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「な、なに?」
一瞬止まるかと思った心臓をドキドキさせて、あたしは思わず叫んだ。
「ちっ」
と上総は舌打ちして無線機を放ると、ぴたっと音がやんだ。
「しっかり外と断ち切られてしまってる。これじゃ無線機なんてガラクタだ」
そう言ってぎゅっと目をつむってしまった上総を見て、あたしはどうしていいかわからなくなって、自分が情けなくなってしまった。
あたしは一応未来の人間で、この時代の人より役に立つ知識をいっぱい持っててもいいはずなのに……。ああ、もっと勉強しておけばよかった……。
そう思ってため息をついた時、突然ボンと目の前に一人のおじさんが現れた。
げっ、いったい何???
あたしは思わず顔をしかめる。
そのおじさんは太ってて、いかにも軍人て感じの格好をしている。
なんか偉そうでいやな感じ!!
一方上総は突然現れたおじさんにかなり面食らった様子だった。
「うぉっほん。エー、私がアマカーテア軍副総帥セディ・ロムステルだ」
はぁ……? 何でこのおじさん、こんなに緊張してるんだろう?? 大体こうゆう人って、自分から名乗るものなのかなぁ?
「あー、お嬢さんは驚いてないようだな?」
「? なにが?」
「何って……」
おじさんは目をパチパチさせる。
あ……そうか。この立体映像のことだわ、きっと。二百年前に使ってるって事は、結構ここの科学技術が進んでるの、かな。
「へぇ、すごい……」
あたしがつぶやくと、おじさんは満足げにうなずきつつ、
「鈍い娘だ」
とつぶやいたのをあたしは聞き逃さなかった。
ふんっだ。あたしは生まれた時から、三次元テレビや三次元電話なんてものが、当たり前にある時代に育ったんだからね。初めて使って緊張しまくってるおじさんとは違うんだよーだ。
内心舌を出しつつ、あたしはおじさんの期待通りびっくりを装う。
ここの事をもっとよく知って、絶対上総を助けてあげたい。じゃなきゃ、あたしはただ足を引っ張るだけのどうしようもないコでしかなくなっちゃう。
大丈夫。人間窮地に追い込まれれば、びっくりするような力が出るっていうし(俗に火事場の馬鹿力というんだよね)。うん、がんばって二十三世紀人ぶろう。
「さて、お嬢さん」
「早瀬です」
こんなおじさんにポチと同じ呼びかたしてほしくないし、かと言って、マリノって呼ばれるのもいやだったから、あたしは苗字を名乗った。
「ん……ああ、ハヤセ君。もう一人はそこにいるのかね」
おじさんの言葉に上総がきょとんとする。
だって目の前に立ってるのにね。
あたししか見えてないって事は、おじさんは自分の立ってる場所から半径一メートル内のエリアしか見えてない。まぁ、逆にいえばこっちからもおじさんの周囲は半径一メートルぐらいしか見えてないことになるけど……。
これ、使えるかもしれない……。
後で考えてみようっと。
「はい、ちゃんといます」
おじさんはフムフムとうなずく。
うーん、本当にこの人副総帥なんてえらい人なのかなぁ? 見かけはともかく……。
「その部屋の居心地はどうだね」
「別に悪くはないけど……」
「けど?」
「暇です」
おじさんは笑い出す。
「捕虜にも快適に過ごしてもらうというのが私のモットーでね。あとでゲームでも届けさせよう。リクエストはあるかね?」
少し皮肉を感じるけど、せっかく届けてくれるって言うんだから遠慮なくリクエストしよっと。
「うーん、それじゃ、リバーシとねぇ、ダイヤモンドゲーム。あ、これは三人のほうがおもしろいから、人も一人つけてね」
「残念ながら人の配給はしていなくてね」
あっそ、残念。
「じゃあ、リバーシとトランプがいいな」
「わかった。後で届けさせよう」
そういいつつボソッとおじさんがつぶやいた。
「やっぱり鈍いんだろうか」
聞こえたわよ!!
☆
アマカーテアの成立は二十一世紀半ばで、元々は世界各国の時間と金をもてあます有力者たちのクラブだった。
それはあっという間に大きくなり、やがては国連を押しのける力を持つ。
それは一見、優雅な栄耀栄華に見えていたが、その裏側ではひそかにひとつのプロジェクトが動いていた。
結果、それは宇宙開発に拍車をかける形になったのだが……。
それはひとつの帝国を作り上げること。
そしてその帝国は"地球"を支配するはずだった。
しかし、二十二世紀初頭の世界混乱期。人々が他惑星に行く流れを、誰も止めることはできなかった。
結局その混乱期は約六十年続き、その間、有力者たちは次々となぞの死を遂げていき、プロジェクトは混乱に紛れ消失した。
二一八七年。地球再建期の中、ダビルサルを中心とした無国籍軍隊”アマカーテア軍“を成立。当時三十代の男が作り上げたこの組織を、当初世界は驚異と同時に軽視していたのだが、ダビルサルはそんな世界を次々と押さえ込み、文字通り世界を支配していった。
彼の裏にはかの大天才、シンザキ博士が後見していたという説も有力ではあるが、定かではない。
アマカーテア軍の成立より六十八年。
一見その力は未来永劫であるかのように見えていた。
☆
「さて……」
と、おじさん――もとい、ロムステル氏は気を取り直したように踵を浮かせ、トンともう一度つく。
「君達のことは調べさせてもらったよ。君たちはなかなか面白いね。いや、実に……」
???
いったい何を言ってるんだろう。
あたし達の事は調べようがないわよね。だってここの人間じゃないし。
もしかしてそのことを知ってる?
――まさかね。
ということは、やっぱり反乱軍のメンバーについてかな。でも。君たちって言ってたし……もしかして今までこの部屋になんか仕掛けがあって、あたし達を調べてたとか……。
「すけべ」
睨み付けてつぶやくと、おじさんは少し眉根を寄せて怪訝な顔をしたけど大して気にもかけなかったみたいで、そのまま話を続ける。
とぼけてるのかしら?
それとも、別にここでは何もしてないのかな?
少し首をかしげると、監視用らしいカメラが停止していた。ということは、むこうにはあたしの姿以外見えてないんだ……。
そう思った瞬間、まだしゃべり続けているおじさんの姿がぼやけていき、まもなく消えてしまった。
まだ五分ぐらいしか映像送ってないのに、タイムアウトらしい。
やっぱりまだ試作の段階みたいね。
カメラを見ると再び作動し始めていた。
ストンとソファに座り込むと、上総はまだ不思議そうな顔をしていた。
たぶん初めて三次元映像を見たんだろうな。一瞬おじさんに殴りかかりそうだったのを止めなかったら、すっごく間抜けなことになってただろうね。
あたしはほっと息をついて、また一口チョコレートを口にほおりこむ。




