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ポチの話をまとめてっみると――
あの兵士のナンパにのって情報を取ろうとしたポチは、予定外の爆発に慌ててあたしを救出しに来た。その混乱の中でドロン氏にあたしを頼んだポチは(色目でもつかったのかしらね?)、もう一度第4セクションに戻って、先に気になっていた、あの時あたしが偶然出しちゃったデータを手近なメモリーディスクに写そうとしたんだけど、どうもそれもすでにメイン・ディスクが抜き取られていたらしい。ただ、よほど慌てていたのか、バックアップシステムを解除してなくて、そのおかげでかろうじて取ることができたんだって。(同じデータに目をつけたってことは、あの部屋にいた誰かってこと?)
でも、あのデータを出してしまったのは偶然だったから、最初から計画してたわけじゃないってことだよね。
でもって、そのデータをもったポチは、とにかく女装しているのをいいことにアルテミスの一人になりすまし、とにかく情報をあつめに駆け回っていたそうで……。
★
改めて、しみじみ思う――ポチって、よくわかんないけど……すごいわ。
ポチに感心しつつ、あたしたちはアルテミスのセクションに向かった。
途中で兵士に会った時はさすがにひやっとしたけど、ポチが新しく用意したリック達のIDカードで事なきをえた。北くんに関しては、万事休す?! って思ったけど、ポチが何か兵士にささやき、あたしと上総はひたすら愛想よく笑ってた(上総はアメの効果が切れちゃったから声を出せないのよ)からかどうかはわからないけど、兵士はにっこり笑って行ってしまった。
きっと、緊張した状況の中で可愛い女の子を見たからよね。うん、そう思っておこう。
で、アマカーテアの禁止区、アルテミスのセクションに戻ってきて、あたしは思わず目をこすってしまった。
だって、さっきと同じ場所とは思えなかったんだもん。まるでホテルのサロンから宇宙船のコックピットに来ちゃったみたいだわ。
そこで、三人の女性が真剣にコンピュータと向きあってる。
中央には円卓型のホログラファーがおかれ、四方の壁にもぎっしりコンピューターがおかれている。
「マリノ! 真幸!」
そう言って、一人の女の子が飛びついてきた。
「美来!!」
え? え? なんで美来がここにいるの? でもって、なんでコンピュータをカシャカシャやってるの???
パニック状態のあたしを見て、美来はいたずらっぽく笑った。
「他のセクションでコンピュータ使ってたら、ポチが迎えにきてくれたのよ」
びっくりしてポチを見ると
「連絡があったので、すぐ近くにいた私が迎えにいったんですよ」
近くって……大体なんで美来が基地内に? それに…え? ちょっとまって。あたし、一体どれくらい気を失っていたの?
不安になって聞いてみると、大体二時間ちょっとぐらいだということだった。それにしたって進行が早いよねぇ……。
しみじみ感心していると、レットが口を切った。
「答えは出てるんだろう?」
疑問というより、当たり前のことを確認してるって感じ。
途端、美来は真面目な顔をして頷いた。
――ってことは、さっきレットが言ってた彼女って、セーラじゃなくて美来のことなの?
じゃあ、セーラは?
えっと、脱出班と一緒ってことはないはず……。
まさかあの爆発で?!
さっと血の気が引いていくのがわかる。
ポチに聞いてみようとして思いとどまる。
レットの前で下手なことはいえない。
それにガーティは?
この部屋にアルテミスは二人しか残っていない。これははじめからの計画。この二人がアルテミス内部の仕事を一手に請け負ってるわけで、計画の経過のチェックなんかもしている。
その二人を見てホッと息をついた。セーラに何かあったら、ここに連絡が入るはずだもの。落ち着いて何も言わないってことは、何も困ったことは起きてないんだよね?
でも、いやな予感がする。
その時、シャッと音がしてガーティが入って来た。
心なしか顔色が悪い。
「お帰りなさい、ガーティ」
聞きたいことがたくさんあるのに、あたしはそれだけしか口にできなかった。
ガーティ……だよね。別人じゃないよね。
そう思ってしまうほど、彼女の雰囲気が違っていた。
「レット……」
ガーティがレットを見つけてハッとし、絞り出すような声で言った。
それは再会を喜んでるようには見えなくて、ガーティが戻って一瞬嬉しそうにした皆は戸惑ったようだった。
「セーラが……」
「セーラが?」
「セーラがロムステルに呼ばれたわ…!」
「計画がばれたの?!」
ガーティはかすかに頭を左右に振った。
「こっちの作戦に問題はないわ。ただ……」
ガーティがうつむくと、北くんが息を飲むのがわかった。
「俺の、せい……?」
ガーティははっと顔を上げ、何か叫ぶように口を開きかけ、やめた。
「多分、セーラは月へ連れて行かれるのでしょう。真幸君のかわりに。そうですね、ガーティ」
ポチが静かに言うと、彼女はコクンと頷いた。
「俺……そんな……」
北くんが苦しそうな顔をする。
それを救おうとするように、ポチはやさしく北くんに言った。
「真幸君が自分を責める必要はありません。それにおそらく、セーラははじめからそうするつもりだったんでしょうから」
「でも、どうして月へ?」
「アマカーテアの地球支配のためか?」
ダンが皮肉気に言った。
それって彼女の頭脳が必要ってこと?
「いくら連れて行ったところで、セーラがしたがうわけがない」
「だが、逆らえば死が訪れるだけだ」
「ダン?!」
ダンは顔をゆがませた。
「多分、彼女は死を選ぶよ……」
「俺が脱出したから……」
「あなたのせいではないし、あなたのことは最初から脱出させる予定だったわ。あなたが自力で脱出したのは、むしろよかったことよ」
ガーティが悲鳴に似た声で言った。
「セーラは無駄死にはしないさ。――おそらく相討ち。もしくは相当の打撃を与える覚悟があるんだろう」
「レット?!」
皆がだんだんヒステリックになっていくのを、あたしは黙ってみていた。
でも、どうしてもむかむかしてくる。それは他でもない、北くんやガーティ達に対してだった。
ムカムカする、頭に来る。
あー、もうがまんできない!
「いい加減にして!!」
自分でも驚くようなどすの利いた大きな声が出て、瞬間水を打ったように静かになり、皆が唖然としてあたしに注目した。
その目に一瞬ひるむけど、引き下がらないから!
「何よ、みんなでオロオロして!! あんたたちがここでヒステリー起こしたって不毛よ、不毛! わかってるの? 自分達が何をしてるのか。自分を責めて楽しい? セーラは死を選ぶ? はっ、笑わせないでよ。そりゃね、もしかしたらセーラはアマカーテアと刺し違える覚悟をしてるかもしれないわ。でも、だからといって、ここでごちゃごちゃやってていいの? 見なさいよ、彼女達を」
あたしはアルテミスの二人と、いつのまにか再びコンピュータにもどってにらめっこしてる美来を指差した。彼女達ははたから見ても真剣だった。
「ここで騒いだら、彼女達の集中力を乱すことにしかならないんだよ。セーラが身をもって成功させようとしていることをここで邪魔する気? レット、アルフレット・シュナイダー! しっかりしてよ。あなたそんなに弱気じゃリーダーなんて失格よ!! ダニエル・ストレール、大きななりしてネガティブなことばかりいわないで。北真幸、あなたはもっとしっかりしてるはずでしょ。すぐに自分を責めるのは悪い癖だよ。責める前にどうすればいい方向に迎えるのか考えて! 反省は時と場合によって後回しよ、あ・と・ま・わ・し!」
はぁはぁ。
大きな声を張り上げたことと、人を怒鳴りつけたことで心臓がバクバクして目が回りそうだ。
北くんが唖然とした顔をしている。
クスッと笑って、ポチがあたしの頭をぽんぽんと軽くなでる。それであたしは少し落ち着いて軽く深呼吸をして、少しだけ笑顔になった。
「だからね、こうなったからにはやることは一つよ。セーラが月に行くのを阻止して、あたし達が月に乗り込むの。月に行くことはもう決めてるんでしょう、レット。だったら問題ないよ。それにセーラ救出を加えるだけ」
「賛成です」
くすくす笑いながらポチがいった。ひたすら黙ってた上総も同意してくれる。
「ありがとう、上総」
あたしがお礼を言うと、美来がはっとして振り向いた。
「上総?」
きょとんと美来が上総を見つめる。それからキョロキョロと周りを見て、もう一度上総を見た。




