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yuko
「メインキーか……」
小さくトニーがつぶやいた。
「美来。率直に言って、この文、何のためのキーだと思う?」
トニーの澄んだ目がまっすぐに美来を見つめる。
何のために……?
少し考えてから口を開く。
「う…ん。正直言ってはっきりとはわからない。でも、これ、かなり重要なものじゃない?少なくとも昔はそうだったんじゃないかしら? アマカーテアから情報を頂いた時も、ずいぶん厳重だったもの」
話しながらも、美来の手はひっきりなしにキーボードの上を動き、目は画面を見ている。
「その辺は、確かにそのとおりだな。実はね、その暗号も今日の反乱を前もって知ることができたのも、実体ははっきりしてないんだが、あるところからの情報のおかげでね」
ダンはそう言うと、愉快そうにちょっと笑う。トニーがすばやく話を続ける。
「一週間ほど前からココにアクセスしてきたらしいんだ。適当に応対して調べてみたら、複雑なラインだけど、どうやらアマカーテア基地内から発信されてるらしいってことがわかってね。しかしココを知ってるのは仲間だけだし……」
「で、まぁ、情報の正確さから、信用することにしたのさ。何でかわからんが、一方的でこちらからの問いかけはできないから、完全に信用してるわけじゃないが…」
「ね、ちょっと待って」
ダンの言葉を美来がさえぎった。すでに手は止まっていた。
「その……なんて名前なの? それ」
ダンは一瞬きょとんとした。
「なんて言ったっけな? ええと……」
「シークレットライン」
トニーの言葉に
「そう、それだっ!」
「そう、それよっ!」
ダンと美来が同時に大声をあげた。
「それ、セーラって人からだったのよ。ついさっきわかったの」
「セーラって……。オイ、まさか、あのセーラかっっ?」
「ああ、そのセーラだ」
いつのまにかそばに立っていたリックが、ダンの言葉に答える。
「そうだったのか。いやあー、なるほどっ。そーかそーか。さすがだな、やっぱりセーラ
だよ」
とダンが笑い出す。リックもつられたように笑った。
リックの笑顔に、美来も思わず微笑む。
「レットは? どうしてる?」
トニーが問うと、
「今、一人にしてくれってさ」
リックの言葉に、一瞬みんな黙り込む。誰も動かない。
ふっとわずかに空気が揺らぎ、トニーが静かに出て行った。
―――数時間後。
美来は頬杖をついて座っていた。
傍らのコンピュータがひっきりなしに無機質な音を立ててるほかは、部屋には彼女一人だった。かすかな音をたててドアが開いた。
「美来……あ、一人か?」
リックがゆっくりと入ってくる。美来は振り返らなかった。
「うん。みんなは?」
いつになく弱い美来の口調に、リックは一瞬戸惑う。
「トニーは、多分まだレットのところに。……あいつはこういうとき、誰に対してでも、そいつになにがBESTか、ちゃんと知ってるやつなんだよ」
美来がかすかにうなずいた。リックは少しほっとする。
どうしたんだ? レットが気がかりなのか?
「コーヒー飲もうか。俺、淹れるからさ」
美来は何も言わなかったが、リックはさっさと二人分のコーヒーを用意し始める。
「あ、そうだ。ケイ知らないか? 見かけないんだけど。ま、あいつのことだから武器庫でチューニングに夢中になってるのかもな。ああ見えてもそういうのすっげー得意……」
美来の前にコトッとコーヒーカップを置いた。
「何、考えてた?」
「……あのね、今コンピュータにさっき出た言葉を当たらせてるから。"暗号"っていうほど複雑なものじゃなくて、単に覚えやすいのと目くらましのために作ったみたいね。こんな短時間で大体わかってきたし。もうすぐメインキー、はっきりすると……」
「美来、その事じゃ……」
美来の声がそれをさえぎった。
「うん、わかってる」
しばらく二人は口を開かずにいた。
「上に行ってみようか? さっき雨が降ってきたから、今なら大丈夫」
「うん、いく」
美来の声が幾分、普段のように明るくなった。
二人はシークレットホームの地上三階まで上がった。廃墟と化したビルである。雨が降っていた。二人は黙って窓辺にたたずんでいた。
「ねぇ、リック。さっきの"雨だから大丈夫"ってどうゆう意味?」
「あーあれね。この雨、この辺一帯に降るのは、酸性雨なのはもちろん、放射能が半端じゃなく含まれててね。雨の日に外に出るやつはまずいない。だからこうして窓の外を眺めてたって危険はないってこと。あ、いいか。絶対ぬれるなよ」
「うん。こんなに綺麗に見えるのにね」
二人は雨を眺めていた。
「ね、どうしてもっと早くシークレットラインのこと教えてくれなかったの?」
これはリックにとって少し痛い質問だった。
しかし、本当のことを言ったほうがいいと判断した。
「俺は、美来を信用してるよ。美来たちが俺たちの大きな力になるって本当にそう思ってる。でもな、レットたちは……。゛夢の話"なんて頭から信じるわけにはいかなかったらしいんだ」
「そうだったの……。それもそうよね。私たち突然現れて、得体の知れない……」
「違う! 待ってくれ。そうじゃない。はじめはみんな半信半疑だったよ。でも今は違う。美来の力だって本当に助かってるんだよ。それに、得体の知れないのは俺たちのほうだろ?反乱軍だぜ? 見ず知らずの俺たちにさ、こんなに助けてくれてるんだ。本当に感謝してる」
リックの目は真剣そのものだった。
美来は嬉しいと思った。―――自分を、まだまだ子どもの自分たちをこんな風に言ってくれる人がいることを本当に嬉しいと思った。
「うん」
美来は微笑んだ。リックのグリーンの目が優しかった。優しく美来に注がれていた。
美来の目が少し潤んでいた。
心に暖かいものが流れ込むのを感じ、リックはこの瞬間を限りなく愛しいと思った。
このまま、この瞬間をとめられたら……と美来は思った。
気がかりなことは山ほどある。でもどうか今だけ……。
雨が降り続いていた。
雨の音が静かに二人を包み込んでいた。




