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「できるだけリラックスしてね」
宇宙初体験であろうリックと上総に忠告して、自分でもそうできるように努力する。
かなりの旧型(この時代なら多分間違いなく最新なんだろうけど)だから、相当のGを覚悟しているようにと言うポチの忠告を頭に叩き込んでいる。
すべるようにスペースシップがレールを走り、離陸。
ぐっっと体がシートに押し付けられる。
想像以上の圧力と騒音。なんとか苦痛までは行かないけど、それでも髪の毛一筋一筋まで重みがわかるような、なんともいえない感覚。それが突然ふっと軽くなる。Gがほぼゼロになったのだ。
ほうっとあちこちから息が漏れる。
いくら宇宙に出るのが初めてではないとはいえ、あっちとこっちじゃ条件が違うから、かなり緊張したわ。
ふと、いやな予感がして隣を見ると、リックと上総が真っ青になっていた。
「だ、大丈夫?」
「なん……とか……」
――さっそく宇宙酔い?!
アマカーテアの最新機でも、まったくの訓練なしは予想以上に負担をかけてたのかも。
ポチがふわっとこっちへ移動してきた。
「大丈夫、すぐ治りますよ。小一時間もすれば安定したGもできますし」
Gができるっていうのは、シップの回転などによって人工的に作る重力のこと。これだと地球の三分の一程度までしか作れないらしいんだけどね。
リック達は酔ったというより、緊張などによるちょっとしたショック状態になってるということらしい。ちょっと情けないような気が一瞬したけど、適正検査も何もなしにいきなりだったんだから仕方ないんだよね。
あたしはベルトをはずして、軽く床をけって飛び上がる。
あはは、無重力だぁ。二十五世紀のシップじゃ絶対できないことだもん。万博の無重力体験以来だわ。
「きゃぁ、なんか不思議ー」
くるんと体を回転させて天井をけり、美来のほうへ移動する。そして今度は壁をけって北くんのほうへ。北くんが苦笑して腕を捕まえてくれる。
「呑気だな、マリノは」
あたしは笑って、今度はポチのほうへ行こうとし、途中で体勢を崩した。天井に肩をぶつけて一回転し、くずれるようにポチにキャッチされる。
「大丈夫ですか?」
「うん。ありがとう、ポチ」
ポチに笑いかけると、彼は少し瞳に影を落としてクシャッとあたしの髪をなでた。
ああ、やっぱりポチだなぁ……。
そう思って、こてんとポチの肩に額をつけた。
本当はリック達とは別のことでショック状態だった。
ケイの腕の赤があざやかで、アマカーテアの兵たちが傷ついていくことがショックで……。
仲間が勝つことを願い、無事を祈り、そのために相手の兵士達が傷つくことを望んでしまった自分がショックで……。
ガラス越しなのに、怖いくらいのリアルを感じた。
今はそれを振り払おうと、明るく振舞おうとした。でないと押しつぶされてしまいそうだから、前だけ見ようと思った。
でも、ポチにはぜーんぶお見通しなんだよね。
へへっと笑う。ポチがいてくれたら大丈夫。うん、きっとね。
「ありがとう、ポチ」
強くなりたいね。あたし、前にそう言ったことがあったね。
――記憶のパーツが少し戻ったことに、この時のあたしは気づいてなかった……。
★
「オート解除、手動に切り替えます」
操縦はライセンスを持ってるポチ。ナビゲーターは北くん。
下手に邪魔しちゃいけないと、そうっと後ろのほうに行ってみたけど、美来とリックがいたので、ちょっと居心地が悪く困ってしまった。
な~んか微妙な雰囲気。すっごくお互いに気を使ってて。
でも、恋人同士って空気なんだよねぇ。なのに、はっきりさせられない「何か」があるみたいな? あたしたちに気をつかってるのかな? まったく美来ってばいつの間にって感じよねぇ。お似合いだけどさぁ。
こめかみをカリカリとかいて、今度は窓のほうに移動する。
上総があたしに気づいて少し笑う。ちらっと美来たちを見て、あたしに目配せ。
あはっ。上総もあたしと同じなんだわ。
「気分はどう? よくなった?」
「おかげさまで。かっこわるいよなぁ」
上総が苦笑した。
「慣れの問題だよ。初めてなのに、何の準備もしてなかったんだもん。普通は宇宙に出る前にちゃんとテストするんだよ」
「テスト?」
「うん。ごくまれに、体質のあわない人もいるからね。影響が強いから妊婦さんもダメだし……。まぁ、心配はしたけど、上総が妊娠中ってことはないだろうから、もう問題なしよ」
上総が大笑いする。
「そりゃそうだな。でもマリノは変なことよく知ってるな」
「そう?」
首をかしげると、顔を覗き込むように上総が口を開く。
おおっと、至近距離。
「本当はどこから来たんだい?」
まるで、ずっと年のはなれた子供にでも聞くような口調。
思いっきり子ども扱いだなぁ。三歳ぐらいしか違わないはずだけど?
あたしは反撃するように、冗談めいた(自分としては不敵に見えるといいなあなんて思いながら)笑みを浮かべる。
「魔法の国からよ」
「へぇ、じゃあ魔法使いなんだ?」
「まぁね」
答えてから、ふっと心に引っかかる。
――魔法使い?
「じゃあ、魔法使いさんに聞くけど、月までは、後どれくらいかかる?」
「え? えーっと、十六時間ぐらいかな」
「そんなにかかるのかぁ。地球にいると、ふっと月が手に入りそうな錯覚に陥る時があるけど、やっぱり遠いな」
『月に手が届きそうだ』
上総の言葉に反応して、頭の中に誰かの声が響く。――映画か何かのフレーズだったっけ?
優しい男声。
懐かしいのはどうして……?
「マリノ? どうしたんだ、さっきから」
「うん、なんかひっかかってすっきりしないんだ。何か思い出しそうで……思い出せない」
「例の記憶?」
「――よくわかんない」
うーんと唸って頭を振る。
「だめだわ。ほっとく。そのうち思い出すかもしれないし」
肩をすくめる。
考えてもわからないことは気にしないのが一番。
「何か飲もうか?」
軽い食事をして、あたしたちは今後のため、月まで交代で眠ることにした。




