に陥りそうだ」

 そう言って、頭をフルフル振ると、アランさんはにっと笑った。

「もう大丈夫だ」

 吹っ切れたような笑顔だった。


「ようし、なせばなる。アランさん、さっき何か手があったんじゃないの?」

 冷たい瞳の彼は何かしようとしてたんだよね。

「ああ、あれ」

 そう言ってアランさんは少し困ったような顔をした。

「いや、その……上からプログラムを書き換えてしまおうかと……」

「できるの?」

「キーワードをぶち込んでしまえば、いやでも新規になるはずだと……」

「そうだな」

 アランさんに同意したのはあたしじゃなかった。

 聞き覚えのある声に振り返ると、シンザキさんがうーんと伸びをしているところだった。


「し、シンザキさん~?」

 思わず声がひっくり返る。

「だって、だって、え???」

 パニックしてるあたしの前に、のんきにトテトテと歩いてきたシンザキさんは、かわいらしく首を傾げて見せた。


「君は私が半永久型マシノロイドだと知っていたんだと、思ったんだが?」


 あーん、自己再生機能つきだったのね。


「あ、あの、さっきは……」

 何か言いかけたアランさんに、シンザキさんは器用にウインクした。

「何も言うな。――あとは、君がこの子に言った言葉をそっくりそのまま、な」

 キョトン……

 全然私にはわからないけど、二人の間はどうやら通じるものがあったみたい。とりあえずシンザキさんは怒ってないのね?


「さて、のんびりしている暇はないな」

 そう言ってシンザキさんは左側のコンピュータに飛び乗った。

「キーワードをぶち込むことができれば」

「キーワードって?」

「私があやつをプログラムするとき、外部から手出しができないように入れたものだ。パスワードを割り出すためのもの……ともいえるな」

 二重のパスワードってことなのかな??

「それってもしかして、あをがどうのこうのってやつのこと?」

「ほお……よく知ってるな…」

「うん。あたしの友達が見つけたの」

「そうか」

「それってどうゆう意味があるの?」

「――別にないよ。ただ好きな言葉を使っただけだ……」


 言葉……。

 アルカディア、ナロード、ソフィア、イカロスだっけ?

 それはおぼえてるんだけど、あの呪文みたいな歌らしいものはよくおぼえてないんだよね。


「あ…あをい……花咲く……なんだっけ?」

青丹あをによし 奈良の都は咲く花の 匂うがごとく 今盛りなり」

 カチカチッと前足で器用にキーを打ちながら、シンザキさんが答えてくれた。

 スクリーンにOKの文字が浮かぶ。

 ほっとした途端、シンザキさんが息を飲んだ。

 疑問に思う間もなく、再びコンピュータが点滅を始める。

 また?!


「どうなったの?」

「馬鹿な。アクセスを拒否してる」

「え?」

 拒否してるって、それじゃぁこの方法は失敗ってこと?

「他に方法は? 何かあるんでしょ、あるよね」

「……」

 シンザキさんは視線を泳がせたまま黙り込んでしまった。代わりにアランさんが口を開く。

「ある」

「本当?!」

「いかん、危険すぎる!」

 シンザキさんが叫んだけど、あたしは食い入るようにアランさんを見た。

 どんな方法なの?

「メイン・コンピュータの周囲に四つのアクセスポイントがある。そこに直接働きかければ」

「アクセスポイント?」

「そうですね、シンザキ」

 シンザキさんはしぶしぶ頷いた。

 つまり、コンピュータの回線は使えないから、直接人の手で操作するってことか。

 でも四箇所もあるなんて……。


「絶対ダメだ、危険すぎる」

 シンザキさんはしつこく繰り返した。

「どんな風に危険だって言うの? 今だって地球が危ないんだよ。これ以上の危険があるの?」

「それは……」

「それともやっぱりメイン・コンピュータに妨害されるってこと?」

「ある意味そうだ」

 ある意味?


「操作は同時に行わなければ意味がない。どうしてもシステムの安全上、ポイントをばらばらにするしかなかったが、時間差で操作しても無効にしかならないんだ」

 つまり四人必要なのね。

「だが、例えポイントにたどり着いて成功したとしても、操作する人間側に大きな影響が出る」

 影響って、記憶をかき回される、あれ……?

 コクっ頷きと肯定される。


 ちょっと考え込んでしまう。

 あたしは、多分大丈夫だと思うんだ。というか、失った記憶が戻っちゃったりしちゃうかもしれないし。

 でもアランさんは……。

 記憶をかき回されて、苦しんで、そしたらどうなっちゃうんだろう?

 あの冷たい瞳の彼が暴走してしまう可能性もあるんじゃないだろうか。

「頭をかき混ぜられ、正常でなどいられなくなる。その時、自分が破壊者になる可能性を否定することなどできんよ」

 シンザキさんの言葉に、のどの奥に何か詰まったように苦しくなる。

 自分が、自分じゃなくなってしまうの?

 助けるつもりが、自分が破壊者になってしまうなんてことが……。


 アランさんを見ると、彼は軽くウィンクしてきた。

「任せろ、大丈夫だ」

 またデジャヴ。


 大丈夫。大丈夫。大丈夫。

 心の中で三回唱えて深呼吸する。


「だが」

「なんとかなるさ、なぁ、マリノちゃん」

 場違いなほど軽い言い方に、あたしは少し笑った。


 大丈夫。

 心の中で、別の誰かの声が聞こえた気がした。


 うんと頷いて、大きく深呼吸して胸を張る。

 今できることをしなきゃ、いつするの? 大丈夫。絶対負けない。

 破壊者になんて、絶対ならない。私には守りたい人がいる。


 でも。

「四人必要なんだよね」

「俺がやる」


「上総、気がついたの?」

 上総はゆっくり立ち上がった。

「話は少し前から聞いてた」

 そしてアランさんの前に立つ。

「一時休戦だ」

 アランさんはその言葉に黙って手を伸ばし、上総のブレスをとった。

 ……ああ、そんなものもあったわね。

 あたしが左手を出すと、アランさんの中指のリングの内側についてる石がふれ、カチリとブレスが外れた。


 その光景を見て、シンザキさんが深々とため息を吐く。

「仕方がないな」

 そう言うとパチパチッといくつかのキーを押し、なにかもごもごというと、シャッと音がして、四枚のコインのようなものが出てきた。そしてあたしたちはそれを一枚ずつ受け取った。

「これはそれぞれのポイントのマスターキーだ。すべての操作がこれ一つで可能となる」

ふーん。

あたしは手の中のコインを見た。

おしゃれな飾り文字で「S」と彫ってある。

 上総は「I」、アランさんが「N」、シンザキさんが「A」だ。

 裏側は半透明になって、小さな青い光が点滅してる。

 これからの手順をシンザキさんが簡単に説明する。

「そして、その光がそれぞれのポイントへ導くようにしておいた。たのんだぞ」

「了解」

あたしたちはうなずくとコインの導きにしたがってそれそれ走りだした。


   ★


 しばらく走ったところでコインの光がすごく強くなった。

 でもまわりは壁ばかりで扉や目印のようなものは何もない。

 うーん、どこかにかくれたボタンとかあるのかな?

 そう思って探したら、壁の一部にコインのデザインと同じもようを見つけた。

 大きさも合いそう。

 前に見た映画では、こうゆう場合、ここにコインをはめ込むと扉が出てきたり……って、本当に出てきたわ。


 想像以上の単純さに思わず悩みかけたけど、うまくいったに越したことはないと考え直して中に入った。


 部屋の中はそんなに広くない。無機質で、イスが一つぽつんとある、一見何もない部屋。

 あたしはイスに座ってコインをさっきと同じような感じではめ込むと、ボンと正面にスクリーンが現れた。その三つに区切られた画面にシンザキさん、アランさん、最後に上総が映った。――上総は扉を見つけるのにてこずったのかな?

 そんなことを思いつつ、手元に現れたキーボードを目にした瞬間、重要なことに気付いた。


 ひぇぇぇ……。 「ソフィア」のスペルがわからない。大体何語? キーはアルファベットだから、SOなんとかってことかな???


『準備完了。キーワードを順にどうぞ』

 ゲッ


 シンザキさんのところに Arkadia の文字が浮かぶ。

 次にアランさんの Narod。

 やーん、次あたしだ。

 えっとえっとSofia? でもちがったら一大事だし……。

 Sだけ押して冷や汗たらしてたら、シンザキさんがスペルを怒鳴ってくれて、どうにか Sophia を入力。あぶなかった。

 そして最後に上総が Ikaros を入力し、ガガガッと作動し始める。これがセットされれば最後の言葉をシンザキさんが入力できるんだけど……。


『アクセスOK。最後のキーをどうぞ』

 そしてANASANIIのスペルがはいる。

 ピッという音の後、あたしは急に脳みそがグラッと大きくゆれたような感じがし、そのままなにがなんだかわからなくなってしまった。

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