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yuko
「ああ。MKはちょっときついが、パターンが単純だからそこにつけこもう」
「は?」
思わず大きな声を出してしまった。上総がいぶかしげに聞き返す。
「はっ? ておまえ……。他のもっといい方法があるのか?」
「ちがーう。あのね、なんなの? そのMKってのは?」
「MK2000型警備ロボットのことだろ? あの頭にドーム乗っけたみたいなちっこいやつ」
なんか上総、私がわかってると思ってなーい? 知らないよ、そんなの。
「ふーん。ちっこいの?」
「そう。マリノの半分くらいの背丈でだれかれかまわず撃ってくる」
うんうんと頷いてたら、上総は私が思い出したと勘違いしたらしい。少しほっとした表情になった。
「だれかれかまわず撃ってくるなら、そこを通りたい人はどうするの?」
上総がちょっと微笑んだ。やっぱり素敵だわー♪
「カードと暗証番号。その先の壁のところでチェックする。。カメラなしなのが救いだな」
手で示すほうをみると、あー、あの角のところね。……ってあれ? ポチが角の向こうをのぞこうとしてる。
「あ、オイッその先に行くなよ。赤外線に引っかかるぞ」
上総がそう言ったとき……ポチが突然笑い始めたのだった。
「ちょっとなにー? ポチどうしたのー?」
と私が走り寄ると、ポチはおかしくてたまらないというように顔をしかめながら言った。
「お嬢さん、ちょっと見てくださいよ、アレー。……お掃除が……チャイリーが踊ってますよーッッッ」
言いながらも笑ってる。あーん? チャイリーってもしかして……。
そっとのぞきこむと、あたしも思い切りふきだしてしまった。
なにあれーっっっ
さて、あたしとポチの笑いが一段落するまで、上総はちょっと眉をひそめていたが、仕方がないというように肩をすくめて、ポチの持ってきた銃の手入れをはじめた。
ん? 何がそんなにおかしかったかったって言うと……。私たちが見たものは五体のMKが独特のスムーズな動きで、しきりに頭部を回転させながら動き回って、けなげにそのあたり一体を警備している姿だったのだけれど。そのMK、実は私たちの世界、つまりここから二百年後の世界の公共用清掃ロボットCHにそっくりだったの!
CHは≪クリーニングヒルク(お掃除する小高い丘)≫って意味なんだけど、小さくて愛嬌のある形をしているものだから、みんなCHをもじって≪チャイルドフッド≫、そこからさらに親しみを込めて≪チャイリー≫って呼んでるの。公園など、あちことでせっせとお掃除してるものだから、なんか可愛いんだ。
で、ポチとあたしは、真面目にお仕事してるMK2000が他警備ロボットを見たとき、ふだんはゆっくりおそうじしているCHが、忙しそうにダンスしているように見えてしまったって言うわけ。
そうかー。あのチャイリーのユニークな姿はやっぱりアンティークだったからなのねぇ。
ひとしきり笑って落ち着くと、上総がやれやれと近づいてきた。
ちょっと向こう側に目をやると
「MKがそんなにおもしろいのか?」
「あれがMKなの?」
「そうですよ、お嬢さん」
あ……何それは。さっきまで一緒に大笑いしてたくせに。
ちょっとむくれてしまう。
「カメラがないってことは、当然MKの動きで判断されてるわけですね。どこかに警備用操作室が?」
「え? ああ、おそらくすぐ近くにあると思う。コントロールルームから無線で……」
な、なによ。二人で話を進めないでほしい。
大体ポチってばいつの間にそんなことを。
「じゃ、マウス使っちゃいましょう」
「え? マウスって、あのマウンテンコースの? そんなものが何でこんなところにあるのよーッ」
「お嬢さんのリュックに入ってましたよ」
ポチはそう言うと、ずっともっていた汚い袋の中から、あたしのリュックを取り出した。
あたしは真っ赤になってしまった。
また≪マリノのよけいな物持ち≫だ。
でも、それは実際名案だった。
マウスというのは、いわばおもちゃで、アミューズメントパーク≪マウンテンコース≫の中ではまるっきり人気のないACT3・洞窟探検“という、タイトルからしてパッとしないコースで使うのだ。ようするに、無線なら何でも受け取ることができ、指示どおりの移動もやっていてくれる。
洞窟の中ではおかしな動物やロボットが無線(有線だと子ども達がつまづいていけないと、婦人団体から抗議が入ったらしい)で動いて宝物を守っている(このへんからしてちんけでしょ)。相手に気づかれないようにそっとマウスを送り込めば、マウスが変わりに無線をキャッチしてしまうから、敵はただのガラクタと化するわけ。
もちろん実際に無線の警備ロボットなんてどこでも使ってないから、本当に子どものおもちゃに過ぎないんだけど。
そのマウスだって、命令すれば楽に六時間は勝手に動いていてくれる。
あたしはリュックからマウスを五個取り出すと、リュックを背にしょった。
マウスはあたしの両手に五個すべて乗ってしまうほど小さいのだ。
二個をポチに渡し、スイッチを入れ正常に動くことを確かめてみる。
「そのマウスって一体なんだ?」
上総がいぶかしげに聞いてきた。
得意顔で説明しようとしたあたしをポチがさえぎるように言った。
「マウスって言ったら、ほら、なんて言ったらいいのかな。……つまり、その」
しどろもどろになって言うポチに、はっとさせられる。
そうか。ここは過去の世界で、上総だって過去の人なんだ。
あーっっもうっあたしってばっ! ポチがいなかったら危ないところだった。
ポチ、ありがとう♪
「マウスはマウスよ。MKを動かなくできると思う。誰にも気づかれずに。ね、ポチ?」
「そうゆうことですね。お嬢さん」
にっこり笑顔のポチとあたしに、上総はなんとなくごまかされてくれたみたい。
ほっ、よかったぁ。ポチもほっとした顔。それから私に飛び切りの笑顔をくれた。
ドキッ
ほっぺたが熱くなってしまう。
あ、ポチの顔の傷、血はとまってるけどいたそう……。
そこではっと気づき、慌ててリュックから傷用のクリームを取り出した。携帯用のミニサイズ。
指先でそっとぬってあげると、ポチはちょっと痛そうに顔をしかめた。
もっと早くあたしのリュック持ってるって言ってくれればよかったのに……。
そう言うと、ポチはもう大丈夫ですってまた笑顔。
なぜか上総までにやついている。
なんなのー? 上総まで??? ポチのにっこりって伝染するのかしら? うーむ、わからん。
「あ、お嬢さん、リュック降ろしたついでに、親マウス用にもう一個出したほうがいいんじゃないですか」
そうだった……。
マウスをここに置き去りにするわけにはいかない。
リュックには後三個入っていた。
五個は電源をONにして、タイマーを一時間にセットしておいた。
あと一個は”親“に切り替えて、リュックに戻す。
ここからが大変だった。
MK一体に対して一個ずつ、慎重に送り出す。――が、三個目ぐらいでそんな慎重さは無用だったことがわかった。MKは床を転がってくるマウスにぜんぜん反応しないのだ。床上三センチ以下はMKの赤外線はシカトしているらしい。
ずっと無線機をいじってた上総に聞いてみると、かなりの呆れ顔をされてしまった。
「もしかして、それ知らないでやってたのか?」
「ははは……。――上総はさっきから何してるの?」
笑ってごまかす。
また無線機は通じなくなっていた。妨害電波が張り巡らされているらしい、と上総が言った。。
ポチはマウスを全部送り出し終えると、五体のMKは完全に動きを止めた。代わってマウスがさっきのMKのダンスを(もちろん頭をくるくるはできないけど)して動き回っていた。
「大丈夫? 気づかれなかった?」
万事は好調に進んでいるようだった。
相変わらず誰も通らない廊下に、MKがマウスに変わっただけ。
あたしたちは先へ進むことにする。
マウスはこのままなら一時間後にはリュックの中の≪親≫を追ってあたしたちのところへ戻ってくるはずだ。
小さなマウスとはいえ、ちゃんと回収しておかないと歴史を変えることになりかねない、というポチにあたしも賛成だった。
念のため、人間の声にも反応するようセットしておいた。
誰かが通りかかったら、第一任務の「無線受信による移動」をやめ、第二任務の「親を追いかける」に移るというわけ。
ポチの傷もみるみる回復し、この分だと後二、三分で傷跡もほとんど消えるだろう。
とりあえず、第一関門突破! かな。




