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北くんが角を曲がると、ほっとしたような声が聞こえた。
「どうしたの?」
ひょこっと顔を出すと、北くんの腕の中に一匹の小犬がいた。
「かっわいい」
北くんから小犬を受け取ってなでる。ポフポフしててやわらかーい。
「どこから来たのかな」
「さぁ。昔誰かが飼ってたペットの子孫かもな。基地の機能は生きてるし、犬が生き延びるにはわけないだろう」
「でも、妙に人懐っこいよ」
「うーん、じゃあやっぱり誰かいるのかな?」
やっぱり?
「誰かいるって思ってたほうが、なんか自然に思え、うわっ」
「北くん?!」
目の前から急に北くんが消えた! じゃなくて、急に穴があいて落ちちゃったのよ!
「北くん、北くん! ねえ大丈夫?! 返事して」
一平方メートルくらいのぽっかりした穴。深さはよくわからない。ぼんやりした光から三、四メートルくらいかなとも思うんだけど。
けっこう深い。
「キャンッ」
小犬が吠えて、はっと振り向くと、壁が迫ってくる!
ほとんど三流映画のノリじゃないのよ!! 他に道はないし。でも……
「北くん、少しでも聞こえてたら、ちょっと移動しててね!」
穴へ叫んで深呼吸。小犬が不安そうにクーンとないた。
「大丈夫。一緒に行こうね」
きゅっと小犬を抱いて、えいっと穴に飛び込む。
血が引くような落下感。思ったより長くてゴクッと息を飲んだ瞬間、体を引っ張られたような感じがし、ふんわりと床に着地していた。
な、何今の。
思わずきょとんとし、それどころじゃないと気づく。北くんを探さなきゃ。
だけど、薄明かりの中必死に捜したけど、北くんはいない。
腕の中で小犬がもぞもぞっとして飛び降りた。
「ワンちゃん?!」
トテトテと走っていってしまうのを慌てて追いかける。
「ワンちゃん、どこに行くの?!」
右、左……まるで道を知ってるみたい。
そしてしばらくたつと、小犬はあたしを待つようにきちんとおすわりをしていた。
「何? この先に何かあるの?」
首をかしげて小窓を覗き込んで、はっと息を飲む。
「これは……」
メイン・コンピュータ……。
言葉を飲み込むと、小窓のあった壁が扉となって大きく開いた。
来いってことなの?
そっと小犬を抱き上げて中に入る。
それは大きくて、昔のSF映画にでも出てきそうなコンピュータ。
これが今地球を治めてるなんて……。
その時、ふわっと淡い光が集まって、人の形を作り出した。
『よく来ましたね』
長い髪をなびかせ、半透明の少女にしか見えないそれは、嬉しそうにそう言った。
『賭けは私の勝ちですわ』
一体なんなの???
目を見開くあたしの前で「彼女」はグニャリゆがみ、今度は男の形になった。
『まぁな。今回はいつもと趣向もかわってたし、色々細工もあったからな』
半透明の「彼」は悔しそうに言った。
『まぁ、負け惜しみを。今回は私が手を出してよいとおっしゃったのはあなたのほうですわよ』
『計算外のことがたくさんあったじゃないか』
『アクシデントがあったほうがゲームはおもしろくてよ』
――それは男になったり女になったりしながら、あたしをよそに楽しそうにしゃべりつづけてる。
このホログラムみたいなものは何なの?
『おい、せっかくのお客さんが呆然としているぞ』
『あらいけない。ごめんなさいね。久々のお客様だというのに、私ったら。ああ、他の人のことでしたらご心配なく。そろそろココにつくはずですわ」
クスクスと楽しそうに笑いながら「彼女」は言った。
「賭け、ってなんのこと?」
『気になります?』
『何、簡単なゲームだ。ここへ最初にたどり着くのが男か女か賭けたんだよ。――まったく、男のほうがずっと多かったのになぁ」
悔しそうにいう彼に対して、「彼女」は楽しそうにオホホと笑った。
『いざとなったら女のほうが強いんですわよ』
『ああ、今度からおぼえておくよ』
「彼女」がいたずらっぽく眉を跳ね上げた。
『次のお客様がみえたようだわ』
その声に振り返ると、そこにはポチと、彼に支えられるようにして北くんが入ってくるところだった。
「ポチ、北くん!」
駆け寄ると、北くんは意識がないみたいだった。
「突然ふってきたんですよ。何か強いショックを受けてたようで意識はありませんが、命に別条はないと思います。外傷もたいしたことはありませんでしたし」
少しほっとする。
でも降って来たって、ポチってばあの穴の下にいたってこと???
『その坊やには悪いことをしたな』
『あなたってば、不器用なくせに空間移動を使おうとしたからですわ』
『いやはやまったくだ。せっかく坊やを一番乗りにさせようとしたのに、手元が狂ってあらぬほうへ飛ばし、かえって損してしまったな。ショックでまだ意識も戻らんようだし。ん? 次の客だ』
すっと開いた壁から、上総、リック、そして美来が入ってきた。
『ようこそ』
彼女が言うと、傍目にもわかるほどリックが驚いた。
『私の言ったことは正しかったでしょう?』
え?
「女神……!」
女神???
『まぁ、女神だなんて』
楽しそうな笑い声を聞きながら、初めてリックと会ったときの言葉を思い出す。
『……女神のような女が現れてさ、『おまえを目覚めさせる四人の人間が、おまえに力になって助けてくれる』って俺の傷を治していったんだ』
じゃあ「彼女」が……?
「どうゆうことだ」
リックが目に混乱を浮かべていった。
「お前は誰なんだ」
「彼女」はぐにゃりと「彼」に変化し、リック達がギョッとする。
『君達はメイン・コンピュータと呼んでくれてるようだがね』
「コンピュータ?!」
「人工頭脳を持ったコンピュータ、ですね」
確認するようなポチの言葉に「彼女」はにっこり微笑んだ。
『うふふ、そのとおり。よくご存知ね』
いくらポチでも、こんな人間くさい、しかも二重人格のコンピュータなんて見たことも聞いたこともないと思うけどね。
これが本当にメイン・コンピュータなら(本人(?)たちが言ってるんだから間違いないんだろうけど)、あたし達はこれを破壊しなきゃいけないわけで……。それを知っててあたし達を呼んだってことなの? そんなことムリだってことで、ただゲームのコマとして動かされたってことなの? あたしたちががんばっても、それは結局彼らに遊ばれていただけにすぎないの?
「俺たちが何をしにきたのか、わかってるのか?」
上総が言った。
『もちろんよ』
「彼女」はあたしの予想通りの反応を見せる。
『地球を画一化するのにも飽きたし、変化のない人生なんてつまらないものよ』
「彼女」はふわふわ浮いたまま座るようなしぐさで片方の膝を抱え、楽しそうに笑った。
グニャリとかわった「彼」はやれやれと言ったようなジェスチャーで両手を上げ頭を振る。
『制御の利かない反乱分子ほど、僕らを楽しませてくれる。いや、実にね』
クスクスクスクス…
「わかってるなら話は早い!」
リックと上総が同時に銃を抜いた。
「撃つな!」
ポチが叫んだ時にはもう遅く、耳を裂くような爆音と風があたし達を襲った。
腕の中の小犬をかばうように、ぎゅっと丸まる。
楽しそうな二人の笑い声だけが、いつまでもこだましていた……。




