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yuko
「ね。その声どうにかしたほうがいいんじゃない? あ、上総もだけど」
「そうかー。どうしましょうねー」
「あらー、わたしは大丈夫よ」
なんなのこの反応はっっ
上総、イメージが……あーでも2人とも美人!……じゃなくて……
「“かわりあめ”でもあればいいんだけど」
「あれ? リュックに入ってませんでした?」
ポチ~ッ何でそんなもの入れてるのよっっっと思いつつリュックをガサゴソ。
「あったー! ちょっとポチッ、小学生の遠足じゃないんだからねーもうっっ!」
「なんだそれ?」
上総がもとの調子で聞いてきた。
キレイな分すごみがあってコワイ。
「だから“かわりあめ”」
読んで字の如し。
なめると声が高くなったり低くなったり色々ある飴なの。
「でもポチ。どれが高くなるのかわからないでしょ? 片っ端から試してみるの?」
「いえ、大体コレはピンクと白のが30%高くなって、ブルーは70%ですね。それと……」
ポチってば、実はお菓子マニアだったのかしら? あ……なんかコワイ。
それはともかく、ポチはどうやら高くなる可能性がもっとも高い(らしい)ブルーを口に放り込んだ。しばらくするときれいなソプラノが流れ出た。
「あー…これはいい感じですね。ちょっと効きすぎかな?」
上総ってば一瞬すごい速さでキョロキョロ周囲を見回した。あたしだって驚いたわよ!
「スゴイな…。これ食うと誰でもそうなるのか?」
「ええ、もとの声より何段階か高くなりますの♪ ちなみにブルーは70%、黄色と緑が…」
ハイハイハイッと。まいったなぁ。そういえばポチってばもとからいい声してるもんねー。
唯一、この光景を真剣な顔で見ていたのはセーラ。でも準備とか他の仕事も急がしそうで、結局何も聞かれなかった。
side★masayuki
「副総帥、月基地より使者が参っております」
「ん? 来たか? あーじゃあ、第二セクションには準備はせんでいいと伝えとけ」
「いや、しかし……。せめて待機だけはさせておいたほうがよろしいのでは……」
「まぁ、好きにしろ。おまえ、かわりにゲームを続けてろ。負けてるからな、まー頑張れよ」
ロムステルが肩をぽんとたたいていってしまうと、その兵士は今までロムステルが座っていた椅子にどかっと腰をおろした。
「ゲームなんてやってられっか、なぁ?」
正面の少年を少しじっと睨んでからにっと笑って見せる。
「じゃ、やめますか。あなたの勝ちということで?」
「ふ…ん。おまえが勝ったって言ったほうが信じるぜ、きっと」
真幸は黙ったままチェスボートの上のチェス面とカードを片付けていた。
等の昔に勝負は終わっていて……というよりはロムステルが音を上げて、今度はカードゲームをはじめていた。
掛け金の変わりにチェスメンを使っていたのだが、真幸の側には白黒の駒がズラリ。今兵士がいるほうには黒の駒が六個。半分以上が負けていたことになる。
「おまえ、たいしたガキだよ。一勝負見ただけでゲームのルールどころか勝つ方法までマスターしちまうんだもんな」
「前に一度やったことがあるゲームだったんですよ」
ロムステルとはうって変わって、油断のない目に、真幸は優等生スマイルで応戦した。
「そうか? 今時チェスなんてやってるのはアマカーテアの暇人ぐらいのものだぜ。お前よそ者だろうが」
真幸はこの男をじっくり観察することにした。
彼の名前はアラン・ドロン。
ロムステルの側近らしいのだが、およそ、かの愛すべきロムおじさんへの慈愛は見られない。
「おまえ、名前は?」
「あなたは?」
「俺ね、アラン・ドロンだよ。アラン・ドロン中尉。仕事でも女の前でもアラン・ドロン」
「というと、フランスの方ですか? どちらかというともう少し北の方って感じが……」
「スルドイッ。いやーぁするどいなぁーキミッ! やっぱタダものじゃないでしょ? 俺ね、どうもロシアとか西のほうの人間らしいんだな。でも、アメリカにきたときは、まだ言葉も話せなかったらしい。らしいってのは俺は覚えてないんだけど。あ、俺ってば孤児なわけ。アラン・ドロンてのも、育ったハウスのバーさんが勝手につけてくれちゃったってヤツだ。んだからねー、ロシア系の名前に変えようかなー。例えばさー…」
やたらとしゃべりまくる中尉に目だけ向けたまま、真幸の頭の中は脱出プランに忙しかった。
「オイッ」
「ハイ?」
「お前、人の話聞いてないだろう」
「聞いてますよ。ピョートルにニコライにイヴァンでしょ? ロシアっぽい名前ですかぁ」
「あのなぁ、お前、その内月に行くみたいだぜ。さっきの口調からするとすぐかもな」
さっきまでのふざけたような口調とはうって変わって、妙にトゲのあるようないやな声を出す。
なんだ? この男は。
今までとは違った鋭い目つきが神経を逆なでする。
少し手ごわい相手かもしれない。用心しなくては――。
月、ね。なるほど……。
「そのブレスな。壊したらバン! この基地の外に出てもバン! ……よかったな」
「なにがいいんですか」
ちょっとムッとした表情を作っておく。
蛇のような表情で微笑され、一瞬ぞっとした。
「本来ならはずすためのキーがあってな。俺はお前気に入ったから、あったらあげたいトコなんだけど、あいにくとキーは行方不明だ。命が惜しかったら、逃げ出そうなんて考えるなよ」
骨ばった人差し指を真幸に向けると、アラン・ドロンは部屋から出て行った。
やたらと白い肌も、トパーズの目、ブロンドの髪もすべて色素がうすく、冷たい感じのする男である。
部屋には真幸一人になった。
飲み物の棚に、なぜかわざわざ隠しカメラがあるのには、前々から気づいていた。
とりあえず、と。
アルコール度の強い酒を選ぶと、グラスに注ぐ。カメラの死角で指の間の錠剤を落とし込むのを忘れない。左手でリピを注いだ。泡が出るのでそれを隠すためだ。
カメラに見えるように、それでいて、何をするのか悟られないように事を運ばなくてはいけない。
何気なく飲む振りをして口をつけ唾液を入れる。
泡がバァッと増えた。
反応が終わると、リピの炭酸だけが静かに浮いては消えるようになった。
真幸の表情がかすかに緩む。
棚のカメラのひとつ上の段位すばやく半分ほどぶちまけた。板の隙間から液が滴り落ちる頃には、真幸はゆったりと反対側の壁に寄りかかっていた。
十二秒後。カメラの調子が悪くなり、二十秒後、それに気づいたコントロールルームの指示を受け、四十五秒後、一人の兵士が部屋の中に入ったとき、すでに真幸の姿は消えていた。
side★rick
リックと美来とトニーが地下道を歩いていた。
あのアマカーテア軍基地への地下道である。
レットとダンは偵察隊として先に行き、そのまま潜入していた。
本来なら美来はシークレットホームで待機しているはずだったのだが、どうしても行くといって聞かなかった。結局みんな根負けし、連れてきたのだ。
トニーを先頭に、美来、リックの順番だった。
地下道のちょうど三分の二まで来た時の事だった。
リックはかび臭い土の匂いのほかに、何かおかしなにおいを感じ、ふと足を止めた。そ
の時、二、三粒砂が落ちてきた。別に珍しいことではない。ここはきちんと作られた地下
道ではないし、古いから支柱ももろくなっている。
それよりも…。
前の二人を呼び止めようとしたときだった。
派手な爆発音と共に、リックの前の天井が崩れ落ちた!
「美来! トニー!!」
「リック!」
それだけだった。
気がついたとき、リックが最初に思ったのは、そうか、あのにおいは火薬だったのか、ということだった。ちょっと飛ばされたらしい。かたい地面に頭をしたたか打ち付けられていた。
頭をブルブルと犬みたいにやってから、リックはゆっくりと起き上がった。
幸い怪我はないらしい。――と思った瞬間、跳ね起きて立ち上がると、夢中であたりを見渡す。誰一人見当たらない。リックの顔が青ざめた。
「美来、トニー、どこにいるんだ」
見つかる危険などお構いなしにリックは叫んでいた。
道は土の壁でふさがれていた。
所かまわず手で土を掘り始めると、微かにうめき声が聞こえてきた。
トニーの声だ!
「そこかっ?」
天井の土を抑えていたものなのか、板切れが何枚も散らばっていた。
丈夫そうでデカいやつをひったくるように両手でつかむと、リックは無我夢中で彫り始めた。
side★Alain Delon
その兵士は一瞬、少年に逃げられたのかと思った。
実際それは正しいのであるが、慌てて廊下に飛び出すと、こともあろうに上官にぶつかりそうになってしまった。
「あ、これはアラン・ドロン中尉。失礼いたしましたっ」
「いや。どうした? そんなに慌てて」
「それが、いないんですよ。あの、逃げたんじゃ…」
「お前が入ったとき、ロックはされていたんだろう?」
「え? …はい、そうです。されてました」
「じゃあ、どこから逃げるんだ? トイレにでも入ってるよ。それよりおまえ、何しに来た?」
「コントロールルームにカメラの調子が悪いといわれまして……」
「じゃ、あのガキがいない間に見て来いよ。お前なら、ちょっと急げばすぐなおせるぜ」
「はい、わかりました」
アラン・ドロンは若い兵士が勢い込んで部屋に入っていくのを愉快そうに眺めていた。
あのボーヤ、なかなかやるじゃないか。
ちょっと手助けしてやったぞ。今だけはな…。
彼は楽しげににやりと笑うと、足早に第4セクションへと歩き出した。
side★rick
トニーが荒い息をついていた。左足をやられている。その横には美来が横たわっていた。
「リック…」
トニーがつぶやくように言った。
「うん?」
「気絶してるだけだから」
トニーの顔が苦痛にゆがんでいた。
リックがもうしゃべるなと手で制すと、トニーはほぉっと息をついて崩れるように寝転んだ。リックは自責の念で心がキリキリしていた。
「すまない。俺がもっと早く気づいていれば」
「あんたのそうゆうトコ心配」
トニーがムリして笑顔を作るのが、余計に辛かった。何も言えずに頷くと、美来を見つめた。やはりこんなところに連れてくるべきじゃなかった。
はじめにトニーの腕が出てきた。
必死で土を払いのけると、トニーは美来の上にかばうように覆い被さっていたのだ。おかげで美来は腕のかすり傷のほかは、コレといって目立った負傷もなかった。
トニーの左足が折れているらしいのが心配だ。とにかく一度きちんと手当てしておかなければ。
その時、美来が微かに動いた。
「美来…美来っ」
リックの声に、美来はパッチリと目を開けた。
「大丈夫か?」
「え? …うん。たぶん」
突然美来がふきだした。
「ヤダーッ三人とも土だらけっ!!」




