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し……んとした空気に、あたしはゆっくり顔を上げる。
部屋の中には皆が倒れていた。
どきんと心臓が跳ね上がり、駆け寄ろうとして、よろけて再び座り込む。
「一体……何が起こったの?」
無意識に手に力をこめると、下からキャンと甲高い鳴き声がした。小犬が足元に来ていた。
「あ、ごめん。しっぽ痛かったね?」
小犬の頭をなで、力の入らない足でふらふらと立ち、すぐ近くに倒れている上総のそばにへたり込む。
「上総?」
ポテポテと肩をたたく。
それからポチのほうへズルズルと移動して、同じようにしてみた。
「ポチ……おきて……」
北くん、美来、リックの順で肩をゆすったりしてみたけど、誰もピクリとも動かない。
「どうして?」
奥歯をかみしめる。
「誰か一人くらい起きてくれてもいいでしょう。北くん、美来、いつも人の寝起きが悪いとか言ってるくせに! リック、上総、眠りは浅いって言ってたでしょ?! ポチ、ポチ、ねえ起きてよ!」
うーーー
「ばかぁ!」
叫んで、出そうになった涙をぐいっと拭く。
何が起こったんだか全然わかんない! でも、メイン・コンピュータが原因だってことだけはわかってる。ゲームが終わったら用はないってことなの? ふざけないで、あたしたちは遊びに使われるコマなんかじゃない!!
ダンっと床をたたいて立ち上がる。
どうにか足に力を入れてふんばると、苦々しい声が聞こえた。
「少し落ち着きなさい」
ギョッとして周囲を見渡す。
聞いたことのない男の声……!
「だ、だれ?」
部屋の中にはあたし達のほかは誰もいない――って、え? 部屋?
あらためて周りを見る。
「やだ、ここどこ?」
「すこしは落ち着いたようだな」
またあの声。
カチャ……と音がして、テーブルの上に小犬が飛び乗っていた。
「今の声、ワンちゃん? ……って、まさかね」
自分で言って笑ってしまったら、小犬がふっと笑った。
え?
「私にはワンちゃんではなく、シンザキという名前があるんだがね」
い、犬がしゃべった?!
やっと立ったのに、ぺたんと腰を抜かしてしまう。
なになに、今度は何~~~?!
タンッと小犬(自称シンザキ)がテーブルから飛び降りて、あたしのほうに歩いてくる。
思わずと後ずさりすると、小犬は少し手前で止まって首をかしげるような仕草をした。
「命の恩人に向かって、その態度はないと思うがね」
「は?」
命の恩人?
「あの爆発の中で無傷でいられたのは誰のおかげだと思ってるんだい?」
誰のって……まさか……。
「あなたが、助けてくれたの?」
おずおぞといったら、小犬がにっと笑ったような気がした。
「ねえ、教えて。さっきは一体何が起こったの?」
「教えてもいいが、その前に言うことがあるんじゃないか?」
「え? ああ、ありがとうございます?」
頭を下げていったら、彼は楽しそうに尻尾を振った。
「素直で結構」
なんかこんな状況なのに、馬鹿馬鹿しい気分になってしまいそう……。
「ま、何がおこるかわかっていたのは、そこの小麦色の青年だけだったようだがね」
そう言えば、「撃つな」って叫んでたのはポチだった。
「そこの青年二人が発砲したんで、防御センサーが発動したんだよ。そこで私が君達をここまで避難させたというわけさ」
……?
「あなたが? その小さな体で? くわえて引っ張ってきた……わけないわよね?」
「当たり前だ。空間移動を使ったのさ」
空間移動?
「わんちゃん――もとい、シンザキさん、あなた超能力者?」
素朴な疑問にシンザキさんは頭を抱えた。
仕草だけなら可愛いのに。
「君は、つくづく想像力が貧困だな」
わーるかったわね!
「空間移動や反重力は科学の力だよ」
「反重力?」
「君が穴に飛び込んだときにやっただろう」
あ、もしかしてあの体がふわっとしたやつ……。あれも反重力なの? 学校で習ったのとは違うような。
「でも科学力って言ったって、一体どうやって?」
この体じゃ何らかの装置を使うにしても難しそうだし、第一その「装置」自体どこにも見当たらない。首輪さえしてないんだし。
「私の体に埋め込んだ装置によって、意思だけで操作できるんだよ」
まあ……。
「もっとも、この力にも限りがあるからね。一番近くにいた君が一番無事だったわけだ。ほかの連中は、空間移動のショックでしばらく意識は戻らないだろう。特にその北くんとか言う少年は二回連続だったようだしな。――命に別状はないがね」
「そっか」
ほっと息をついた。
「で、シンザキさん、何が望みなの?」
「ほう、意外に感がいいところもあるんだな」
心底驚いたような言い方に、あたしはクシャッと前髪をかきあげてシンザキさんを上目遣いに見た。
「わかるわよ。あなた、あたしをメイン・コンピュータの所まで連れて行ったでしょ。殺す為ならわざわざ助けたりしないだろうし、なにか目的があるってことでしょ」
「私もあやつら同様、暇つぶしのためだといったら?」
「そりゃもう、感謝を込めて力いっぱい噛み付いてあげるわ!」
「なるほど」
満足そうに彼はクツクツと笑った。
「では遠慮なく用件を言わせてもらおう」
「ええ、どうぞ。でもその前にここがどこなのか教えて」
「ここか? ここは私の部屋だ」
思わずもう一度部屋を見回す。
シンプルだけど、アラン・ドロンとはまた違う趣味の、品のいい調度品でまとめられた広い部屋。
シンザキさんて何者?
「で、用件だが」
「はい」
「まず一つ。メイン・コンピュータを破壊するのは止めてほしい」
「え?」
「そんなことをしたらこの月ごと吹っ飛んでしまう」
つつ……と冷たいものが背中を滑り落ちる。
あ、あたしたちって、すごく恐いことしようとしてたのね。――でも、美来のデータにそんな話はなかったはずなのに……。
「第二に、すべての決着がついたら、私を地球に連れて行ってほしい」
は?
「でも、あたしにそんなこと言われても……」
「もちろん君たちの目的はよくわかっている。そして、あやつを止めない限り、今後地球がどうなるか保障できない」
「――って、どうゆうこと?」
「地球のバランスが崩れ始めてることには気づいてるか?」
あたしは今の地球の状況を思い浮かべた。
「うん……。あちこちで反乱が起こってた」
「反乱ね。――まぁ、それも一例ではあるが……。――君はあのメイン・コンピュータがそもそも何をしているのかわかってるのかい」
「えっと、地球の支配?」
「具体的には?」
うーんと、乏しい知識をかき集める。
「意思の制御……?」
「ご明答」
彼はパタパタと尻尾を振った。
「あやつは本来、人類の平和の象徴として作られたんだよ」
「うそ!?」
「本当さ。作った本人が言うんだから間違いない」
はい??? 今なんて?
ごくんとつばを飲み込んで、二つ浮かんだ疑問の中から二番目の疑問を口に出す。
「シンザキさんて、いま何歳?」
アマカーテア軍は成立して六十八年でしょ。犬の寿命はそんなに長くないはずで……。
「さて、百を超えたあたりで数えるのをやめてしまったからな」
ひゃく~?
「今年は西暦二二五五年、ということは二百三十三歳か」
とゆうことは、えっと二〇二二年生まれ……って、二十一世紀生まれってことじゃない!
猫又ならぬ犬又ってか(そんなのいるのか?)。
いやいや、それより
「あなた、本当は人間でしょ」
ずずっとシンザキさんに詰め寄る。
だって、一つ目の疑問、「犬の姿でコンピュータを作ったの?」は考えたくない。
「さっき、装置が体の中に埋め込んであるって言ったよね。とゆうことは誰かがそうしたんでしょ。シンザキって苗字よね?」
そこまで言ったところで、突然スコーンと頭の中にある答えが現れた。
「え? シンザキって、もしかしてあなたマモル・シンザキ?」
あたしの言葉に彼は驚いたようにあとずさった。




