元勇者、定職!?
太陽が真上に昇りかける頃、魔法研究所のはずれにある一軒家の一室では、二人掛けのソファーに座る女性二人と一人掛けの椅子に座るすれた青年が向かいあっていた。
もし、ここに最近、流行の勇者物語のファンがいれば、泣いて喜ぶ顔ぶれが今この部屋に集まっている。
「それで、梓先輩いい加減なんで俺を呼んだか教えてください」
「そうだね。 でも、もうちょっと旧交を温めようと思わないの?」
「たく、旧交を温めるほど長い時間あってないわけじゃないでしょ」
実際、ユウキと彼女の最後は三ヶ月前の王都の謁見以来ということになるので、そこまで時間が空いているわけじゃない。
勇者時代にだって勇者一行の全員がいつも同じ行動していたわけでもない。時には、半年間顔を合わせなかったことだってあった。
それに魔王を倒した後の一年は、ほとんど他の勇者と一緒に行動していなかったほどだ。
「私からしたら、この三ヶ月間は少し長く感じたな~」
そんなことを言うアズサの顔は柄にも哀愁を帯びた顔にユウキは見えた。
ユウキは王との謁見以降の他の勇者の動向については殆ど知らない。アズサが何を思って魔法研究所に住んでいるのかはユウキの窺い知るところではない。
「勇樹はどうだった? この三ヶ月間引きこもってた感想は?」
「引きこもってたって言うな。 あれは隠居生活を満喫してだけです」
「国からの補助金で毎日働きもせずぐーたら暮らしてだけでしょ」
「ちょっ!?」
まさか、アズサが自分がこの三ヶ月の暮らしぶりを当てられるとは、思わなかったのでもろに動揺が声と表情に出てしまった。
一方梓はしてやったりと言った感じでユウキに満面の笑みを見せる。
「私は勇樹のそういう驚いた顔を見るのを好きだよ」
「こっちはいい迷惑だわ! どうしてそれを知ってるんですか?」
ユウキの動向についてはユウキの屋敷を提供して王族とその関係者のみしか知らない情報のはずである。
あの時のユウキは他の勇者にも居所を教えるつもりは一切なかったのだから。
「それはね……」
アズサがユウキの動向を把握していた秘密を喋ろうとする瞬間、
「それは私が教えたのよ!」
突然開かれた部屋の入り口方向からユウキにとっては聞き覚えがある女の声が部屋に響きわたり反射的に顔をしかめた。
ドアの方を見ると本来長いであろう金色の髪を後ろに結い上げいて、胸にはこの国の紋章が書かれたプレートアーマー、腰には見事な金装飾が施された剣、この国の理想的な女性騎士を連想させる格好していた。
「久しぶりね、ユウキ。三ヶ月ぶりくらいかしらね」
その声と表情から絶対的の自信が感じとれるが、綺麗な声色と何者をも惹きつける容姿がそれを不快にさせることはない。
ユウキの顔には驚愕の表情が隠せないほど現れている。
「ソフィーア!? なんでお前がここに――!?]
「ユーキ、私の事はソフィーと呼ぶように言ったでしょう」
ソフィーア=マクダウェル=アルダートン。
ユウキのこの世界でアリシアやアズサよりも苦手とする女性であり、この国の第一王女でもあり、王族でありながらアリシアと同じく魔王を倒した勇者一行のメンバーでもあった。
当時、十六歳という年齢にかかわらず、勇者とともに旅に出て最後まで生き残り、魔王討伐に貢献した話はこの国の語り部なら決して外しはしない有名な話だ。その功績から今現在、王国の騎士団の頂点にあるアルダートン騎士団の団長職に就いている。
「あはははは! 勇樹、驚き過ぎでしょ!」
ユウキの驚く顔をみて腹を抱えて笑うアズサ。
「アズサ、女性がそんなはしたなく声を出して笑うもんじゃないわよ」
「あはは、いや~勇樹が予想以上に驚いてくれたもんでね。それより遅いじゃないか、話を引き延ばすの大変だったんだから」
「少し寄るところがあって遅れてしまったの」
そういうソフィーヤは遅れたことに一切悪びれる態度を見せずに部屋の中へと入ってくる。そして、そのソフィーアの背後には最近、見慣れた人物も続いて入ってくる。
「アリシア、お前まで一緒だったのか……」
「はい、ギルドに寄った帰りにソフィーア王女殿下に声をかけられまして、同行することになりました」
ユウキとしては、今すぐにでもこの場を逃げ出したい気持ちいっぱいだ。なんせこの部屋には、ユウキの苦手とする人物が斉揃いしているのだから。
学校一の自由人のアズサ、高飛車王女のソフィーア、鬼畜真面目メイドのアリシア、無口な助手のイザベル、どう考えても厄介な性格の女性しかいない。
そして、ユウキは隣の一人掛けの椅子に鎮座したソフィーヤを気だるげな目線を向けた。
「なにかしら、ユウキ?」
「なにかしらじゃない! なぜ梓先輩が俺の近況を知ってるんだ」
「さっきも言ったとおり、私がアズサに教えたのよ」
こちらの聞きたいことはわかっていてわざとはっきり答えてない。
目の前の挑発的な笑みから何を考えているか大体わかるが、それに乗ることは絶対にしない。
「俺の居場所や生活に関しては少数の限られた人物にしか、教えない契約だったはずだ」
「そうね、当然、最初はアズサに聞かれたのだけれどすべて断っていたわ。でも――」
「私が教えてくれないなら自分で調べるって言ったんだ」
子供ぽい表情でアズサはそう言葉にする。
確かに、彼女なら時間はかかるかもしれないが、きっと簡単に可能にしてしまうだろうということはこの場にいるものはわかっている。
「アズサが調べだしたら必ずばれてしまうから、面倒を起こされる前に条件付きでユウキの近況を教えることにしたの。アズサ以外には他言してないからそこは信じてくれていいわ」
「そうかよ」
罪悪感のかけらもなく人の情報をばらすソフィーアを睨みつけるが、彼女は何も感慨もなくアリシアに注がれた紅茶に口をつける。
ユウキもいつまでもアズサや仲間に居場所を隠しているつもりはなかったのと、アズサがユウキの心配をしてくれたことがわかるためあまり責めることもできないでいる。
「一応私は副部長だからねみんなが元気でやっているか知っておきたくてね」
「先輩にも一応、副部長としての自覚があったんですね」
「私をあの部長と一緒にしないでほしいな~」
「俺からすれば同じようなもんです」
愛想のないユウキの嫌味の言葉もアズサにかかれば嬉しい返しなのか、「失礼しちゃうな」なんて笑って受け流してしまう。
「ところで、アリシアとは上手くやってるみたいじゃない」
私は全てを知っているという顔でソフィーアはユウキに語りかける。
当然、彼女はアリシアを監視という名目でユウキに張り付けた張本人なのだから、アリシアを通じてユウキの近況は全て知っている。
「ありがた迷惑とはまさにこのことですよ。ソフィーア王女殿下」
「あら、あなたの自堕落な生活をサポートしようという親切心で優秀なメイドを宛がったのだけどね」
嫌味込めた敬語に涼しい顔で返すソフィーアにユウキは頬を引きつらせる。
ユウキもアリシアには感謝しなければいけないことは、心の中でわかっているので言い返す言葉が見つからない。
ユウキもソフィーア互いに引く気のない言い合いが始まろうとすると、
「ところでソフィーア王女殿下、ここに集まった理由をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「ナイス、アリー! この二人が言い合いが始まると本当に長いからね。どうせ最後はユウキが折れることになるんだからよせばいいのにね」
アズサに言われたことが本当だったのか「うるせぇ」っと悪態をついてソフィーアから目線を外し、アリシアがタイミングよく注いだ紅茶に手を伸ばした。
こういった子供ぽいところが、アズサやソフィーアに絡まられる原因なのだと考えるているアリシアは主に対して、失礼だが苦笑いせずにはいられなかった。
「教授はユウキさんに何をお頼みしたいんですか」
「そうだった、そうだった。でも正確に言うと私というかソフィーの頼みごとなんだよね」
と言われたソフィーアは綺麗な所作で紅茶を置き、待ってましたといわんばかりの笑みでお願いという名の命令をユウキに下すのだった。
今、ユウキ達は研究所に隣接されている王立魔法学園の校舎内を歩いている。
さすが、王国最高の教育機関である。廊下や壁には【保存】の魔法がかかっているのか歴史ある校舎のわりに綻びや傷みを感じさせない。
王立魔法学園は関係者以外の者は、原則としてこの敷地に踏みいれることすら許されないが、ユウキの前を毅然とした態度で歩く王女殿下がすでに許可を取り付けていた。
それもそのはず、この魔法研究所と王立魔法学園の警備は、アルダートン騎士団の管轄なのだから。
「全く、職権乱用もいいところだ」
「職権乱用? なんのことかわからないわ。私は正式な手続きをして許可をとったのよ」
「普通ただの冒険者とメイドが研究所にだって容易に入れるはずがないのに、今度は王立魔法学園の敷地に入るなんて権力以外なにを使ったと言い訳するつもりだ」
「私はユウキをただの冒険者なんていう低いレベルで見たことはないわ。だから、今回の話をアズサを通じてあなたにお願い《・・・》をしたのだから」
「お前はお願いという単語を辞書で引いて勉強し直した方がいい」
いつものユウキの皮肉にも覇気がなく、すでにアズサの挑発に乗って研究所に行ったことに後悔していた。ソフィーアからのお願いと聞いた時点で死んでも逃げ出すべきだったのだ。
ここにユウキを呼んだ理由を話すためにティーカップ置いたソフィーアはユウキ体を向けた。
「あなたに王立魔法学園で教師をやってもらいます」
静寂が部屋に広がる。
目の前の女が何を言っているの理解できなかったが、ユウキの答えは最初から決まっている。
「断る」
そう言った瞬間、ソフィーアの前からユウキが逃げ出した。
しかし、彼女にとってはユウキが逃亡するであろうことは、簡単に予想がついていた。だからこそ、アズサの家を交渉に場所に選んだのだ。
「アズサ! ユウキを逃がさないで!」
「はいよー、【聖なる鎖】」
アズサが指先を振った瞬間、玄関付近で大きな物が倒れる音が家全体に響いた。
部屋の扉からアリシアが顔を出すと、光る鎖に雁字搦めにされてもがいている情けない元勇者が視界に入る。
「あなたには、断る権利があるわ。だけど、その変わりあなたは契約通りこの金額を払ってもらうわ」
ソフィーヤはユウキ見下ろしながら言うと、金額がかかれた羊皮紙を転がっているユウキに見せる。
その羊皮紙見たユウキの顔は驚きのあまり空いた口がふさがらなかった。
そして、羊皮紙にはこう書かれている。
『ユウキ・セナ様
王家に対する借入金
現在 金貨四十七枚』
「おいおい、なんの冗談だ」
半笑いするユウキは、一瞬これは捏造ではないかと疑ったが、羊皮紙の金額の横に押してある王家の印がその疑いを晴らしてしまう。
そして、止めとばかりにソフィーアはもう一枚の羊皮紙を取り出し、ユウキの前で読み上げた。
ユウキとって見覚えがある羊皮紙は三ヶ月前にユウキが王家と交わした契約書。
「契約書には、勇者ユウキがしっかり定職に就くまでお金の援助を行うが、定職に就いた暁には屋敷以外にかかった代金はすべて返金してもらうこととする。なお返済期限は定職についてから一年後の月末とする」
「俺はそんな契約内容だとは知らされてないぞ」
「私は最終確認して契約書にサインしてと言ったわ」
「こんなことが認められるか、第一こんなに俺は使い込んだ思いはないぞ」
冷や汗が額から垂れる。
「これがユウキにかかった費用のリストよ」
廊下に這いつくばるユウキに見えるようにしゃがんで用紙を見せる。
その中には、覚えがあるものからないものまで存在する。
「勇樹~もうあきらめた方がいいと思うよ」
「私もそのように思います」
もうことに及んでは逃げ道はない。
ユウキは完全敗北を認めるしかなかった。
ユウキ達は、学園長室と書かれたプレートが飾られている扉の前に足を止めていた。
「本当に俺が教師を受ければあの契約書は、白紙になるんだな」
ユウキの隣に並ぶソフィーアに改めて尋ねた。
「ええ、私に二言はないわ。とりあえず、一年間教師として働いてくれればあの契約書は白紙にするわ」
ソフィーアは自信を持ってユウキに答える。
(くっそ~やっぱり面倒なことになった。俺に教師なんて勤まるわけがない)
「では、さっそく学園長に会って詳しいことを決めましょう」
もはや逃げることはできない。
威風堂々たる姿で扉を開けようとする彼女に対して、これから自分にかかる面倒事に溜息がこぼさずにはいられなかった。
やっと書くことができました。
就職して忙しくて書くことできませんでした。これから頑張って書いていきたいと思います。




