一章 5 盗撮魔の流儀
「獅子丸さん!ここにいたのですか?」
教頭と担任の美月先生がE組の入り口で怒っている。
「美月か、どうだ?これから飯でもいかないか?」
「……はっ?」
「君!なにを言っているのだ」
教頭が怒りまくっているな。
「え〜獅子丸っち浮気〜」
優希が袖を引っ張りこっちを見ている。
「優希、君はまだ子どもだ……大人の世界はまだ早い」
俺様はできる限り優しく、そしてハードボイルド風に告げた。
「え〜ウケんだけどぉ」
「君も子どもでしょ!」
美月先生が俺様の腕をひっぱり、連行されてしまった。
「じゃあな!獅子丸」
「ははっお達者で〜」
(溝口だけじゃない。教師にも澪へ絡む奴がいるのか)
「獅子丸さん!」
「ん?魅力的だと思うぞ?」
「そんなこと聞いていません!」
「勝手に違うクラスに行っちゃだめでしょ?」
教頭のおっさんも怒っている。
「そうだぞ。松丸くん、他のクラスの授業を邪魔したりしたらダメだぞ」
その後、なにか色々教頭は言っていたが、全く記憶に残っていない。
◇
B組に戻された……
澪がこっちを見ている。
ん?見ている?
(そうか、本人に聞けばよい。なにも頭の悪そうなパイナップルに聞く必要はない)
澪の所に歩いていく。
「こら、獅子丸さん、急にウロウロしないで!」
「む?」
「座る!」
澪が驚いた目で見ているな。
「あと、少しで給食だから座っていなさい」
◇
「えっと……」
「なんだ」
「なんで獅子丸くんが富野さんの席に……」
「うむ。変わってもらった」
(澪……改めて見ると、成長したな)
「なんで、向かい合わせで……」
「そんなことよりな!」
「うん」
「芝岡のことで——」
(ん?澪の反応が変わったぞ。明らかに目線を逸らした)
「困っていることがあれば、相談に乗ってやろう」
「なにもない……」
「大丈夫だ、俺様がいれば全部解決できる!」
「なにもないって!」
澪は立ち上がり大きな声で言った。
クラスの皆の視線が一斉に集まった。
それを一瞥すると、ゆっくりと澪は座り、落ち着いてこちらを向き話を始めた。
「獅子丸くんこそ……なんか変だよ」
「……」
「いつもの気が弱いけど、優しい獅子丸くんかと思えば」
「……」
「突然、自信満々の獅子丸くんになる」
「最近、変だよ……心配なのは君のほうだよ」
(見逃せない表情があった。あれは嫌悪じゃない、恐怖の目だ)
「そう。最近どっちが女子ウケが良いか試しているのだ」
「女子ウケ?」
「優しい系獅子丸と、ナイス・ガイ系獅子丸だ」
「ナイス・ガイ?今が?」
「そうだ」
「おっさんぽいけど」
「えっ?マジ?」
「ぷっ、マジ」
澪は初めて笑った。
(その笑顔だけは、四歳のままだな)
「さてと、一緒に飯を食えて良かった」
「おっ、これ片付けといて」
立ち上がって隣にいた女の子に給食を渡した。
「なんで、私が……」
「近くに可愛い子が君しか見当たらなかったからな」
「かわっ……今回だけだからね」
そう言うと片付けてくれた。
「はー」
澪が目を丸くして様子を見ていた。
「どこか行くの?」
「あーパイナップルのところだ」
「パイナップル?あぁ、豪樹君のところね」
「ごうきだと!」
「幼馴染でしょ?忘れたの?やっぱ変だなぁ」
ここにいるべきではないな。ボロを出さない自信がなくなってきた。
◇
「!!!!!!」
「獅子丸くん?」
「戻りなさいっ!」
五時間目、豪樹ことパイナップルに聞きたいことがあったが、まさか美月先生の授業だったとは。仕方がない、放課後に聞くことにしよう。
その前に!
技術室に侵入するべきだ。
これだ、これが近い。
固定する用の小さなサイコロのような木と、薄い板を物色する。
◇
「おう、待たせたな」
「普通聞きたいことある側が遅れてくるか?」
パイナップルが呆れた顔をしているが、そんなことはどうでもよいのだ。
「澪について詳しく知っているやつは?」
「え〜しらな〜い」
なっ、いつの間にギャル姉ちゃんが背後に。
「優希か、水樹に聞けばいいんじゃね?」
「ダメだよ〜あいつ澪の話になると機嫌が悪くなるから、しかも最近とくにねぇ……」
やはり中坊の情報なんてこんなもんか……
「あー!あいつは?」
優希が突然、校門へ向かう男子生徒を指した。
「尊かぁ、ぷっ、確かに知ってそう」
パイナップルが笑っている。
「あんな子どもがなぜ澪のことを?」
「いやね」
二人は笑って目を合わせている。
早く言うのだ。
「あいつ、この前まで鑑別入っててね?」
「くはー、笑える!ガッハッハ」
このガキどもめ!中坊に付き合いきれんぞ。
「要点だけ言え!要点!」
ようやく爆笑していた二人の笑いも少し止み、優希が答えた。
「要点?あーね。あいつ学校中の女の子盗撮して件数多すぎて……プックック——一発で鑑別送られて始業式もいなかったんだよ」
「そうそう!やべーよな?あいつ!」
「あいつなら知ってんじゃね?」
そうか。一応聞いてみるか。
「おい!そこの少年!」
「えっ?」
盗撮魔は怯えた顔でこっちを見たと思ったら、突然ダッシュで校門へ向かった。
「おっおい!」
咄嗟に追いかける。
「わぁーわぁー」
盗撮魔が大声を上げて逃げてゆく。
「くっ……遅い、この身体じゃ、あんなのにも」
そう考えていると、横をスッと追い越していくヤツがいた。
なっ……パイナップル?
「つっかまーえた!」
校門の手前で飛びかかり、盗撮魔とパイナップルは、倒れた。
「ハァハァ、なんで逃げんだよ」
なんて疲れやすい身体だ。そう思いながらもなんとか聞いた。
「すいません!すいません!お金は今、七万くらいしかありません!すいません」
「いやいや、金が欲しいわけじゃないぞ、ってか、お前、コイツから金もらってんのか?」
パイナップルの顔を見ると、首を何度も振って言った。
「いやいや、やらねーよ。コイツの親、うちの親とも仲いいんだぜ?」
「そうか……すまんかった。尊、お前に聞きたいことがある」
「獅子丸くん?ああ、なんだい?」
「お前、学校中の女子を盗撮してたんだろ?」
「……まあ」
「なら、澪も撮ってるな?」
「獅子丸、流石に押収されてんだろ?」
パイナップルが肩を竦めた、その瞬間。
「そんな素人と一緒にするな!」
突然、盗撮魔は立ち上がり怒り出した。
「そうか……押収はされてないんだな」
「押収はされたよ。でもバックアップくらいするだろ?素人じゃあるまいし」
振り向くと二人はイヤイヤというジェスチャーをしている。
「最近のでも昔のでもいい。妙なものが映ってないか確認したい」
「——」
盗撮魔はピタッと止まり、こっちを真剣な目で見ている。
「どうなんだ!」
「……あるよ」
パシンッ!
思わず盗撮魔の頭を叩いてしまった。
「ぐはっ!なんだよ!聞いたからちゃんと答えただろ!?」
「すまん、条件反射だ!」
「でも、獅子丸くんが怒るのもわかるよ、ごめん……」
「どういう意味だ」
「見るのかい?いや……見るよね……止めても」
「!?」
「いつも一緒に帰ってたもんね。阪本さんと」
「はっ?コイツがか?」
三人を一瞥すると、沈黙が漂っている。
「いや、気にしなくてよい、見せろ」
「覚悟してよ、これは押収もされていない、データだから」
◇
盗撮魔の家に四人で行くことになった。親の問題だかなんだかで、今は一人暮らしをしているらしい。
「この端末のことは誰も知らない。これで見るよ」
そう盗撮魔は電源を入れた。
タタタッタタタタッ
「コレだよ」
映像は夜?いや時刻は、季節からして午後六時くらいだろう。
辺りは暗く、最初は二人の影しか見えなかった。だが、オートISOが働くにつれて、輪郭が浮かび上がってくる。
「いやです、無理です」
「それだと、養護施設の人に言って、転校させるしかないよ」
「本当にやめてください……悪いことしたのなら謝りますから……」
男が一歩、澪へ近付いていく。
ガサッガサッ
「キャッ」
「声を上げるな!殺すぞ!」
「うっ」
まさか……
ガタンッ
「誰だ!」
ダッタッタッタッ
そこから先は、盗撮魔が逃げていく足音と、激しく振り回される映像だけだった。
四人とも何も言えない時間が続き、最初に口を開いたのは優希だった。
「ひどい……」
続いて目を背けていたパイナップルも、「見てられねーよ」と呟いた。
「……」
「コイツが、芝岡か?」
「うん」
「なぜ、警察には?」
「脅されていたんだ、データを渡せと、芝岡に」
「だけどこうして、予備データが残っている、僕の持っているカメラはメモリーカードが二枚入るタイプ」
「言い出すまでの勇気は、なかったんだ……ごめん」
「いや、お手柄だ」
「因みにこれで抜いてないよな?」
「馬鹿にするな!僕は明るく元気な女の子を盗撮したいのだ!」
「わかった、信じるよ」
そう言い、盗撮魔の肩をポンッと叩いた。




