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yuko
「じゃ、そろそろね」
セーラの一声で部屋の空気が変わった。みんなぴしっというカンジに緊張するのがわかる。
「武器をチェックして。それと妨害されない無線機です。注意して。使っていることがばれると入手経路と言う点からココが危なくなるわ。これはいざと言う時は爆弾にもできます」
無線機はかなり小さなものだった。
ドレスの内側に止めておく。その時何かを思い出しかけた。……なんだっけ? ま、いいか。その内思い出すわ。
ドレスの内側から銃を取り出してみる。
チェックって言ってもどうすればいいわけ? エネルギーは入ってるし……。予備用のエネルギーパックも持ったし。
ポチも上総も自分のほうで手一杯みたいだ。
私たちが一番先にココを出るので、セーラも他の人たちに色々指示を与えてると言うか。要するにてきぱきと命令を下しているカンジ。あと一緒に行くのは……
いつのまにかケイがすぐそばまできていた。
「貸してごらん。俺こうゆうの得意なんだ」
私が手に持っていた銃を取り、さっさとガチャガチャやっている。
さっきまでガーティに話し掛けてたはずだけど。
ガーティはというと、いかにも手馴れたカンジで、銃やら爆弾無線機(!)やら他にも武器を扱っている。ちょっと意外。でも、きりっときまっててなかなかカッコイイ。
ははぁ、さては……。
すぐ隣で嬉しそうに銃をひっくり返してるケイを見ながら思った。
さっきもこの手でガーティに声をかけて”けっこうよ”なーんて言われちゃったんだわ、きっと。ぷくくく。
なーんて思ってることも知らないで、ケイはあたしに安定した銃の持ち方、さっきの無線機の扱い方なんてのを教えてくれた。
それから数分後、あたしたちはBブロック第4セクションへと向かっていた。
セーラを筆頭に、大柄な美女二人、可愛い女の子二人、最後が監視(?)のおにーさん――これはもちろんケイ。
ふと思いついて、あたしはガーティに声をかけた。
「ね、ケイが今着てるのって軍服でしょ? 前着てたのって何? 軍服じゃないの?」
「あれは軍服といっても礼服と言うものなの」
礼服って言うのは、儀式なんかの時にしか着ないんだそうで、しかも普通の兵士は持ってないんだって。
「戦争などで手柄を立てたときなどに与えられるものなんだけど、それがすごいんだって。地位や実績だけじゃなくて、家柄とかも条件にされてるんですって。大昔のどこかの王族の血を引いてるとかって」
確かになんかすごそう。
それで、礼服ひとつで「おれたちエライー」とか思ってんのかしら? そういえば、身分差別もかなりあったみたいだし。自由平等平和大好き主義者のあたしとしては、それはちょっと悲しい現実だった。
side★Masayuki
真幸は座っていた。
足を投げ出し、ゆったりと壁にもたれかかっている。そして微動だにしない。
もうずいぶん長いことそうしてるような気がしてきた。
何せさっきまで必死で走っていたのだ。かなり疲れていた。一休みってやつか。
口の端がちょっと笑う。
もちろん足を止めたのは疲労のせいではなかった。ここは通気孔である。これの存在に気がついたときは正直驚いた。これじゃ歴史物冒険映画だよ。ちょっと身をかがめるだけで人間一人が楽々通れる。しかも“無防備”な通路を軍事基地なんかに堂々と作ってあるなんて、ちょっと考えられないことだった。
実際、ココに来るまではスパイものに都合がいいからでっち上げてるもんだとばかり思っていたのだ。
感心しながらも、とにかくどんどん進んでいくと、突然格子にぶち当たった。
ボソボソとした低い話し声が聞こえてきて、光が差し込んできた。
音を立ててはいけない! というわけで、動くに動けなくなってしまったのだ。
心配なのはマリノ達の事だった。
予定では自分を救出に向かっているはずだったが、当の本人はこんなトコにいる。かといってノコノコ月に行くわけにもいかない。
地球からでなければ火星に帰ることはできないだろう。なんせタイムスリップなんてしてるんだから……。
早くどっか行けよーっっ。
じっとしているのにもいい加減うんざりしてきた。
マリノ達はどう考えてもとっくの昔に救出に来ていていいはずだった。――無論、この時点で真幸は彼らの数々の寄り道を知らなかったのだ――おそらく何かあって来られなくなった、とすると……。
自力で脱出するしかないってか、やっぱり。
その時、聞き覚えのある声が格子越しに飛び込んできた。
「リック、おい、返事しろってば!」
レットの声だ!
真幸はすばやく格子にひっついた。
「なんだって壊れるんだよ? 妨害じゃねーよな、これ、わりと苦労して調達してきた新型の……」
「レット、レット!」
「ん? ダン、突然若返った声だすなよ」
「俺じゃない、俺は今しゃべってたんだぞ」
「じゃ誰だってんだよ? 俺じゃない……」
上のほうから笑いをかみ殺した真幸の声が振ってきた。
「ここだよ、ここ。通気孔。俺だよ、真幸だよ」
ダンは真幸を下に降ろすのを手伝ってやると、呆れたように言った。
「さて、一体全体、あんなところで何してたんだい?」
真幸は半ばほっとしたカオでにこやかに答えた。
「行きがかり上やむをえなくてね」
side★Lee
リーが部屋に入っていくとセーラ達はすでにいなかった。
「あらー。結構似合うじゃないの」
「いかにも使者って感じよね」
リーはケイの着ていた礼服に着替えていた。無造作だった髪もきれいに撫で付けられている。
「やっぱりあなたには、ちょっと大きめだったようね」
ズボンのすそは内側に折り返してとめてあるが、上衣のほうはどうしてもぶかぶかになってしまう。
軍服よりもやや色が濃い。所々に浮き彫りのように模様が浮かび上がっていて素材もぐっと高級なものであることに着てみてはじめて気がついた。
礼服、だったのか。
「さ、メイク急いで。その間にこれからのことを説明するわね」
セーラの代役らしい女性が図面を広げた。
「ここが第4セクション。一番手が乗り込んだ頭脳集団の仕事場。マサユキもロムもこのセクションね。そっちのほうは彼女達に任せることになるわ」
「真っ先に頭から奇襲しようってわけ?」
「頭イイのね。でも違うのよ。最終的にはそうなるかもしれないけど、今のところは混乱が目的。五人ほど脱出ルートの確保に出るけど、これは体が弱い人とかまだ闘うには若すぎる人ばかりです。あなたにははじめこの人たちのフォローをしてもらいたいの。兵士達の目を逃れてうまく指定の場所につけるまで。その後はその都度決めることになりそうだわ」
そう言うと彼女は爆弾にもなるという無線機をリーに渡した。服が大きいので物を隠すには便利だ。
「ひとつ聞いていいかな? どうして俺だと正規兵をごまかせるわけ?」
彼女はちょっと考えて、意味ありげに微笑を浮かべると言った。
「今、月から“使者”が来てるのよ。知らなかったでしょうけど、彼らは皆礼服姿の十才から十二才の少年たちなのよ」
「俺は十四だ」
リーはちょっとむくれた。
「そうね。でもきっと大丈夫よ」
side★Marino
ロムステル副総帥がなにやらしゃべってる。
いい加減、飽きてきちゃってあくびが出そうになるのを、あわてて口に手を当ててくしゃみの真似でごまかした。変装してるとはいえ、注目を浴びるのは避けたいわ。
そおっと隣を見てみると、ガーティはまるで気がつかない様子でぼんやりしている。
どうしたのかな? やっぱり退屈してるのよね、きっと。
目を上げると、ケイが壁際に立っているのが見えた。なんだかすごく怖い眼でロムおじさんのヴィジョンを睨んでいる。うんうん、わかるよー。早く終わりにしなさいよって言いたくなっちゃうよね。まーったく。
次のあくびが出そうになったとき、やっと話が終わった。
要するにガルディアを潰す方法考えてよーってことでしょ。自分で考えればー?
さて、この週一の仕事って言うのは、この先一週間の仕事の方針を決める、というもの。といっても、かなり大まかなことしか触れられない。しかも一人一人に配られる資料が全て違う分野、という慎重さ。
私のところにはアメリカの地図に兵力の分布を示すもの。
地図ならともかく分布って言われても。相対値がどーのこーの。能率比がどーのこーの。
まるっきり訳がわからない。兵力ってコトは、当然戦略を考えろってコトよねぇ……。
しょうがない。キーボードを適当にたたいて、真剣にやってるフリをする。
画面から目を上げると、ポチもちょうどこちらに目を向けたところで、あたしに気がつくとニコッと笑ってみせる。“美女”でも笑顔はポチのまんまだ。
地図に目を戻すと、アマカーテアとガルディアの境界線が拡大してあった。お互いにその辺りの警戒はすごい。新たにいくつかの部隊が派遣してあるというマークもついている。
でもこんなに正面きって戦争したってお互いに被害が大きくなるだけじゃないかな? 思いきって最北の湖の方からなんてどうかな――。
画面を北に移動させると、あら、わりと兵力は弱いんだ。――といっても、あたしが読み取れるのは部隊数から兵隊の人数ぐらいなんだけど。それはともかくガルディアにもこの程度の資料はあるはずで……。よし、これだっ。忘れないうちにコンピュータに打ち込んでおこうっと。――やれやれ、考えるってのも楽じゃないなぁ。あ、セーラが来る。
「ココの部分なんだけど…」
目の前に置かれた紙には、“麻薬常習者の推移と密輸入ルート”。
はぁー? どうしてそんなののガルディアの資料なんかアマカーテアが持ってるのかしら? 意味ないと思うけど……ん? ちがうの?
画面からプリントの下に殴り書きがあった。
“真面目にお仕事しちゃダメ。いい加減にやって”
あ、そうか。軽く頷く。
「ね、ここの湖だけど、船はあるの?」
セーラはキーボードを軽くたたいて、資料を出してくれると、足早に行ってしまった。
ほどなくあたしは、中央コンピュータの前の男の人に呼ばれた。
「この案は……“正面はこのまま。湖から見かけだけ大げさな第一。南から一気に行く”これじゃ訳がわからない。詳しく言ってみろ」
あ、なーんだ。遊んでるのがばれたんじゃなかったのか。よかったぁー。
「おい、聞いてるのか?」
「え? はいはい、もっちろん。ええと…正面からは睨みあったままにしておくんです。向こうからはまず手を出してきませんよね? で、実はそれは見せ掛けで、主力部隊はミシガン湖からガルディア内に侵入する。と思わせるわけです。工業都市が多いわけですから、軍需工場が目的かもしれない。ガルディア側はこぞって北へ向かうでしょう。そこで南のほうから一気に攻めれば……」
「それはいい案だと思いますわ。反乱に大部分の勢力がいってるとはいえ、ガルディア側もこちらの動きは予期しているでしょう。最終的にこちらに向かうことになるのは、半分弱くらいでしょうから、見掛けだけでも大きな艦隊を見たら総がかりで倒そうとするはずです。見せかけ作戦は、かなり成功率が高いですわ。二重のフェイントですし」
いつのまにか来ていたセーラが懸命にまくし立てると、男はだんだん乗せられてしまっている。
隣のディスプレイをみると、新しい案が入ってきてる。“食料自給率の低さにつけこんで、都市を篭城状態に陥らせるのが手っ取り早い。豊かな生活に慣れてるから、きっとすぐにつぶれて……”。
コンピュータのナンバーを見るとポチだ。何これー。それにしても、この文章からしてポチのところにあるのは、“一般市民の生活水準”かなんかの資料らしい。どうしてそんな資料から、その国を潰す案なんて見つかるんだろう? ちょーっと変だわ。
さっきのセーラの麻薬のなんたらってのも変だよねぇ? うーん、ま、いいか。
それにしてもセーラってばなんでこんなに力説してるのかしら? ミシガンには軍事用の船はほとんどないから、作るか海から持ってくるかっだし、あまり北に南にばらしておいたら、かえって危険になる場合もあるかもしれないのだ。いくらなんでもセーラまで変って事は……。
気がつくと、セーラがやっと口を閉じたらしい。くるっと振り返るとあたしを促して席に戻ろうとした。
「あ、ちょっともうひとつ。“今回の新たな部隊の派遣は保留”とはどうゆうわけで?」
「さっきの案ですと、正面は目くらましですから、今くらいの規模で十分って事です」
ちょっと歩き出してから、セーラが軽くウインクしていった。
「あなたなかなかやるのね! あの案はすごくいいわ」
やっとわかった。わざとだったのだ。なーるほど。それは確かにいいかもしれない。




