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yuko
なんなのよ、いったい~~~。あたしの理解の範囲を超えてるわよ。
「あなた方はいったいどういう人たちなんです? それにここはどういう?」
ポチがすごく当然の質問を口にした。
ま、でも私たちは”侵入者“の立場なんだから、よく考えるとこの質問ちょっと変よね。
ポチってばなんかマヌケで可愛い。
上総が知ってる人って感じなので、警戒心が薄れちゃってるのは確かなんだけど。
セーラさんていう美人は、華やかに微笑んでいった。
「とにかく急いでこちらへ。その奥です。話は着替えながらでもできますわ」
私たちはとにかく促されるまま、部屋の奥のほうへと歩いていった。
そこはあちこちにぴかぴかに磨き上げられた像とか、ゴージャスなお花とか、鮮やかなアンティークの絵画など綺麗な装飾品があって、さながらサロン。およそ、今までの殺風景な通路とは似ても似つかない。
本当にここアマカーテア軍基地よねぇ……? まるで別世界だわ……。
とにかくどうしても着替えろと言うわけで、まさか男性二人とは別れて、セーラさんにもうひとつ奥のアーチみたいなのをくぐると、そこはたくさんの色とりどりのドレスがかかってるお芝居の衣裳部屋のようなところだった。
なんかすごくアンティークなデザインばっかりで、一瞬映画でも見てるような気分になってしまった。
まさかこれ映画じゃないわよねぇ……。
思わずセーラさんの腕をつかんでしまった。
あーよかったー。ちゃんとつかめるし、暖かい。
まったく、最近の映画ときたら、味や香りだけならわかるけど、人間の感触まで本物そっくりになってきちゃったからなぁ……。でも、最初から触るって設定されてない場面では触れることはできないのだ。
あ、でも最近SRXなんてのもできちゃったって話題になってたから、わかんないわよねぇ。その内こっちからも触れるようになっちゃうのかしら? あ、でもとりあえず、この手は人間ぽいわよね。それにここは二百年も過去だし……。
あたしがそんなコトを考えてるとは、夢にも思ってないだろうセーラは、あたしが不安がってると思ってか優しく微笑みかけてくれた。
「大丈夫よ。私たちに任せておきなさい。あの男の子もちゃんと元気でいるから」
「えっ? 北くんに会ったの?」
勢い込んで尋ねた。
元気だって、よかった!! すっごい嬉しい!!
セーラさんがくすっと笑う。
「一度だけね。ロムステルをチェスでうんうん唸らせてたわよ」
「ちぇす?」
「ゲームよ」
はぁ? 北くん、なにやってんのー??
うーむと考え込んでいると、ふわふわスカートの、すごく可愛い女の子が入って来た。
同い年くらいかな?
「ガートルード、この子をお願いね。ちょっと見に、知り合いでも気がつかないくらいにね」
「はい、わかりました」
セーラさんが去った後、今度はなぜか水色のワンピースに白いエプロンという格好の十三、四歳の少女たちが入ってきて、何やらあたふたと動き出す。
ガートルードというコは、純白にモスグリーンのアクセントのクラシカルなドレス。
んー。なんか立場の差でもあるのかしら?
ガートルードは天使のような声で言った。
「あなたがハヤセさん? 色は何色がお好きかしら? あ、年はいくつ?」
あはは、ハヤセさんって、ロムおじさんに名乗ったまんま、ホントに筒抜けなのね。
「一六よ、ガートルードさん」
「あ、あなたさえイヤでなかったら、ガーティってよんでくれる? みんなそう呼ぶの」
「うんわかった。じゃ、あたしのこともマリノって呼んでね、ガーティ」
ガーティは嬉しそうに、はにかんだように笑って、うんとうなずいた。
やわらかそうな赤毛がちょっとゆれる。
本当にふわふわした砂糖菓子みたいなコだなぁ……。でも、どこかであったことがあるような気がするのはなぜ?
そんなこんなのうちに、三人の女の子たちは、色とりどりのドレスやらかつらやらをひっぱりだし、あたし達五人は、あーでもないこーでもないと言いつつ、なんとか無事”変身“を終えることができたのであった。
ガーティと連れ立って、さっきのサロンのほうに戻る。
さっきのエプロンの女の子たちは、後片付けにてんてこ舞いだ。
まぁ、あれだけ騒げばね……。
セーラさんが目ざとくあたし達に気づいて、ソファーで待ってるように、と飲み物なんか出してくれる。
わー、このジュースおいしい。
きゃあ、クッキーもあるの? ああ、しあわせ♪
男性二人はさすがにあたしよりは時間がかかっているらしい。でもあの二人がねぇ……。
およそ似合わないわね……。思わず吹き出してしまう。ま、楽しみにしていよう。
ガーティと二人でおしゃべりしていると、他の女の人たちが何人かはいって来た。
みんな美人!! すごいなぁ。これだけ美人がそろうと圧巻……。
なんてポカンとしていたら、目の前の肖像画に気がついた。
キレイな少女……と思ってよく見ると、その背中には羽がついてる。天使なんだ!
ひゃー、かわいいー。ん? あれ? この絵どこかで見たことがあるような……。
ガーティに聞いてみよう。
「ねぇガーティ、あの絵……わかったぁーっ! ガーティあなたあの天使にそっくりよ!!」
たちまち女性の間に笑いが起こる。
え? なに?
ガーティったら照れちゃって。
「あの天使はガーティがモデルなのよ」
金髪の二十二.三才のやっぱり美女が言った。
あ、なんだ。じゃぁ、なんか見たことがあると思ったのは、さっきココを通る時に、この絵を無意識に見てたからなのね、きっと。
でも、ガーティ、本当に天使みたいよ。
―――あれ? 天使みたいってセリフ、最近誰かが言ってなかったっけ?
「あらあら、にぎやかね」
セーラが何か紙を持ってはいって来た。
「さ、コンピュータで王子様の居場所を確認してきたわよ。ロムはやっぱり単純ね。動いてないわ」
え? コンピュータ?
あたしはちょっと落ち着こうと努力しながら、セーラさんからこの部屋にいる女性たち
について聞いてみることにした。
「あら、ごめんなさい。上総とポッセリアムさん? まだ二人ともメイク中なのよ。彼らには大体の説明はしてきたのだけれど…」
セーラは大まかな説明をはじめた。
☆
セーラを筆頭にF区の女性たちは、いわば地球におけるアマカーテア軍の頭脳集団である。
主に第三シェルター(一般市民の避難所)から、特に頭脳と容姿に秀でたものを強制的に拉致し、働かされている。
若い女性に限られていると言うのは、無論のこと理由があった。
第一に、頭脳労働とはいえ、疲労が伴い体力がいる。若ければ頭脳も柔軟。しかし男では内部で反旗を翻しかねない。その点女のほうが扱いやすいと言うことらしい。
F区以外にはすべて兵士がうようよいる中、男と女では力の差が歴然であり、若い女性が逃げるなど不可能であり、事実過去幾度もの逃走はことごとく失敗に終わっていた。
また、その事からか、F区の休息所には惜しみなく金がかけられるようになり、およそ女が喜ぶものなら自由以外何でもそろうようになっていた。
最近では逃走者もまったくといっていいほど出なくなった。
それでも、女性たちは次々に入れ替わっていく。
家庭を持ちたがる三十代ぐらいになると、消えてしまうのだ。
家に返したと言うが、今まで帰れたものが一人もいないことぐらい、誰もがわかっていた。
基地内を、しかも重要部分を多かれ少なかれ知る者を野放しにするわけがないのである。
―――用がなくなれば消される。
アマカーテアは実に巧妙に女性たちを使いこなしているかのように見えた。
でもいつからか、うぬぼれの強い男たちは忘れてしまったらしい。
それは大きな誤算。追い詰められた女は何より強く、こわいのである。
セーラは表向きは、優秀かつ忠実な働き手であり、頭脳集団のリーダーでもあった。
彼女は女性たちをきちんとまとめあげ、彼女がトップに立ってからというもの、逃走するものは一人もいなくなり、アマカーテアは大いに楽をするようになった。楽になれば気が緩む。すると段々いいかげんになってくる。それが狙いなのだ。
セーラは反乱軍の一員であった。
セーラは目下一年半の間、行方不明の身である。そして一年半がかりでアマカーテア軍の信頼を勝ち得、頭脳集団の立場を築き上げ、さらには外部の反乱軍と連絡を取るべくシークレットラインを引いたのだった。
アマカーテア軍は知らない。
まさか思いもしないだろう。基地内の管理された電波を巧妙にすり抜け、外に情報が流れているなどとは。
だがそれはセーラ一人の力ではない。
慎重を期して優秀な女性たちを抱き込んでいったが、誰一人として反抗するものはなかった。
贅沢に溺れると見越して起用された第三シェルターの女性たちは利用されているふりを装いつつ、利用できることをすべて利用し、今反乱の秒読み段階に入っていた……。




