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maki
ケイの声は落ち着いていたものの、何か毒を感じさせるものがあった。きっとそれは怒りであり、憎しみであり、とにかくケイがロムステル副総帥を心から憎んでいるのは確かなことであった。
「ごめん、ケイ。俺何も知らなくて……」
リーは、がっくりとうなだれた。
「ん、ああ、気にすんなよ。もう親父が死んで十年もたつんだ。リーが謝る必要なんて全然ないだろう?」
ケイがポンッとリーの頭を軽くこづいた。
リーにとって、ケイは尊敬に値する人物で、何よりも兄のような近しい存在でもあった。ケイにとっても、リーは同じように大切な弟的存在であるようだった。
「そういえば、おまえの持ってるその本、それは何だ?」
「ああ。これはさっきとっさにもってきちゃって。この辺に置いておくとヤバイかな」
ケイは一、二秒考えて、
「持ってろよ。きっと後で役に立つような気がする」
と言った。
ケイは彼のバイオリズムが向上してるのか、やけに勘が鋭く働くのだった。
side★Marino
「ねぇ、なんかさわがしくない?」
あたしが口を開くと、ポチと上総も、ここが敵地であることをやっと思い出したのか、話し込むのをやめてあたしを見た。
「お嬢さん、どう……したんです?」
ポチは、あたしの少しばかりの殺気を感じてか恐る恐る尋ねる。
「ずるい。さっきから二人だけでわけのわかんない難しいこととか話してて……」
ポチはすみませんと頭を下げる。
上総は、まさか、そんなことしてないと、逆にあたしに突っかかってきた。
「つまり、話に入りたいんだろ」
いつもならここで意地を張ったりむきになっちゃうんだけど、あたしはその上総の言葉に急に元気になってしまった。
「うん♪ よくわかってるじゃない」
上総はそんなあたしを見てかすかに笑った。
「それにしてもBブロックは遠いですね」
「でも、もう旧区は抜けたんじゃない?」
ポチの不安げな声に、あたしはあっけらかんと言った。
もちろん、何の確証もなかったけどね。
そこへ上総が
「気を抜くな。ここはまだ旧区かもしれないだろう」
と釘をさす。
ふと、あたしは今まで一度も口にしなかった言葉がぽろっとこぼれ出た。
「ママ、元気かな……」
ポチと上総は足を止めて、驚いたようにあたしを見た。
でも、一番驚いてたのはあたし自身だった。こんなこと言うつもりなんてなかった。
頭の中は真っ白で、ボーッと何も考えてなかったからだろうか。
とにかく三人は黙り込んでしまった。
最初に口を開いたのは上総だった。
「俺、母親がいないんだ。父親はだいぶ前に死んだんだけど、血はつながってない。俺は父に拾われたんだ。でも、ひろわれた当時のことはあまり覚えてないし、父もなにも言わないで、いや、言う暇もなくか……死んでしまった。わかってるのは、俺はこの世界の人間じゃないことと、手がかりの銃だけだ」
じっと上総を見ていたポチが、彼に問い掛けた。
「どうしてこの世界の人間じゃないことがわかるんですか? 銃だけでは判定なんてできないですよね」
「記憶がさ、かすかにあるんだ。時々思い出したように夢に見たり。暖かい光。自分の居場所がここではないと記憶がそう教えてくれるんだ」
上総は照れくさそうにかすかに笑って目を伏せた。 泣いてるの…?
あたしの目から、わけのわからない感情の作ったものが、次々とあふれては流れだした。
何で泣いたのか自分でもよくわからない。
上総の話に共感したのかもしれないし、違うかもしれない。
でも、そんなことはどうでもよかった。
あたしは涙をぬぐって二人に背を向け、別の話題に入るように祈る。
「お嬢さん、私がいます。雪乃さんの代わりに私がいますから」
私の祈りをよそに、ポチが顔を真っ赤にして私を励まそうとしてくれる。
『俺がついててやるから……』
記憶のずっと奥のほうから声が聞こえる。
あれは誰?
デジャブ?
上総は北くんがしてくれるように、くしゃくしゃとあたしの頭をなでてくれた。
言葉がなくても、なんとなく上総のいいたいことがわかったような気がした。
「ありがとう」
二人の顔を見てはっきりと言う。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
上総の優しげな声が区切りをつけた。
北くん、今助けに行くからね。
あたしは不安と戸惑いを隠しながら、またわずかに緊迫な状態へととけこんでいった。
side★シェルター
政治家、弁護士、医者など、国家的な主要人物の九割は第一シェルターへ、軍階級のトップクラスの家族は第二シェルターへ、その他の一般人は第三シェルターへ避難していた。
あからさまな身分差別である。
六十八年前にできた「アマカーテア軍国憲法」では、人間は自由であるが、組織のもとでは自由ではないと言うことが定められている。
組織とは軍そのものである。
組織の元でと言うのを理由に、一般人は少数の要人たちと大きく隔てられていた。
自由のない人々の願いは、安らかで平等な自由。
つまり帝国の崩壊。反乱軍の勝利。
今までさまざまな反乱分子の起こしたクーデターは十三回。それらはすべてアマカーテアと言う巨大な力に簡単にねじ伏せられてきた。
それでも人々は願う。
今度こそは、必ず、きっと勝利を!
その中に一人の少女がいた。
淡い金髪にグリーンの瞳、年のころは十六、七と言ったところだろうか。
「ロティ、この子の熱が下がらなくてさ、ちょっと診てくれるかい」
ロティと呼ばれた少女が、声をかけてきたおばさんから小さな女の子を引き渡される。
シャルロット・ウィルソン。それが彼女の名前だった。
「ただの風邪みたい。でも、念のため、ダニエル先生のところで見てもらったほうがいいわ」
「そうかい、ありがとう。それにしても、ロティはえらいよ。その年で看護士の資格をもってるなんて。ずいぶんあたしも助けてもらったしね。ダニエルさんのところでは働かないのかい」
ロティは笑って即答した。
「やりたいことがあるし、もし仲間が迎えにきたとき、すぐについて行きたいから」
ダニエル・ベリーは医者であり、ロティの恩師でもあった。
ロティはアットホームな雰囲気からか、多くの人から頼られ、可愛がられ、褒められてもいた。




