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月の本基地には、気味が悪いほど静かに、無事に着いた。
シップを基地内へ入れると、自動的にゲートが開いて、十分もしないうちに空気が満たされる。テーマパークのキャラクター並みにごっつい宇宙服を着なきゃならないのかと思ってたんだけど、ちょっと気が抜ける。
「なんか、いやな感じ」
誰にともなく言ったら、美来が意外だというような顔をした。
「なに?」
「ううん、マリノだったら都合が言いに越したことはないって言うのかと思ったのよ」
あ・の・ねぇ……。
「冗談よ。――でも、気になるわね。なんて表現していいのかわからないけど……まるで何か大きなものに遊ばれてるみたいな感じ……」
遊ばれてる、か。やっぱり美来もそう思うんだ。
なんとなくシップから出るに出られなくなってしまった。
窓から外を眺めてみる。
基地の宙港は明るい光に満たされてて、つくりも優美な感じ。そう、どちらかというと、高級ホテルのロビーを髣髴させるの。さすが大金持ちの「行き過ぎた道楽」。
ここから地球を支配しようとしてたんだよね。人間、金をもちすぎるとろくなことしないって誰かが言ってたけど、まさにその見本て感じだわ。
肩をすくめて振り返る。
「難しいことが多すぎて、あたしの手には負えない。でも、今やらなきゃならないことはわかってるんだもん。遊ばれてるって言うんなら、それでもあたしは一向に構わないよ。ようは自分を信じて、やるべき事をやるだけ。都合がいいに越したことはないよ。――考え方をかえて、誰かがあたし達に協力してるんだと思うとか……。うん、きっとそうだよ! とゆうことで、外にいこう、ね?!」
さっさとリュックを持ってハッチをあける。
うーん、窓越しより実際に見るほうがきれいだなぁ。
トントンとタラップをおり、三段上からぴょんと飛び降りる。
気のせいか想像してたよりも体が軽い。走り回ってたから少しやせたかな?
「人工重力は地球の九十パーセントってところでしょうか。体が軽く感じますね」
あら、そうなんだ。
「もともとは六分の一だっけ。一般には内緒で最新の技術をフルに使ったんだろうな」
ポチの後から下りてきた北くんが言った。
その後すぐに上総が下りてきて、スポーツチームの試合中みたいな、男友達にでもするような感じで、突然クイッとあたしの肩を抱き寄せた。
「おまえって、やっぱり面白い!」
はぁ?
「お前みたいな楽天家、見たことがないよ」
そう言ってくすくす笑い。
うーむ、これってほめられてるのか馬鹿にされてるのか……悩む。
「マリノを見てると、前を見て歩けそうな気がするよ。最高だなぁ、おまえ」
あたしはにっと笑い、何か吹っ切れた感じで満面に笑みを浮かべた上総を引き寄せて、その耳にいたずらめいてささやいた。
「ロティの次に、でしょ?」
「当然」
こっくり頷いて言う上総に、思わず吹き出してしまった。からかう気満々だったのに! クールで照れ屋だと思ってたのに、言ってくれるわね!
「じゃあ、絶対成功させて帰らなくちゃね。結婚式はいつ?」
途端にかぁっと顔を赤くさせて、上総は言葉に詰まった。
ふふ、ちょっとお返しだもーん。
あたしが歩き始めると、リックと美来が上総のところへ来て笑った。
「一本やられたな、上総」
リックが言うと、上総はべっと舌を出した。
「マリノかまうと真幸の反応が面白くて、つい、な。だけど、ああ切り返してくるとわなぁ」
「結婚式って何のこと?」
美来が聞くと、口ごもった上総のかわりにリックが答えた。
「上総とロティのこと、だよな」
「まぁ……」
美来は少し驚いたように目を丸くして、それからにっこり笑った。
「お幸せに」
あたしはその会話を聞いてなかったんだけど、後から聞いて複雑な気持ちになったんだ。でも、それはまた先の話……。
そしてこのとき、あたし達以外の人影があったことに、まだ誰も気づいていなかった。




