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「はぁ、アラン・ドロン……ね」
一転、お茶らけた態度に戸惑ってしまう。
あ、なんだ。雰囲気が違ってて気がつかなかったけど、この人ってさっきポチをナンパした人じゃない?!
「あの、ポチ……さっきお茶に誘って連れて行った人は? 大丈夫なの?」
「……その前にお前の名前は?」
「マリノ! ねぇ、ポチは無事だよね!?」
「ああ、もちろん、ぴんぴんしてる。……彼女、ポチって言うのか」
うっ……
「聞いても教えてくれなかったんだよね。ま、そこも魅力なんだけど。ふーん、ポチか」
「えっと、それは……」
「ポチ……かわいい……か。うん、なかなか。名は体をあらわすってか」
は?
「あ、知らない? ポチってかわいいって意味なんだぜ」
えー、そうだったのー? 知らなかった!
「彼女は無事だよ。俺がついてるんだぜ。俺がついてて女に怪我をさせるなんざ、モットーに反するからな」
こ、この人ってもしかして、というかもしかしなくても古い言葉でプレイボーイとかってやつ?
「まぁ、彼女の場合は、あまり心配はいらなかったみたいだが」
アラン・ドロンはブツブツ言いながら、空になったコップをサイドテーブルにおいた。
そしてあたしの顔を覗き込むように見た。その目がなんだかすごく冷たくて、えーん、この人怖い。
「お前、化粧してたんだな」
「えっ?!」
アラン・ドロンはニッと笑って
「素顔のほうがかわいいぞ、うん」
あたしはあせってテーブルに置いてあった鏡に飛びついた。
うわー、きれいさっぱり素顔だ! ど、どうしよう。
「素顔でいろよ。そのほうがかわいいぞ」
メイクしなおすにも、あんな変装自分一人じゃできないし、可愛いと言われた手前、
「そ、そうかな」
と、へらへら笑っててしまう。――ま、いいか。
「ところでさっきは一体何が起こったの?」
かなり気分がよくなったので身を起こしながら聞くと、
「さあ、誰かがミスでもしたんじゃないか?」
――い、いいかげんだなぁ。
「顔色もよくなったし、もう大丈夫だろう。帰れるか?」
「え? あ、うん」
立ち上がって深呼吸。別にクラクラしないし、大丈夫みたい。
「送ってやりたいところだが、仕事があるんでね」
「大丈夫、ちゃんと帰れます。――ありがとう」
あたしはぺこっと頭を下げて、その部屋を出た。
☆
「出てきていいぞ」
マリノが出て行った後、アラン・ドロンが声をかけると、奥のドアから一つの影が出てきた。
「例のものはとってきたんだろ」
影はコクリと頷く。そしてポケットから小さなメモリーチップを取り出した。ドロンはそれを受け取り、明かりに透かしてみてから、カフスの中にしまいこんだ。
「帰っていいぜ。あんまりココにいるとまずいだろ。――ん? 何か言いたそうだな。心配してるのか? 大丈夫だって。そんなへまはしねえよ」
「でも……」
「なんだよ。ああ、さっきの女の子とか? あれも心配ないって。何で助けたかって? 別に俺が……いやいや、そんなことはどうでもいい。とにかく大丈夫。――そんな顔するなよ。可愛い顔が台無しだ」
アラン・ドロンはその女の頬に唇を軽く押し当てると、彼女を外に追い出した。そしてドカッとイスに腰をおろすと深く息をつく。
「――悪いな。時間がないんだよ」
それから、思い出したようにククッと笑いを漏らす。
爆発が起こったとき、彼女――ポチがさっと青ざめて、どこで起こったのかと聞いてきた。多分、第4辺りだろうといったら、あっという間に爆走してって、あの女……マリノって言ったっけ……を抱きかかえてきた。女のくせにえらいバカ力だとは思ったが。
そこまでして守る価値のある子だとも思えんがね。
よろしく頼まれてしまったから、ついつれてきてしまったけど、あの後、ポチはどこにいったんでしょうかね。変わった女。
「さて、データを解読しなくちゃな」
ぴんと指先でカフスをはじいた。
「偶然とはいえ、あんなデータをはじき出してくれたんだ。感謝してしまうね」
ククッと笑うと、デスクのボタンを押し、一見業務用のコンピュータを出す。そして彼がイスに座ったとたん、目の色がすっと変わる。そこには冷たい人形のような男がいるだけ。
部屋中をロックし、部屋を暗くすると、コンピュータの上に光があふれ、徐々に形を作り出していく。それにカフス内のデータを加え、完全な形を作る。
画面中央にスウッと文字が浮かび上がり、男は満足そうに、しかし皮肉な笑みをもらす。
画面の一番下に出たそれは、「アナサニイ」と記されていた。




