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ん?――ああ、そうか、美来は上総と初対面なんだっけ。
「美来、この人が上総だよ。今は事情があって女装してるけどね」
あたしの声が聞こえたんだかどうだか。
美来は呆然としてもう一度「上総?」と言った。
上総は怪訝な顔をしつつも、気を取り直して笑ってみせる。そこで美来も我に帰ったらしい。
変な美来。
「嬢ちゃんの言うとおりだな」
参ったというように頭を振りながらダンが言った。
「俺は何をしてたんだって感じだよ、まったく。『でっかいなり』してガキくせえことしちまったな」
「あ、ごめんなさい! えっと、その」
きゃあ、勢いにのって、あたしってば失礼なこと言っちゃったよぉ。
「いや、別に謝る必要なんかないさ。な、レット」
「ああ。たしかにどうかしてた」
そうやってにっこりされるとかえって恐縮してしまう。
チラッと北くんを見ると、隣の部屋に行ってしまうところだった。どうしよう、怒ったのかな。
追いかけようとして、ポチに腕をつかまれた。
「大丈夫、一人にしておきましょう」
「でも……」
「一人で考えることも、時には必要なものです」
「―――わかった」
こくっと頷いて手をはなしてもらうと、あたしは美来の隣に腰をおろした。
それを合図にしたように皆も座る。
アルテミスの二人は何事もなかったかのように、相変わらずすごい勢いで仕事をこなしていってて、彼女達の強さにあたしは内心舌を巻いた。ガーティは自己嫌悪の色を瞳に映しながらも、彼女達を手伝い始めた。
「気を取り直してはじめよう」
レットの声を合図に、美来が報告をはじめる。
「まず、結論から言って、妙なのよ。私たち、あまりに運がよすぎるのよね。いいのが悪いってわけじゃないんだけど、ちょっと……ううん、かなり引っかかるのよ。何か見えない意志が働いてるみたいで……。まあ、それはともかく、これを見て」
ヴィンと音がして机上画面に月が映る。そこの一点にかなり大きいと思われるドームがあった。
「これがアマカーテア本部よ」
ドームをさして美来が言うと、ダンが
「ここをたたけばいいんだな」
と言い、ポチは首をかしげた。
「きっと、そこをたたいても無駄でしょう」
「だって、月をたたくって、まさか月ごとぶっ壊さなきゃならないわけじゃ、ないよな?」
「ええ、そうゆう意味ではなく、ここは表面上の本部ということです。ね、美来さん」
「そのとおりよ、ポチ。よく知ってるわね」
ポチは優しく美来に笑いかけ、あたしはなぜか少しだけむっとしてしまった。
「元々アマカーテアクラブというのは、地球を支配しようとするのと同時に、宇宙にも目を向けていたんです。その莫大な財産を引き継いで軍として月の表に基地をたて、そこを本部にしているということになってますが、真の中枢部は月の裏側にあり、そこをたたかなくては無意味なんです」
「カモフラージュってわけか」
「まぁ、それもあるでしょう」
ふうん、そうなんだ。
それに、このドームに攻撃しかけたら、ここの居住区にいるはずの一般の人も巻き込まれちゃうわけだよね。なら、そうならずに済むほうがいいに決まってるし……。
「とにかく、詳しく説明してる暇はないの。月へのシップが出発準備をはじめたわ。もうロムステルも搭乗準備にかかってるって」
「残り時間は?」
「一時間半」
一時間半て……。
「かなりまずいんじゃないの、それって!?」
あたしが叫ぶと、美来が難しい顔をした。
「それに、私たちにとってはもっと……。ねェマリノ、ちょっとこれやってみて」
美来は私を手招きした。
月の測定でもしろというのかしら?
あたしは美来の座っていた位置に移動して、言われるがままキーボードを打ってみた。
月。ドームがあって、はい、裏側にいってみようね。えっと、月の基地はっと……ああ、半地下構造なんだ……。でもって、あ、あれ?
「美来、これ故障?」
美来は首を振って、そのまま続けてといった。
んーと、これを入力すると、おお、基地の見取り図だ! で、多分メインコンピュータは中央部に……あれ?
「何これ」
思わずつぶやいてデータを打ち出していく。
あれ、これってさっき私が出しちゃったデータだ。
ごちゃごちゃの数式データ。これがこうなってこっちに代入でしょ。でもって……あ、公式が思い出せない。
「貸して」
いつの間に戻ってきていたのか、北くんがあたしに代わって数字やアルファベットを打ち出していく。さすが理系。
感心して、はっと気付く。
さっきのこと謝らなくちゃ。
「あの、北くん」
「ちょっと黙って」
スパッとさえぎられてしまい、あたしは少し困った。
一度謝り損ねると、絶対謝れなくなっちゃうのよね。タイミングがつかめなくて。
小さくため息をつく。
おまけに北くん自身、あたしに謝らせてくれないつもりみたいだし。
北くんは結構プライドが高いから、時々付き合い方がすごく難しくなる。自分の弱さをみせたくないってゆうのが、ありありとわかるんだよね。意地っ張り!
謝らせてもらえないのってこっちとしても気分悪いし、「なんのこと?」なんてにっこりされると傷ついた気分になってしまう。
北くんも美来もかなりの意地っ張りだからなぁ。そんなところも好きなんだけどね……。
ピッと音がして、机上画面にダーっと文字があふれる。
そしてそれを見て、あたしは予想が当たったと思うと同時に、妙に現実味に欠けた気分を味わっていた。
北くんや美来も同じみたい。
でも、これってどう説明すればいいの?
「何がわかったんだ」
データをのぞき込み、全っ然わけわかんねーぞとダンが言った。
「――あー、うん。とりあえず、俺とマリノ、美来、ポチは月へ行くべきみたいだ」
「は?」
「いや、君達にこれ以上危険な……」
言い掛けたレットを美来が制する。行かなくてはいけないの、と。
多分あたし達を地球に残していくつもりだったらしいレットは、いくぶん焦ったようだけど、仕方がない。だって、このチャンスを逃したら「未来」に帰れないかもしれないんだから。
理論上、ほぼ無理だって言われているタイムワープの「ひずみ」が月にできてるんだもん。
ちょっと失礼と、四人で隣の部屋に移動する。
思いがけなく発見してしまったことの大きさに、北くんと美来は少し興奮気味で、ポチは珍しく難しい顔をしてチラッとあたしを見た。
あたしはといえば、何か重要なことを思い出しそうで、でも思い出せなくてすっきりしない。
「世界的な、ううん、宇宙的な大発見だよね、これって!」
美来が頬を紅潮させて言った。
「偶然できたんだろうけど、でも、理論上ムリだって言われてるタイムマシンも夢じゃなくなるんじゃないか」
そう……。いくら科学が発達しても、タイムマシンだけはできないって言われている。
ただ例外はあって、タイムワープっていうのはあるらしい。昔、神隠しとかって言われていたことの一部、時と空間がゆがむこと。それも99.999....パーセントおとぎばなしだってことだけど、実際時を飛んでしまった身としては、信じざるをえないよね。
――でも、本当にタイムマシンはできなかったの?
「どうしたの、マリノ。珍しくシリアスな顔しちゃって」
「え? あ、なんでもない。ちょっとぼーっとしちゃっただけ」
「そう?」
「うん、ごめん」
美来は首を傾げてあたしの目を覗き込んだけど、話を続けることに決めたらしい。
「ただこの問題は、きちんと二百年後に行けるかってことよね」
「下手すると、まったく別の時代か」
思わずぞっとする。
「その点は心配しなくても大丈夫ですよ」
ポチは何かを振り切るように笑って頷いた。
「だから今は月に行くことを考えましょう。時間がありません」
「そうね。発見のことより、まずは行くほうが先だわ」
そうしてみんなのところにもどり、超特急で大まかなプロジェクトを立てる。
後は野となれ山となれ、行き当たりばったりの究極のプロジェクトスタートよ!!




