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yuko
side★Lee
「参ったなぁ」
目の前に長々と横たわってる赤毛の男を眺めつつ、少年――リーは低くつぶやいた。
男の銃を手にとって見ると、少年には少々大きすぎた。それにかなり重い。
利発そうな茶色の目を宙にとめ、一瞬考えると、銃からエネルギーパックだけを取り出し、元のままに男のホルダーに戻す。
もちろん、ほんの少しだけエネルギーを残しておくことを忘れない。
こうしておけば、たいていはついうっかり補充するのを忘れていたと思い込んでしまう。昔ケイが教えてくれた初歩の礼儀(とケイは呼ぶ)ってやつだ。
ふと、ケイのことが頭に浮かぶ。
銃のことはみんなケイが教えてくれた。
リーにとっては仲間の中で、一番最初に出会った男だった。
一見軟派で、女のコには優しくて、スタイルだってダンみたいに見るからにたくましいってわけじゃないけど、年齢もぎりぎりの十二歳で入隊した上、体も小さいというハンデをかかえた自分をいつもかばってくれたのがケイだった。
本当の男の優しさを持ってるやつっていったらケイだな、といつも思う。ああいう優しさを持つ男になりたい。女のコと見ると声をかけるトコまではいかなくていいけど……。
体格だったらダンがいい。
なんと言っても二二〇センチメートルもあるのだ。今の自分はまだ一五〇センチメートル。後七十センチメートルも行くかな?
男らしいといえば、レットのリーダーとしての素質や、リックの仲間をすごく大事にするところ。それにトー―はおとなしいけど、心がすごく深い人だ。
そして上総。物静かな空気を持っていて、大人の男を感じさせる。それに……
――これから男(GUY)になりつつある少年は欲張りなのである。
きりがないので、リーの日ごろの思いはさておき、今、彼が参ってることに目を戻そう。
男は三十代後半。アマカーテアの兵士だろう。
一応軍服は身につけているものの、だいぶ着古している代物で、かみと同じ赤い無精ひげ。
リーは軽く肩をすくめて、ゆっくり息を吐き出すと、周囲にすばやく目を走らせる。
誰もいない。
手近なドア二、三コの様子をうかがってみたが、どうもこのあたりは今は使われてない部屋のようだ。少しツキが回ってきたのかもしれない。
とりあえず、早くこれを片付けてしまわなければ。
一回りどころか、自分の倍くらい太い男の両足を小脇に抱えて、一番近いドアへとひきずる。これがやたらと重い! やっとなんとか運び込むと、どうやらそこは資料室らしい。
つくりから言ってこの辺一体が資料庫になっているのだろう。乱雑に積み上げられた書類の山がそこここにある。書棚や使い古された椅子のひとかたまりや、元がなんだったのか判別のつかないがらくたには、ほこりがうずたかく降り積もっていた。
スプリングの飛び出した長椅子の裏まで男を引きずっていき、何とか隠しておく。
大丈夫、まだ気が付かない。
麻酔銃ではなく、スプレーを頭から振りかけたので効力は短い。
早めに出て行ったほうがよさそうだ。
戻りかけてリーは苦笑した。
床に積もったほこりのせいで、引きずったあとと、それに重なる、一目で少年のものとわかる足跡がくっきりと残っているのだ。
どうせ男が目覚めるまでの間だ、とは思ったが、やはりほんの少しでも時間的なゆとりはほしいと思い直し、いたってオーソドックスな方法でごまかすことにした。
なるべく目に付かないところの本を一冊、ほうき代わりにバタバタやったのである。
ちょっと見た目にわからなければいいのだ。
跡だけ消しながらドアまで戻る。
一冊だけ床に転がしておくのも変だから、その本は持っていくことにした。
ドアを閉めるとほっと息をつく。
なんだってこうなってしまったのか。もっとうまくやれると思っていた。
遠くに人の声が聞こえた気がして、リーはまた別の部屋へ身を隠す。
アマカーテア軍基地Cブロック。少年は孤立状態にあった。
side★Kei
ケイは地下道を歩いていた。
今一人でも勝手な行動をとることが、どれほど危険なことかは承知していた。
しかし、どうにもならない胸騒ぎが彼を捕らえて離さないのだ。
今ごろシークレットホームの円卓の上に、みんなで頭をつき合わせていることだろう。
武器部屋でチューニングをしていたのだが、抜け出してきてしまった。
トニー宛に『すぐ戻る』と走り書きを残してきた。
大丈夫。あいつならもしものことがあってもきっとわかってくれるだろう。
リックと面を向かって相談すれば、ぶん殴られるのは目に見えていた。でも、俺のほうこそ、一瞬おまえをぶん殴りそうになったんだぞ、リック。
ケイは我知らず眉をひそめる。兵士といってもリーはまだ子どもなんだ。ポチやマサユキはアマカーテアには通じてない。もしも上総と落ち合うことができなかったらどうなるか。
そしてまとわりつく不安な予感。
ケイは自然と足が速まっていくのを感じた。
――ケイはリーに対しては過保護だ。というのが仲間の大部分の意見である。
事実、ケイはリーが少しずつ成長してるということが少々わかっていない面もあった。
しかし、家族を知らないリーにとって、もっとも近しい存在はケイなのだった。
ケイは正規軍の軍服を身に付け変装していた。
うまく基地内Cブロックに入り込んですぐ、二人の兵士とすれ違った。
内心の焦りを隠し、陽気に声をかける。大丈夫。気づかれてない。
正規兵に知り合いはほとんどいないのが、今は救いとなっていた。
少し行くと検問にでくわした。
まさかここでは軍服だけでは通用するはずもない。
隣のブロックに抜けてしまうことにする。
ふとケイは気づいた。上総たちはここにいたのかもしれない。Iブロックというのが構造からして”ふくろのねずみ“という、一番予想しやすい場所のうちのひとつだった。
罠、と考えても誰もがすぐに予想できるエサをちらつかせるのが妥当だろう。
予想は当たっていた。
Iブロックがすでに"ふくろのねずみ"状態になっていたのである。ことごとくシャッターが下ろされ、外から入るといくら歩いても外枠を回っているだけで内側には入れない。同時に内側からも他のブロックへはいけないというやつである。
上総たちは内部だろうか?
しかしさっき会った兵士たちは一人捕まえたと話していた。
Iブロックの内側だけで逃げ回っていても、すぐ捕まってしまうはずだ。とすると……。
安易な判定は危険だったが、自分は単身、可能性の高いほうにかけよう。
ケイはIブロックにはいないと判断した。
Iブロックは今、端にある。
四人が向かうとすればCブロックかもう片方の隣のはず。
一瞬迷ったが、自分がわりと通じているほうへ向かうことにしたのである。
side★Lee
さて、再びリー。
リーはじっと身をかたくして息をひそめていた。
気のせいではなかった。人の声が近づいてくる。二、三人の兵士のようだ。
もしもこの部屋に入ってきたらどうする? ドアにもたれかかったまま、一瞬背中が凍りつく。
ちくしょう、オレはマヌケ野郎なんかじゃないぞ。
――すばやく身を隠そうとした時、兵士の声が耳に飛び込んできた。
「……上総が――」
すぐさま耳をドアに押し当て、全身で聞いていた。
しっかりした口調は、およそ下っ端ではない。
――今の話は本当だろうか?
今度は怖気づいたためではなく、しばらく身動きができないでいた。
どのくらいたったのだろうか。それほど長い時間ではないだろう。ほんの二、三分。あるいは十分か―――。
リーは信じられない音を聞いた。
足音!
ひそめた感じではあるが、間違いはなかった。
あれは聞きなれたケイの!
飛び出したい衝動を押さえつけ、体を薄暗いガラクタの影へとうずめる。
ケイがここにいるはずがない。
足音が近づくにしたがい、部屋を一つ一つチェックしてる気配に気がついた。
今、リーには小型の護身用銃しかない。姿を見られれば――おそらく終わりだ。
足音が近づいてくる。
リーは銃に手をかけ、気配を押し殺す。
ドアが開く。そして―――
「ケイ」
リーは静かにささやいた。
ケイがしなやかに滑り込んできた。
髪を黒く染めている。それに軍服。
「みんな無事か?――オイ、他のやつらはどうした?」
リーの話はこうだった。
はじめの計画では、まずマサユキがおとりになり、細工して上総たちの居場所を突き止め、こちらに知らせる。リーとポチがドアを爆破。そこまではよかった。
上総たちと合流して、四人でCブロック経由でマサユキを救出……のはずだった。
しかし、読まれていたのだ。二人が逃げ出してくると、Cブロック側のゲートから次々とシャットアウトされていったのである。二人は反対方向へと駆け出し、Cブロックに待機していたリーはそのまま締め出された形になってしまったのだ。
Eブロックよりにいたポチに、早く追えと言うのが精一杯だった。自分のミスだとリーはうなだれる。
「Cにやたら兵士が多くてさ、身動きが取れなくなっちまった。一人眠ってもらって、それでもここまでだぜ?」
「卑屈になるなよ。大丈夫、まだマサユキ以外は捕まっていない。俺が来たんだから、さ」
二人の顔にやっと微笑が戻った。
リーが思い出したように口を開いた。
「ケイ――これ、正規軍の軍服?」
「ああ、これな。俺の親父のだったんだ。落ちぶれかけたイギリス貴族の出でね、金はなくても軍人としての実力はある人だったよ。――殺されたんだ。仲間にね。濡れ衣で犯罪者にされたんだ。――それが今のアマカーテア軍副総帥のロムステルって男だ」




