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上総が明らかに混乱してる。
ううう、ごめんね。話が下手で。
「メイン・コンピュータを作った本人に聞いたんだから、間違いないよ」
「は?」
「記憶装置って言ってね、人の記憶をコピーすることができる装置があるの。それを使うとメカや動物に記憶を移すことができるのよ」
「マリノ?」
「メイン・コンピュータは二十一世紀にシンザキ博士に作られたもので……」
あたしは上総にシンザキさんを差し出した。
「このコがシンザキさんの記憶を持つ小犬なの」
「こんな時に何言ってるんだよ」
上総が半分怒ってる。
「この娘が言ってることは真実だよ」
カチャっと床に飛び降りて、シンザキさんが言った。
「???」
「私自身が話してるんだよ、青年」
自分の常識を超えた出来事に上総は混乱してたと思うけど、もうお見事というぐらい、それはほとんど外に出てなかった。
上総はまじまじとシンザキさんを見詰め、有無を言わさず説明をはじめるのを黙って聞いてる。
それとも、驚きすぎて反応できなかっただけかも……?
「プログラムを変えて、止めるのか?」
「いや、まずは止める前にアマカーテアをはじめ、地球へ働きかける。この混乱がおさまるように」
「……」
「メインコンピュータは意思を制御する力を持っているからな。働きかけても多少時間はかかるだろうが、必ずできる」
ゆっくりと話すシンザキさんの言葉に、上総は頷いた。
「わかった」
それから、あたし達はシンザキさんに付いて歩き、メインコンピュータから死角に当たるという部屋に入った。そこは彼が生前(?!)作った部屋だそうで、四方八方コンピュータで埋め尽くされている。
「ここでプログラムを変更し、一気にあやつに叩き込むんだ」
シンザキさんはそう言って、部屋の中央奥に進んでいく。
変更プログラムは複雑で、いくつもの作業を同時にこなさなきゃならない。
そんな事をしなくちゃいけないようにプログラムを作り変えた「彼女」って一体なんなんだろう? もともとは人間が作ったものなのに、作った本人以上の能力を自ら作り上げるなんて聞いたこともない。それともあたしが知らないだけで、未来でも機械は自分で勝手に変化してるんだろうか?
もともと意思を持つように作ったのはシンザキさん。
それは彼がプログラムしたもの……つまり、作ったもの、だよね?
それとも、なにか元になる「何か」があってそうなったの?
気になって尋ねてみたかったけど、忙しく動き回るシンザキさんに声をかけることはできなかった。
「おい、そこのボタンを押してくれ」
「あ、はい」
とりあえず自分の疑問は置いとこっと。
すべてが終わってから聞いてもいいよね?
――それにしても、指定されたボタンはあたしが背伸びをしてもまだ高い。
なんだってこんなところにあるのよぉ!
ジャンプすれば届くかな? と思ったとき、すっと後ろから上総がボタンを押してくれた。
「ありがとう」
「俺にできる範囲なら手伝うから」
そう言って、上総はシンザキさんに従う。
小さな小犬に従ってる光景は、客観的に見てちょっと楽しかったりして。
「次はそこの3と5のキー。……ああ、君は右端のパネルを頼む」
パネル?
パネルなんてどこにあるの?
シンザキさんは忙しく駆け回ってて聞けそうにもない感じなのでで、自分で探す――けど、右端にはパネルなんてないのよ。
「これじゃないか?」
ふいに声がして、にゅっと伸びた指がボタンの一つを押すと、なにもなかった壁面にパネルがあらわれた。
「本当だ。ありがとう」
と振り返ってギョッとした。
「あ、あの」
「驚いた顔もなかなかかわいいねぇ」
にやっと笑った顔は、本来ここにはいないはずで……。
「ア、アランさん?!」
なんでー? どうしてー?
泡食ってるあたしの前で、アランさんは上総に向かって「よう」と手を上げた。
「お前、どうしてここに」
上総がギっと睨むと、アランさんは軽く肩をすくめた。
「久しぶりに会った兄に対して、その態度はないんじゃないか」
え? 上総とアランさんが兄弟??
「誰が兄だ」
「同じ親に育てられた仲じゃないか」
「三年だけだろうが」
「ふふん。そうか、俺が十の時までだもんなぁ。かわいかったのにねぇ、お前も」
「ほぉ……。じゃあそのかわいい弟を盾にしたのはどこの誰だったかな」
皮肉をたっぷりこめた上総をよそに、アランさんはくるっと振り向くと、あたしの髪をひと房つまんで一瞬唇に近づけた。
「さあぁ、何のことだか」
白々しく言って、彼はあたしの肩に手を回す。
えーい、何するんだ!
振り仰いでギョッとする。アクアマリンの目がすっと色を変えたような気がした。ううん、実際に色は変わってないはずなんだけど……。
それは、あたたかい春の空が、いきなり氷の海に変わったような感じで……。
「あの日は雪だったな」
ククッと彼が笑った。
「雪上に散る赤い血なんて、綺麗じゃないか? 上総」
そう言ってちらっと視線を動かす。
ゾクッとした。
何? 別人みたい。……それともこれが本当のアラン・ドロンなの?
「俺にはそうゆう趣味はなくてね。雪には嫌悪感しか抱けない」
「トラウマってやつか? 綺麗なのに」
「冗談。死のふちに立たされて、そう思えるやつがいるか」
「いるんじゃないか?」
「て、めぇ……」
殴りかかろうとした上総がぴたりと止まる。アランさんが銃口をあたしに向けたのだ。
「相変わらず甘いねぇ、お前は」
あごを少し上げ、見下すような言い方。
「―――なにが目的なんだ」
「目的?」
物憂げに言って、アランさんはクッと笑った。
「邪魔をしてほしくないだけだ」
カチッと音をたて、あたしの手首に見覚えのあるブレスがつけられた。
「物騒なプレゼントね」
「きれいだろ?」
ため息をつく。
北くんがつけられてたのと同じ物だ。
そして、上総は銃を取り上げられ、同じものをつけられた。
ごめんね、上総。
あたしがこんなだから抵抗できなかった。
でも、不思議なことに、恐怖も不安も感じなかった。
“五才で殺人を行ってた、年若き中尉がアランさんだってことに気がついたけど……。
そして、彼のせいで、幼い上総が死にかけたらしくても。
「半分は目的が同じなんでしょ?」
メイン・コンピュータのプログラムを変える。
アランさんはそのためにいる。
あたしは呆然とするシンザキさんを促した。
そして、目を見開く上総をよそに、あたし達は作業の続きを開始した。




